知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

実用新案権の移転登録手続請求

2007-07-31 06:15:36 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)1623
事件名 実用新案権確認反訴請求事件
裁判年月日 平成19年07月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 設樂隆一

『(2) 実用新案法(以下「法」という。)は,考案者がその考案について実用新案登録を受ける権利を有するとし(法3条1項柱書),また,冒認出願は先願としては認めず(法7条6項),冒認出願者に対して実用新案登録がされた場合,その冒認出願は無効理由となる(法37条1項5号)と規定している。また,法は,考案者が冒認出願者に対して実用新案権の移転登録手続請求権を有する旨の規定をおいていない。そして,実用新案権は,出願人(登録後は登録名義人となる。)を権利者として,実用新案権の設定登録により発生するものであり(法14条1項),たとえ考案者であったとしても,自己の名義で実用新案登録の出願をしその登録を得なければ,実用新案権を取得することはない。
 このような法の構造にかんがみれば,法は,実用新案権の登録が冒認出願によるものである場合,実用新案登録出願をしていない考案者に対し実用新案登録をすることを認める結果となること,すなわち,考案者から冒認出願者に対する実用新案権の移転登録手続請求をすることを認めているものではないと解される。

(3) 上記のような法の構造と同様の構造をもつ特許法に関する事案において,特許を受ける権利の共有者(真の権利者)から,特許権者(当該特許権に関する登録名義人)に対する移転登録手続請求を認めた最高裁判決(最高裁平成13年6月12日第三小法廷判決・民集55巻4号793ページ)は,次に述べる理由により,本件のような事案についてその射程が及ぶものではないと解される。
すなわち,上記最高裁判決における事案は,真の権利者が他の共有者と共同で特許出願をした後に,冒認出願者が,真の権利者から権利の持分の譲渡を受けた旨の偽造した譲渡証書を添付して,出願者を真の権利者から冒認出願者に変更する旨の出願人変更届を特許庁長官に提出したため,冒認出願者及び他の共有者に対して特許権の設定登録がされたという事案である。このような事案においては,真の権利者から冒認出願者に対する特許権の共有持分移転登録手続請求を認めたとしても,当該特許権は,真の権利者がした特許出願について特許法所定の手続を経て設定登録がされたものであって,真の権利者が有していた特許を受ける権利と連続性を有し,それが変形したものであると評価することができるから,真の権利者が行った特許出願に対して特許がされたとみることができ,特許法の構造と整合性を欠くことにはならない。これに対し,本件は,真の権利者と主張する反訴原告自身は実用新案登録出願を行っていないのであるから,このような自ら出願手続を行っていない者に対し実用新案権を付与する結果を導くことは,(2)記載のような法の構造に反するものである。したがって,本件における反訴原告による本件実用新案権の共有持分権移転登録請求については,上記最高裁判決の射程は及ばないといわざるを得ない。』

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