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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

具体的表現が相違するが普遍的な課題を対象としているとして組み合わせを認めた事例

2011-01-31 22:06:32 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10034
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
(イ) 引用例においては,引用発明の実施例として,一対のロボットを搬送チャンバ内に配置する構成について開示しており,かかる実施例においては,チャンバ内の床と天井が,アームが取り付けられる支持部材に相当するものということができる。
 また,引用発明の特許請求の範囲においては,アーム部やハンド全体が上下移動する構成を排除されているものではなく,引用例にも,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されているものである。

 そうすると,当業者が,引用例の記載から,引用例の実施例において開示された搬送チャンバ内に上下一対に配設されたロボットにつき,「ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能」を有する構成として,搬送チャンバとは無関係に,アーム部とハンド部とを,支持部材を介して周知技術であるコラム型の上下昇降機構に組み合わせることは,容易であるということができる。

 この点について,被告は,引用発明は,ロボットを横方向に2台並べることによる基板処理装置の大型化という課題を解決するために,ロボットのアームを搬送チャンバの天井と床とにそれぞれ対向するように設けたにすぎず,支持部材を上下に移動させてチャンバ以外において使用することを想起することは困難であるなどと主張する。

 しかしながら,本件明細書及び引用例における課題に関する具体的表現が相違するとしても,本件発明及び引用発明は,いずれも産業用ロボットにおいて普遍的な課題というべき省スペース化や可動範囲の拡大を目的とするものである。
 また,周知例3においても,同様の課題が明示されており,シングルアーム型ロボットであっても,ダブルアーム型ロボットであっても,かかる課題は共通であるから,本件審決のように,引用発明について,「二組のアームを有する特別な用途」のものと理解し,シングルアーム型ロボットに適用するための「特別な動機」が必要となるものではない

 さらに,先に指摘したとおり,引用例にも,ハンドがアーム部に対して昇降する機能や,アーム部及びハンド全体が昇降する機能が明示されている以上,被告の主張はその前提を欠くものである。
 被告の主張は採用できない。

過度の試行錯誤を強いるとして実施可能性を否定した事例

2011-01-31 21:42:33 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10105
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判 塩月秀平

 そうすると,「等容積プロセス」の後に「等温(燃焼)プロセス」を行うことの変形例として等容積プロセスの終了点における圧力に対する80%や90%の圧力を設定して,本願明細書に開示されている実質的等容積プロセスの後に等温(燃焼)プロセスの燃焼サイクルに用いられている条件や式を用いて,上記圧力を維持して最高燃焼温度3300゜Rまで増加させる「定圧力プロセス」を行い,次に最高燃焼温度3300゜Rにおける「等温(燃焼)プロセス」を行うための導入タイミングや導入燃料量,各プロセスの開始前,終了後のT(温度),圧力(P),V(容積)といった具体的な条件を設定することが,本願明細書に開示されているということはできない

(2) 原告が主張するように本願発明の燃焼サイクルの各プロセスにおける容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)が計算できたとしても,依然として,各プロセスを生じさせる燃焼噴射タイミングや,各噴射タイミングにおける燃料噴射量をどのように決定するのかが不明である。
 ・・・
 すなわち,本願発明の各プロセスでの容積V,圧力P,温度T,及びタイミング(クランク角)については,所望する値を算出することは窺い知ることができたとしても,そのような値となる各プロセスを実現するための各燃料噴射タイミングと各燃料噴射タイミングにおける噴射量を決定することについては,当業者に過度の試行錯誤を強いる

(3) 以上より,発明の詳細な説明に当業者が容易に本願発明を実施をすることができる程度に発明の構成が記載されているとはいえないとした審決の判断に誤りはない。

自動公衆送信の主体の定義を示し、1対1の送信を公衆送信とした事例

2011-01-19 07:13:18 | Weblog
事件番号 平成21(受)653
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月18日
法廷名 最高裁判所第三小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
裁判長裁判官 田原睦夫
裁判官 那須弘平, 岡部喜代子, 大谷剛彦

(1) 送信可能化権侵害について
ア 送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
 自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

イ そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。

ウ これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。

 そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。

原審

(疑問点)
「単一の機器宛てに送信する機能しか有しない」場合は仮想的に一本の線で繋がっているに等しいから、そのような状態での送信を「公衆送信」としてよいか。サービス利用者は被上告人と自由に契約できるので不特定の者として公衆にあたるというが、一本の線(専用線)を張り送信する場合でも、不特定の者と張る契約ができる状態であれば公衆送信に当たるというに等しく、行き過ぎではないか。

意匠法4条の解釈-期間外に提出された新規性喪失の例外証明書

2011-01-16 15:56:44 | Weblog
事件番号 平成22(行コ)10004
事件名 異議申立棄却決定取消請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 意匠権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第2 事案の概要(略称は,原判決の略称に従う。)
1 本件は,原審において,控訴人が,意匠登録出願に関し,意匠法4条3項に規定する新規性喪失の例外証明書を,同条項に規定する「意匠登録出願の日から30日以内」の最終日の翌日に提出したところ,特許庁長官から,・・・,平成21年2月20日付けで手続却下の処分(本件却下処分)を受けたので,これに対する異議申立てをしたが,同年8月28日付けで異議申立てを棄却する決定(本件棄却決定)を受けたため,本件却下処分の違法を主張して,本件棄却決定の取消しを求めた事案である。

原判決は,本件棄却決定の取消しを求める本件訴えにおいては,行政事件訴訟法10条2項の規定により,本件棄却決定の違法事由として控訴人が主張し得るのは,本件棄却決定の固有の違法事由(瑕疵)に限られるところ,控訴人は,本件却下処分の違法を理由として本件棄却決定の取消しを求めるものであって,本件棄却決定に取消しの理由となるべき違法事由があるとは認められないから,本件棄却決定は適法であるとして,控訴人の請求を棄却した。
 なお,原判決は,念のため,控訴人の主張する本件却下処分の違法についても検討し,これを適法であるとした。
 控訴人は,これを不服として控訴するとともに,当審において,原審における主張を踏まえて,本件却下処分の取消しを求める請求を追加した。
・・・

第4 当裁判所の判断
・・・
2 争点2(本件却下処分は取り消されるべきものか否か)につい
・・・
 この点について,控訴人は,当審において,旧規則41条は,例外証明書の提出期間を出願時と定めたものであって,旧特許法,旧規則においても,例外証明書の提出期間等が明文で定められていたものである,最高裁昭和45年判決は,「最長想定出願期限」,「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としている,例外証明書の提出期限が,旧特許法ではなく,旧規則により規定されているとの一事をもって,最高裁昭和45年判決を無視し,意匠法4条に関し,杓子定規の文理解釈をすると,意匠法4条改正による出願人の保護強化の趣旨を没却させるなどと主張する。
 しかしながら,旧規則41条は,例外証明書を願書に添付することを定めたのみで,その提出期限まで明文で定めていなかったからこそ,最高裁昭和45年判決が指摘するとおり,出願自体が許される期間までであれば,上記証明書の追完を認める余地があるにすぎず,最高裁昭和45年判決は,意匠法4条のように,出願自体に一定の期間を設けた上で,さらに出願時から一定期間について例外証明書の提出期間を定めた場合において,出願が許される期間と例外証明書の提出期間とを通算して,明文規定により許された期間を逸脱した「最長想定証明書提出期限」なる概念を前提としたものということはできない
 また,意匠法4条は,6か月の出願期間に加え,出願から30日の例外証明書提出期間を設けているところ,出願期間の範囲内において,出願人自らが出願日を任意に選択し得るのであるから,その出願日から30日以内に例外証明書の提出を要求したからといって,出願人の保護に欠けることはない。

容易想到性の判断手法

2011-01-16 15:02:02 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10229
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 審決は,刊行物1(甲1)を主引用例として刊行物1記載の発明を認定し,本願発明と当該刊行物1記載の発明とを対比して両者の一致点並びに相違点1及び2を認定しているのであるから,甲2及び甲3記載の周知技術を用いて(・・・),本願発明の上記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であるとの判断をしようとするのであれば,刊行物1記載の発明に,上記周知技術を適用して(・・・),本願発明の前記相違点1及び2に係る構成に想到することが容易であったか否かを検討することによって,結論を導くことが必要である。

 しかし,審決は,相違点1及び2についての検討において,逆に,刊行物1記載の発明を,甲2及び甲3記載の周知技術に適用し,本願発明の相違点に係る構成に想到することが容易であるとの論理づけを示している(審決書3頁28行~5頁12行)。
・・・ そうすると,審決は,刊行物1記載の発明の内容を確定し,本願発明と刊行物1記載の発明の相違点を認定したところまでは説明をしているものの,同相違点に係る本願発明の構成が,当業者において容易に想到し得るか否かについては,何らの説明もしていないことになり,審決書において理由を記載すべきことを定めた特許法157条2項4号に反することになり,したがって,この点において,理由不備の違法がある。

 これに対し,被告は,審決では,・・・,刊行物1記載の発明と上記従来周知の金型とを組み合わせて1つの発明を構成するに当たり,刊行物1記載の発明を上記金型に適用しても,上記金型を刊行物1記載の発明に適用しても,組み合わせた結果としての発明に相違はないから,理由不備の違法はないと主張する。
 しかし,被告の上記主張は,採用の限りでない。
 すなわち,仮に,審判体が,本願発明について,当業者であれば,金型に係る特定の発明を基礎として,同発明から容易に想到することができるとの結論を導くのであれば,金型に係る特定の発明の内容を個別的具体的に認定した上で,本願発明の構成と対比して,相違点を認定し,金型に係る特定の発明に,公知の発明等を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成に想到することが容易であったといえる論理を示すことが求められる
 金型に係る特定の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合は,刊行物1記載の発明を主引用例発明として用い,これを基礎として結論を導く場合と,相違点の認定等が異なることになり,本願発明の相違点に係る構成を容易に想到できたか否かの検討内容も,当然に異なる。
 そうすると,刊行物1記載の発明を主引用例発明としても,従来周知の金型を主引用例発明としても,その両者を組み合わせた結果に相違がないとする被告の主張は,採用の限りでない。

特許法195条2項(別表11)の規定の趣旨

2011-01-16 14:44:32 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10208
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 原告は,本願の請求項2は,請求項1に従属しない独立した請求項であるから,これを審理の対象外とする合理的な理由はなく,また,審判請求時に請求項の数に応じた審判請求料の納付を求める特許法195条の立法趣旨からみても,請求項2に係る発明に対する審理,判断をすべきであるのに,審決は本願の請求項1に係る発明に対してのみ審理判断をし,請求項2に係る発明に対する審理,判断を遺脱したから,誤りであると主張する

 しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用の限りでない。
 すなわち,拒絶査定を受けた出願人が,基本手数料額に,請求項数に一定額を乗じた額を加えた額の手数料を納付しなければ拒絶査定不服審判を受けることができないとの特許法195条2項(別表11)の規定は,特許がされる場合にはすべての請求項について審理判断がされることに対応するものであると解すべきである。同規定があるからといって,特許出願に係る発明中に特許をすることができないものがあるときに,その特許出願を全体として拒絶することについて,妨げとなるものではない(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10020号平成20年6月30日判決,最高裁判所平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 本願の請求項1に係る発明が特許法29条2項の規定に該当して特許を受けることができないものであるときは,本願の請求項2に係る発明がたとえ独立の請求項であって特許性を有する場合であったとしても,その請求項2に係る発明について審理判断するまでもなく,本願は,全体として拒絶されるべきものといえる。

無効審判事件の訂正請求が確定していない場合の法104条の3第1項の判断

2011-01-11 21:51:54 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)3409
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

1 第2の1「争いのない事実等」(7)に記載のとおり,被告方法は本件発明の技術的範囲に含まれると認められる(なお,この点については,当事者間に争いはない。)。

 被告は,第3「争点に関する当事者の主張」1ないし4の〔被告の主張〕に記載のとおり,本件発明は進歩性を欠き特許法29条2項に違反して特許されたものである(争点1-1),本件発明は先願発明と同一であり特許法29条の2に違反して特許されたものである(争点1-2),本件発明に係る本件明細書の記載は改正前特許法36条4項に違反するものである(争点1-3),並びに,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は特許法36条6項1号に違反するものである(争点1-4)として,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであると主張する

 ところで,本件特許については,その無効審判事件(無効2009-800082号)において,本件訂正の請求がされており,同訂正はいまだ確定していない状況にある。このような場合において,特許法104条の3第1項所定の「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるとき」とは,当該特許についての訂正審判請求又は訂正請求に係る訂正が将来認められ,訂正の効力が確定したときにおいても,当該特許が無効審判により無効とされるべきものと認められるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。

したがって,原告は,被告が,訂正前の特許請求の範囲の請求項について無効理由があると主張するのに対し,①当該請求項について訂正審判請求又は訂正請求をしたこと,②当該訂正が特許法126条又は134条の2所定の訂正要件を充たすこと,③当該訂正により,当該請求項について無効の抗弁で主張された無効理由が解消すること,④被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に属すること,を主張立証することができ,被告は,これに対し,訂正後の請求項に係る特許につき無効事由があることを主張立証することができるというべきである

相違点の解決課題を想定しない副引用例

2011-01-10 21:26:35 | Weblog

事件番号 平成22(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


・・・本願発明は,上記問題を解決するため,トラクションシーブの被覆材が消失したり,損傷を受けたりするという異常事態となった場合,エレベータを最適な形で長時間運転させるということではなく,必要な期間だけ安全に動作させることを目的として,トラクションシーブと巻上ロープとの間に十分な把持力が得られるように選択された材料のペアを形成する(段落【0004】【0006】)。かかる材料のペアによれば,トラクションシーブの被覆材が消失したり,損傷を受けたりするという異常事態においても,巻上ロープは,トラクションシーブに食い込むため,トラクションシーブと巻上ロープとの間に十分な把持力が得られ,エレベータの機能及び信頼性が保証される上,トラクションシーブに使用する材料を巻上ロープの材料より柔軟にすると,巻上ロープ自体が損傷を受ける可能性が相当小さいため,多くの場合,トラクションシーブを交換すればよく,巻上ロープを交換する必要がないため,相当にコストが削減できるという効果を奏する(段落【0006】【0007】)。
・・・
 他方,前記(2)によれば,引用文献1記載の発明2は,トラクションシーブの表面の被覆材が失われた場合に,巻上ロープがトラクションシーブに入り込んで把持力を確保し,トラクションシーブと巻上ロープが共同して安全確保手段を形成する点では,本願発明と一致しているものの,その構成は,U字形ないしV字形のトラクションシーブ溝の接触部で,くさび効果により,ロープとの強い摩擦力を得ることにより,エレベータの落下事故などを防止するものであって,「材料のペア」及び「即時のトラクションシーブの変形」に関する技術思想の記載又は開示はない
 また,前記(3)によれば,引用文献2記載の技術においては,トラクションシーブの表面に被覆材がなく,トラクションシーブの溝の側面のみが,常にロープと接触する溝形状としたエレベータにおいて,巻上ロープ外層線がシーブとの繰り返し接触により徐々に塑性変形し,表面層が加工硬化してもろくなり,やがて断線に至ることを防止し,より耐摩耗性を高めることを解決課題として,シーブ及びロープの硬度を所定以上のものとする等の構成を採用したものである。

 以上のとおり,本願発明は,異常事態が発生した場合に,巻上ロープをトラクションシーブに食い込ませ,シーブとロープとの間に十分な把持力が得られるようにして,エレベータの機能及び信頼性を保証させるものであり,異常事態が発生したときにおける,一時的な把持力の確保を図ることを解決課題とするものである。また,引用文献1記載の発明2も,本願発明と同様に,何らかの原因よって高摩擦材が欠落するような異常事態が生じた場合を想定し,その際,ワイヤロープがU字形またはV字形のトラクションシーブ溝の接触部で接触し,この部分で摩擦力を得ることによって,エレベータ積載荷重を確保させることを解決課題とする発明である
 これに対して,引用文献2記載の技術は,上記のような異常事態が発生した場合における把持力の確保という解決課題を全く想定していない。そうすると,本願発明における引用文献1記載の発明2との相違点に関する構成に至るために,引用文献2記載の技術を適用することは,困難であると解すべきである。

私的録音録画補償金制度の趣旨に妥当しない「特定機器」

2011-01-10 20:25:37 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)40387
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(b) また,被告の上記主張が,地上デジタル放送において著作権保護技術(平成20年7月4日以降はダビング10)による複製の制限が行われている現状を前提に,そのような現状の下におけるデジタル放送のみを録画することが可能なアナログチューナー非搭載DVD録画機器には,私的録音録画補償金制度の趣旨は妥当しないから,アナログチューナー非搭載DVD録画機器は法30条2項及び施行令1条2項3号の特定機器には含まれない旨を述べるものであるとすれば,そのような主張は,法令解釈の枠を超えたものというほかない

 すなわち,施行令1条2項3号が規定する特定機器の範囲は,同号を施行令に追加した平成12年改正政令が公布された平成12年7月14日の時点において客観的に定まっていなければならないのであり,同号は,このように特定機器の範囲を客観的に特定するための要件を,当該機器に係る録画の方法,標本化周波数,記録媒体の技術仕様等の技術的事項によって規定していることは明らかである。

 ところが,被告の上記主張は,平成15年12月1日に地上デジタル放送が開始され,その中で,地上デジタル放送について平成16年4月5日からはコピー・ワンス,平成20年7月4日からはダビング10による複製の制限が行われているという事実,すなわち,施行令1条2項3号制定後に生じた事実状態のいかんによって,同号が規定する特定機器の範囲が定まるとするものにほかならないものであり,結局のところ,被告の上記主張の実質は,施行令1条2項3号が規定する特定機器の要件(上記技術的事項)に該当するものであっても,同号制定後の地上デジタル放送における著作権保護技術の運用の実態の下では,私的録画補償金の対象とすべき根拠を失うに至ったから,同号の特定機器からこれを除外するような法又は施行令の改正をすべきである旨の立法論を述べるものにすぎないといわざるを得ない

廃墟写真の先駆者の営業上の利益は法的保護に値する利益か

2011-01-10 13:43:23 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)451
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

原告は,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,一般には(少なくとも作品写真の被写体としては)全く知られておらず,それらの存在を認識し,かつ,それらに到達して作品写真に仕上げるまでに,極めて特殊な調査能力と膨大な時間を要していること,このノウハウと作品写真に仕上げるまでに要した多大な労力を根拠に,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されることによって生ずる営業上の利益,すなわち,当該廃墟を作品写真として取り扱った先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益は,法的保護に値する利益であり,具体的には,・・・こととなるが,そのような原告の地位は,多大な費用と労力をかけて被写体たるに相応しい廃墟を発掘するプロの写真家たる原告にとって,投下資本の回収可能性を支えるものであり,このような意味での営業上の利益である旨主張する。

 しかしながら,「廃墟」とは,一般には,「建物・城郭・市街などのあれはてた跡」をいい(広辞苑(第六版)),このような廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体は,当該廃墟が権限を有する管理者によって管理され,その立入りや写真撮影に当該管理者の許諾を得る必要がある場合などを除き,何人も制約を受けるものではないというべきである

 このように廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体に制約がない以上,ある廃墟を最初に被写体として取り上げて写真を撮影し,作品として発表した者において,その廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限したり,その廃墟写真を作品として発表する際に,最初にその廃墟を被写体として取り上げたのが上記の者の写真であることを表示するよう求めることができるとするのは妥当ではない

 また,最初にその廃墟を被写体として撮影し,作品として発表した者が誰であるのかを調査し,正確に把握すること自体が通常は困難であることに照らすならば,ある廃墟を被写体とする写真を撮影するに際し,最初にその廃墟を被写体として写真を撮影し,作品として発表した者の許諾を得なければ,当該廃墟を被写体とする写真を撮影をすることができないとすることや,上記の者の当該写真が存在することを表示しなければ,撮影した写真を発表することができないとすることは不合理である。

 したがって,原告が主張するような,廃墟写真において被写体となった「廃墟」を最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されるこによって生ずる営業上の利益が,法的保護に値する利益に当たるものと認めることはできない。

原告商品陳列デザインは「商品等表示」に該当するか

2010-12-29 14:17:29 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)6755
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二

1 争点1(原告商品陳列デザインは周知又は著名な原告の営業表示であるか)について
(1)ア 原告は,原告商品陳列デザイン1ないし3は,いずれも他店にない独自のものであって本来的な識別力があり,またベビー・子供服販売の業界トップの原告が長年にわたり使用してきたことから,二次的出所表示機能も十分獲得しているとした上で,主位的にはそれぞれ独立して,第1次予備的に原告商品陳列デザイン1及び2の組み合わせにより,第2次予備的に原告商品陳列デザイン1ないし3の組み合わせにより,原告の営業表示として周知又は著名であることを前提に,被告の行為が不正競争防止法2条1項1号又は2号に定める不正競争に該当する旨を主張している。

 本件における原告の不正競争防止法に基づく主張が認められるためには,主張に係る原告商品陳列デザインが,不正競争防止法2条1項1号又は2号にいう商品等表示(営業表示)であることがまず認められなければなないが,そもそも商品陳列デザインとは,原告も自認するとおり「通常,・・・,などの機能的な観点から選択される」ものであって,営業主体の出所表示を目的とするものではないから,本来的には営業表示には当たらないものである(・・・。)。

イ しかし,商品陳列デザインは,・・・,本来的な営業表示ではないとしても,顧客によって当該営業主体との関連性において認識記憶され,やがて営業主体を想起させるようになる可能性があることは一概に否定できないはずである。
 したがって,商品陳列デザインであるという一事によって営業表示性を取得することがあり得ないと直ちにいうことはできないと考えられる。

ウ ただ,商品購入のため来店する顧客は,売場において,まず目的とする商品を探すために商品群を中心として見ることによって,商品が商品陳列棚に陳列されている状態である商品陳列デザインも見ることになるが,売場に居る以上,・・・など,売場を構成する一般的な要素をすべて見るはずであるから,通常であれば,顧客は,これら見たもの全部を売場を構成する一体のものとして認識し,これによって売場全体の視覚的イメージを記憶するはずである。

 そうすると,商品陳列デザインに少し特徴があるとしても,・・・,それは売場全体の視覚的イメージの一要素として認識記憶されるにとどまるのが通常と考えられるから,商品陳列デザインだけが,売場の他の視覚的要素から切り離されて営業表示性を取得するに至るということは考えにくいといわなければならない。

 したがって,もし商品陳列デザインだけで営業表示性を取得するような場合があるとするなら,それは商品陳列デザインそのものが,本来的な営業表示である看板やサインマークと同様,それだけでも売場の他の視覚的要素から切り離されて認識記憶されるような極めて特徴的なものであることが少なくとも必要であると考えられる。

商法512条の規定に基づく報酬金の請求を否定した事例

2010-12-29 12:06:46 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)8813
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(2)(原告が被告に対し,商法512条の報酬金を請求することができるか)について

(1) 商法512条は,商人がその営業の範囲内の行為をすることを委託されてその行為をした場合において,その委託契約に報酬についての定めがないときは商人は委託者に対し相当の報酬を請求できる趣旨のみならず,委託がない場合であっても,商人がその営業の範囲内の行為を客観的にみて第三者のためにする意思でした場合には,第三者に対してその報酬を請求できるという趣旨に解されるが,後者の場合には,その行為の反射的利益が第三者に及ぶというだけでは足りず,上記意思の認められることが要件とされるというべきである(最高裁昭和43年4月2日第三小法廷判決・民集22巻4号803頁,同44年6月26日第一小法廷判決・民集23巻7号1264頁,同50年12月26日第二小法廷判決・民集29巻11号1890頁参照)。
 そこで,上記見地に立って,本件について検討する
・・・

(3) 上記(2)の認定事実によれば,原告は,ネズミの防除を専門とする業者としての立場から,被告製品について様々な意見を述べ,被告も,原告の意見を参考にし,その相当部分を取り入れて,被告製品を開発したことが認められる。しかしながら,上記(2)ウのとおり,被告製品は,そもそも原告と被告の共同開発品という位置付けだったのであり(この点は,甲14において,原告も自認している。),Aによる上記の様々な意見やアドバイスも,共同開発者としての原告自身の利益を図るために行われたものということができるのであって,必ずしも被告に利益を与える意思で,被告のために行われたものと認めることはできない

 したがって,本件において,原告は,客観的にみて被告のためにする意思をもって被告製品の開発に関与したと認めることはできないから,被告に対し,商法512条の規定に基づく報酬金を請求することはできないというべきである。

 原告は,本件において,特許法35条3項ないし5項との均衡からしても,商法512条の規定に基づく報酬請求が認められるべきである旨の主張をするが,特許法35条3項ないし5項は,いわゆる職務発明についての規定であり,本件とは前提とする状況が全く異なるから,原告の上記主張も採用することができない。

権利能力なき財団の権利義務を承継する原告への商標権の移転登録請求が認容された事例

2010-12-26 17:21:13 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)2400
事件名 商標権移転登録手続請求事件
裁判年月日 平成22年12月16日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

2(1) 上記認定のとおり,
① 旧協会は,本件出願がされた当時,既に20年以上にわたって本件検定試験を実施し,同試験の受験料を主な原資とする,総額1億円以上の銀行預金を旧協会の基本財産として有していたこと,
② 上記預金の名義は,「日本中国語検定協会」,「日本中国語検定協会代表 B」などとされ,預金通帳や銀行届出印は旧協会の事務局において管理されていたこと,
③ 旧協会は,旧協会規則及び旧協会諸規則を定め,これらの規則にのっとり,理事や理事長を選出し,本件検定試験の実施等の事務を行うための事務局及び各種委員会を設け,理事会において収支予算及び収支決算の承認等がされていたこと,
④ 旧協会は,昭和63年ころに民法(平成18年法律第50号による改正前のもの)39条,37条所定の各項を含む寄附行為(本件寄附行為)を作成し,財団法人設立認可を申請したものであり,本件出願当時も同申請手続を推進していたこと,
が認められる。
 したがって,本件出願当時,旧協会は,個人財産から分離独立した基本財産を有し,かつ,その運営のための組織を有していたものといえ,いわゆる権利能力なき財団として,社会生活上の実体を有していたものと認められる(最高裁判所第三小法廷昭和44年11月4日判決・民集23巻11号1951頁参照 。)。

 また,上記認定事実に照らすと,本件出願及び本件商標権の登録に係る費用を負担したのは旧協会であり,本件出願前に「中検」という標章(本件標章)を使用していたのも,本件商標権の登録後に本件商標を使用していたのも旧協会であって,Bが個人として本件標章ないし本件商標を使用したことはなく,本件商標権がBを商標権者として登録されたのは,本件出願当時,旧協会が財団法人の設立認可を申請中で法人格を取得していなかったため,旧協会を出願人とすることができなかったことから,商標登録出願手続を進めるに当たっての便宜上,Bを出願人としたことの結果にすぎないものと認められる。

(2) そうすると,Bは,本件出願に当たり,旧協会が財団法人として設立後は本件商標権を同法人に帰属させる趣旨で本件出願をすることを了解していたといえるから,旧協会が財団法人として設立したとき,又は,Bが旧協会の代表者の地位を失ってこれに代わる新代表者が選任されたときは,財団法人ないし新代表者に対して本件商標権を移転登録する義務を負っていたものと認められる。
したがって,Bは,同人が旧協会の理事長を退任し,Cが新理事長に選任された時点で,本件商標権をCの名義に移転登録する義務を負っていたものであり,この義務は,Bの相続人である被告に承継されたものと認められる。また,上記認定事実に照らすと,原告は,旧協会によって設立されたものであり,旧協会の権利義務を承継したものと認められるから,被告は,現在,原告に対して本件商標権の移転登録義務を負っているものと認められる。

行政事件訴訟法10条2項が適用された事例

2010-12-19 22:39:35 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)276
事件名 決定取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月14日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

(1) 原告が,本件出願について
 平成20年11月27日付けで本件拒絶査定を受けた後,本件補正書及び本件意見書を提出したこと,
 特許庁長官が原告に対し平成21年6月8日付けで本件補正書及び本件意見書に係る各手続を却下する旨の本件各却下処分をしたこと,
 原告が本件各却下処分について本件異議の申立てをしたこと,
 特許庁長官が原告に対し同年11月20日付けで本件異議の申立てを棄却する旨の本件決定をしたこと
は,前記第2の1のとおりである。

 そして,原告主張の本件決定の違法事由は,別紙「2 請求の原因について」記載のとおりであり,要するに,原告の本件出願に係る発明は,特許法29条1項各号,2項のいずれにも該当せず,特許要件を充足するのに,これを充足しないとした特許庁の判断に誤りがある,すなわち,本件出願を拒絶すべきものとした本件拒絶査定の判断に誤りがあるというにあると解される。

(2) ところで,行政事件訴訟法3条3項は,「この法律において「裁決の取消しの訴え」とは,審査請求,異議申立てその他の不服申立て(以下単に「審査請求」という。)に対する行政庁の裁決,決定その他の行為(以下単に「裁決」という。)の取消しを求める訴訟をいう。」と規定し,同法10条2項は,「処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には,裁決取消しの訴えにおいては,処分の違法を理由として取消しを求めることができない。」と規定している。
 これらの規定によれば,処分の取消しの訴えとその処分についての不服申立てを棄却した「裁決」(異議申立てを棄却した決定を含む。)の取消しの訴えのいずれも提起することができる場合には,裁決の取消しの訴えにおいて主張し得る違法事由は,裁決固有の瑕疵に限られると解される

 前記(1)によれば,本件決定は,特許庁長官がした本件各却下処分に対する行政不服審査法による異議申立てを棄却する決定であるから,本件各却下処分を「処分」とする「裁決」に該当するものと解されるところ,特許法その他の法令において,本件各却下処分の取消しの訴えと本件決定の取消しの訴えのいずれか一方しか提起することができないとする定めはなく,上記訴えのいずれも提起することができる場合に該当するものと解される。
 そうすると,本件決定の取消しを求める本件訴訟において,本件決定の違法事由として原告が主張し得るのは,本件決定の固有の瑕疵に当たる違法事由に限られるというべきである。

 これを本件についてみるに,前記(1)のとおり,原告が主張する本件決定の違法事由は,本件拒絶査定の判断の誤りであって,これが本件決定の固有の瑕疵に当たらないことは明らかであるから,原告の主張は,その主張自体理由がないといわざるを得ない。

意見書を提出する機会に関する判断事例(特許法159条2項,50条)

2010-12-19 09:28:46 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10124
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年11月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

当裁判所は,以下のとおり,審決には,新たな拒絶理由通知をして原告に意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,同手続を怠った瑕疵があり,審決は,特許法159条2項,50条に違反するものと判断する。
 ・・・
拒絶査定の記載内容
 審査官がした平成19年3月5日付け拒絶査定(甲13)の記載内容は,次のとおりである。
「・・・上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図5】や,・・・号公報の【図3】や,・・・号公報の【図5】には,流量計と信号処理回路との間に保護回路を設けることが示されている。また,上記理由に引用された刊行物である・・・号公報の【図2】や段落・・・には,信号処理回路の流量計と反対側の回路接続部に,ツェナーバリアユニット等の保護回路を設けることが記載されている。
 よって,拒絶理由通知に対する補正後の請求項45~50の六発明は,上記公知技術の寄せ集めの域を出ていない。」
・・・

2 判断
 本件では,審決において,本願発明と引用発明との相違点1に係る「信号調整装置とホスト・システムの結合を遠隔にする」との技術的構成は,周知技術であり(甲2ないし4),本願発明は周知技術を適用することによって,容易想到であるとの認定,判断を初めて示している

 ところで,審決が,拒絶理由通知又は拒絶査定において示された理由付けを付加又は変更する旨の判断を示すに当たっては,当事者(請求人)に対して意見を述べる機会を付与しなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情がある場合はさておき,そのような事情のない限り,意見書を提出する機会を与えなければならない(特許法159条2項,50条)。
 そして,意見書提出の機会を与えなくとも手続の公正及び当事者(請求人)の利益を害さない等の特段の事情が存するか否かは,容易想到性の有無に関する判断であれば,本願発明が容易想到とされるに至る基礎となる技術の位置づけ,重要性,当事者(請求人)が実質的な防御の機会を得ていたかなど諸般の事情を総合的に勘案して,判断すべきである。

上記観点に照らして,検討する。
 本件においては,
① 本願発明の引用発明の相違点1に係る構成である「・・・」は,出願当初から・・・などと特許請求の範囲に,明示的に記載され,平成19年2月7日付け補正書においても,「・・・」と明示的に記載されていたこと(・・・),
② 本願明細書等の記載によれば,相違点1に係る構成は,本願発明の課題解決手段と結びついた特徴的な構成であるといえること,
③ 審決は,引用発明との相違点1として同構成を認定した上,本願発明の同相違点に係る構成は,周知技術を適用することによって容易に想到できると審決において初めて判断していること,
④ 相違点1に係る構成が,周知技術であると認定した証拠(甲2ないし4)についても,審決において,初めて原告に示していること,
⑤ 本件全証拠によるも,相違点1に係る構成が,専門技術分野や出願時期を問わず,周知であることが明らかであるとはいえないこと,
⑥ 原告が平成19年2月7日付けで提出した意見書においては,専ら,本願発明と引用発明との間の相違点1を認定していない瑕疵がある旨の反論を述べただけであり,同相違点に係る構成が容易想到でないことについての意見は述べていなかったこと等の事実が存在する。

 上記経緯を総合すると,審決が,相違点1に係る上記構成は周知技術から容易想到であるとする認定及び判断の当否に関して,請求人である原告に対して意見書提出の機会を与えることが不可欠であり,その機会を奪うことは手続の公正及び原告の利益を害する手続上の瑕疵があるというべきである。