知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

廃墟写真の先駆者の営業上の利益は法的保護に値する利益か

2011-01-10 13:43:23 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)451
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成22年12月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

原告は,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,一般には(少なくとも作品写真の被写体としては)全く知られておらず,それらの存在を認識し,かつ,それらに到達して作品写真に仕上げるまでに,極めて特殊な調査能力と膨大な時間を要していること,このノウハウと作品写真に仕上げるまでに要した多大な労力を根拠に,廃墟写真において被写体となった「廃墟」が,最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されることによって生ずる営業上の利益,すなわち,当該廃墟を作品写真として取り扱った先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益は,法的保護に値する利益であり,具体的には,・・・こととなるが,そのような原告の地位は,多大な費用と労力をかけて被写体たるに相応しい廃墟を発掘するプロの写真家たる原告にとって,投下資本の回収可能性を支えるものであり,このような意味での営業上の利益である旨主張する。

 しかしながら,「廃墟」とは,一般には,「建物・城郭・市街などのあれはてた跡」をいい(広辞苑(第六版)),このような廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体は,当該廃墟が権限を有する管理者によって管理され,その立入りや写真撮影に当該管理者の許諾を得る必要がある場合などを除き,何人も制約を受けるものではないというべきである

 このように廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体に制約がない以上,ある廃墟を最初に被写体として取り上げて写真を撮影し,作品として発表した者において,その廃墟を発見ないし発掘するのに多大な時間や労力を要したとしても,そのことから直ちに他者が当該廃墟を被写体とする写真を撮影すること自体を制限したり,その廃墟写真を作品として発表する際に,最初にその廃墟を被写体として取り上げたのが上記の者の写真であることを表示するよう求めることができるとするのは妥当ではない

 また,最初にその廃墟を被写体として撮影し,作品として発表した者が誰であるのかを調査し,正確に把握すること自体が通常は困難であることに照らすならば,ある廃墟を被写体とする写真を撮影するに際し,最初にその廃墟を被写体として写真を撮影し,作品として発表した者の許諾を得なければ,当該廃墟を被写体とする写真を撮影をすることができないとすることや,上記の者の当該写真が存在することを表示しなければ,撮影した写真を発表することができないとすることは不合理である。

 したがって,原告が主張するような,廃墟写真において被写体となった「廃墟」を最初に被写体として発見し取り上げた者と認識されるこによって生ずる営業上の利益が,法的保護に値する利益に当たるものと認めることはできない。

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