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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権者は警告が「虚偽の事実」の告知とならないよう高度の注意義務を負うか

2011-03-06 22:45:16 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)31686
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成23年02月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 不競法2条1項14号に基づく損害賠償責任の有無
ア 前記1で認定したとおり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから,・・・,本件告知の内容は,結果的にみて,虚偽であったことになる
・・・
カ 以上のように,特許権者である1審被告が,特許発明を実施するミヤガワらに対し,本件特許権の侵害である旨の告知をしたことについては,特許権者の権利行使というべきものであるところ,本件訴訟において,本件特許の有効性が争われ,結果的に本件特許が無効にされるべきものとして権利行使が許されないとされるため,1審原告の営業上の信用を害する結果となる場合であっても,このような場合における1審被告の1審原告に対する不競法2条1項14号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては,特許権者の権利行使を不必要に萎縮させるおそれの有無や,営業上の信用を害される競業者の利益を総合的に考慮した上で,違法性や故意過失の有無を判断すべきものと解される。

 しかるところ,前記認定のとおり,本件特許の無効理由については,本件告知行為の時点において明らかなものではなく,新規性欠如といった明確なものではなかったことに照らすと,前記認定の無効理由について1審被告が十分な検討をしなかったという注意義務違反を認めることはできない
 そして,結果的に,旭化成建材の取引のルートが1審原告から1審被告に変更されたとしても,本件告知行為は,その時点においてみれば,内容ないし態様においても社会通念上著しく不相当であるとはいえず,本件特許権に基づく権利行使の範囲を逸脱するものとまではいうこともできない


(原審)
事件番号 平成20(ワ)18769等
裁判年月日 平成22年09月17日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

 特許権者が,競争関係にある者が製造する物品について,その取引先に対し特許権の侵害を主張して警告することは,これにより当該警告を受けた取引先が特許権者による差止請求,損害賠償請求等の権利行使を懸念し,当該物品の取引を差し控えるなどして上記製造者の営業上の利益を損う事態に至るであろうことが容易に予測できるのであるから,特許権者は,そのような, 警告をするに当たっては 当該警告が不競法2条1項14号の「虚偽の事実」の告知とならないよう,当該特許に無効事由がないか,当該物品が真に侵害品に該当するか否かについて検討すべき高度の注意義務を負うものと解すべきである。
 そこで,このような見地に立って本件について検討すると,上記1で説示したように,本件特許発明は,当業者が引用発明,甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物の記載に基づき容易に発明することができたものであって進歩性を欠くものであるが,
① 引用発明が記載された甲22刊行物は,本件特許出願の3年以上前の平成11年1月に旭化成建材がパワーボードの施工をする業者向けに発行した技術情報パンフレットであり,相当の部数が当業者に配布されたことが推認できること,
② 副引用例である甲18の2刊行物及び甲19の2刊行物は本件特許権の出願審査の過程でされた平成19年4月24日付け拒絶理由通知において引用文献として指摘されていたこと(乙)5 ,
③ それにもかかわらず,被告が甲3及び甲4の書面を送付するに当たり,本件特許の無効事由の有無につき検討したのか否か,したとすればどのような検討を行ったのか
について,被告は何ら主張立証をしていないこと等に照らすと,被告が本件告知行為を行うに当たって上記注意義務を尽くしたと認めることはできず,被告には過失があるというべきである。

主引用発明の目的に反する相違点の構成の採用

2011-03-05 21:21:00 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10162
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(2) 本件発明1の「折り曲げ部」の構成については,曲げる角度が90度よりも小さな角度になる場合も含まれると解されるが,縫いボールと同様の溝を形成するという発明の目的や,「折り曲げ」の語意を考慮すると,単に曲げられているだけでなく,相当程度大きな角度で曲げられるべきものと解される。
 そうすると,仮に,引用発明1の皮革片の周縁部分に「折り曲げ部」の構成を採用した場合,「折り曲げ部」において相当程度大きな角度で曲げられることになり,それよりも内側の部分は平坦に近い状態になってしまうから,大きな隆起を形成することができなくなり,引用発明1の「隆起部分」の形成という目的に反することになる

(3) さらに,縫いボールにおいて,「折り曲げ」は,縫うことによって必然的に生じるものであり,両者は一体不可分の構成ということができる。したがって,折り曲げ部を有する縫いボールが周知であるとしても,このうち折り曲げる構成のみに着目し,これを縫いボールから分離することが従来から知られていたとは認められず,これが容易であったということもできない。

医薬品の「用途」の解釈(存続期間延長登録)

2011-03-05 20:48:00 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10423等
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第2 事案の概要
 本件は,特許権の存続期間の延長登録に対する無効審判請求を不成立とする審決の取消訴訟である。争点は,本件延長登録に先だってされた延長登録の理由となった処分の対象物について特定された用途と,本件延長登録におけるそれとが実質的に同一であるか否か,である


第4 当裁判所の判
・・・
5 先の承認処分における用途と本件承認処分における用途の同一性について前記認定によれば,・・・,塩酸ドネペジルが軽度及び中等度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であることが確認されていたとしても,より重症である高度アルツハイマー型認知症症状の進行抑制に有効かつ安全であるとするには,高度アルツハイマー型認知症の患者を対象に塩酸ドネペジルを投与し,その有効性及び安全性を確認するための臨床試験が必要であったと認められる。

 そして,「用途」とは「使いみち。用いどころ。」を意味するものであり,医薬品の「用途」とは医薬品が作用して効能又は効果を奏する対象となる疾患や病症等をいうと解され,「用途」の同一性は,医薬品製造販売承認事項一部変更承認書等の記載から形式的に決するのではなく,先の承認処分と本件承認処分に係る医薬品の適用対象となる疾患の病態(病態生理),薬理作用,症状等を考慮して実質的に決すべきであると解されるところ,本件のように,対象となる疾患がアルツハイマー型認知症であり,薬理作用はアセチルコリンセルテラーゼの阻害という点では同じでも,先の承認処分と後の処分との間でその重症度に違いがあり,先の承認処分では承認されていないより重症の疾患部分の有効性・安全性確認のために別途臨床試験が必要な場合には,特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって政令で定めるものを受ける必要があった場合に該当するものとして,重症度による用途の差異を認めることができるというべきである。

 よって,本件においては,前記判示のとおり,疾患としては1つのものとして認められるとしても,用途についてみれば,先の承認処分における用途である「軽度及び中等度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」と本件承認処分における用途である「高度アルツハイマー型認知症における認知症症状の進行抑制」が実質的に同一であるといえないとして,存続期間の延長登録無効審判請求を不成立とした審決は,その判断の結論において誤りはない。

特許法153条1項(審判手続における職権探知主義)の解釈

2011-03-04 23:47:17 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 取消事由1(特許法153条1項の解釈適用の適否)について
(1) 特許法153条1項が,審判手続における職権探知主義を採用しているのは,審判が,当事者のみの利害を調整するものではなく,広く第三者の利害に関する問題の解決を目的とするものであって,公益的な観点に基づく解決を図る必要があることによるものと解される。そのような観点から行われる職権の発動は,基本的に適法なものとして許容されるべきであり,これを補完的かつ例外的な場合に限定し,それ以外の場合には違法とすべきとする原告の主張は採用することができない。そして,本件審判手続において,職権による無効理由について審理したことに関し,特に違法とすべき点は認められない。

(2) 原告は,審決が引用刊行物1及び2について判断したことは,無効審判請求がないのに職権で本件発明を無効にすべきものと判断したことに相当する旨主張する。しかし,審決が無効とした本件特許の請求項13は,被告による無効審判請求の対象であるから,特許法153条3項に反することはない。本件においては,職権で審理する無効理由を,当事者に通知した上で(同条2項),無効と判断したものであるから,審決に手続上の違法な点はなく,原告の上記主張は理由がない。
以上のとおり,取消事由1については理由がない。

協力者らの行為を自らの行為として利用したとして実行行為を認めた事例

2011-03-04 23:32:03 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)25767等
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年02月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(ア) 本件ビラ2に掲載されている被告写真2は,・・・,本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており,その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ,状態で,ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,上記変更には,創作性があるとは認められない。したがって,被告写真2は,本件写真の複製物である

(イ) 被告は,自身が本件ビラ2の作成,頒布に関与した事実を否認するので,この点について検討する。
 前記前提事実(第2の2)並びに証拠(甲3,4,14,被告本
人)及び弁論の全趣旨によれば,
① 本件ビラ2は,被告の協力者らによって通行人に頒布されたものであること,」
② 被告は,当該街宣活動の前日,自ら本件ビラ2の元となる電子データを作成し,そのコピーをメールに添付して複数の協力者に対し送信したこと,
③ 被告は,前記街宣活動の当日,自ら現場に赴いて街宣活動に参加し,その際,協力者らによって本件ビラ2が通行人に頒布されているのを認識していたが,これを容認していたこと(被告は,・・・などと,本件ビラ2の頒布について,一貫してこれを肯定的に認識していた旨を供述し,協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡はない。これらの事情からすれば,被告が本件ビラ2の作成,頒布を認識し,これを容認していたことは明らかである。)が認められる。

 これらの事実を総合すれば,本件ビラ2を印刷し,これを通行人に頒布したのが,被告ではなくその協力者らであったとしても,被告は,当該協力者らの行為を自らの行為として利用することにより,本件ビラ2を作成,頒布したものと評価するのが相当である。

したがって,被告は,本件ビラ2についても,本件写真の複製権及び譲渡権を侵害したものと認められる。

政治的言論活動のためでも「公正な慣行」に合致した引用ではないとした事例

2011-03-04 23:18:11 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)25767等
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年02月09日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

公表された著作物は,引用して利用することができるが,その引用は,「公正な慣行」に合致するものでなければならず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)
 これを本件についてみるに,本件各ビラ等は,要するに,都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し,・・・を批判するためのものであって,本件写真それ自体や,本件写真に写った被写体の姿態,行動を報道したり批評したりするものではない被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが,特定のためであれば,同議員の所属,氏名を明示すれば足りることであるし,イメージのためであれば,B議員の他の写真によって代替することも可能であり,本件写真でなければならない理由はない
 また,本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが,身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。

 さらに,著作物の引用に当たっては,その出所を,そその複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならないが(著作権法48条1項1号)本件各ビラ等においては,本件写真の出所が一切明示されておらず,これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない

 このように,そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない

 したがって,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法32条1項の「引用」に当たるということはできない

超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法

2011-02-20 20:56:42 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)22178
事件名 特許権承継対価請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告らは,被告は,・・・,本件各発明について,他社に実施許諾をせずに,自社で独占実施(自己実施)してきたところ,被告の本件エアコンの売上高のうち,本件熱交換器に係る部分には,被告が法定通常実施権(特許法35条1項)に基づく実施を超えて本件各特許権に基づいて独占的に売り上げることができた超過売上高が含まれており,その超過売上高に係る実施料相当分(想定実施料)が,「独占の利益」すなわち特許法旧35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益」に当たるといえるから,特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明に係る相当の対価は,(本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の合)×(想定実施料率)×(1-被告の貢献度)の算定式(原告算定式)によって算定すべきである旨主張する
 ・・・
 この「超過利益」の額は,従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので,超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
 したがって,本件においては,原告らが主張するように,超過売上高を認定し,その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし,これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。
 ・・・
(2) 本件各発明の技術的優位性の有無
エ ・・・,競合他社は,熱交換器のフィンパターンに関し,本件各発明の代替技術を有していたものと認められるところ,本件においては,本件各発明がこれらの代替技術よりも熱交換効率の向上その他の効果等の点において技術的に優位であったことを認めるに足りる証拠はない

(3) 本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性の有無
 ・・・
(ア) 被告のエアコン製品の市場シェアについて
 ・・・
c 以上によれば,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,被告のエアコン製品の市場シェアの増加をもたらしたものと認めることはできない。また,被告のエアコン製品の市場シェアの各数値に照らしても,本件各発明を実施した被告のエアコン製品が市場を独占しているような状況や競合他社を凌ぐような状況にあったものとは認めがたい。
 したがって,被告のエアコン製品の市場シェアから,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,エアコン製品の市場における優位性を獲得したものということはできない
 ・・・
(イ) 被告のエアコン製品の売上げ及び利益の増加について
 原告らは,本件各発明を実施したことにより,熱交換器,ひいてはエアコン全体が従来の製品より大きく性能が向上し,被告が本件各発明を実施したエアコン製品(本件エアコン)を市場に投入してから,被告の売上高及び利益が増加し,エアコン製品の市場における優位性を獲得した旨主張する。
 しかしながら,超過売上高の有無を判断するに当たっては,自社の従来製品との性能との比較ではなく,あくまで競合他社と比較した場合の優位性が問題となるというべきであり,また,売上高及び利益の増減には,市場規模全体の増減も影響することに鑑みると,競合他社との優位性の比較は,結局のところ市場シェアの割合に反映されるものと解される。
 そして,被告のエアコン製品が市場シェアにおいて優位性が認められないことは前記(ア)のとおりであるから,原告らの主張は,その主張自体採用することができない。

発明の技術的課題と動機付け、相違点の構成の特徴の検討を要するとした事例

2011-02-14 20:52:04 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10056
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

(3) しかし,この審決の判断の流れは,②,④,⑥の周知技術を前提とし,①,⑤の自明課題,設計事項を踏まえ,bの甲第1号証から読み取れる事項も認定したうえ,③,⑦,⑧の判断を経て,⑨,⑩,⑪のとおり相違点1ないし3の容易想性を導いているものであって,甲第3,10,21,22号証は周知技術の裏付けとして援用したものである。

 このうち,④の周知技術の認定で審決が説示する「液体インク収納容器からの色情報」が単に液体インク収納容器のインク色に関する情報でありさえすればよいとすると,前記周知技術は,液体インク収納容器と記録装置側とが発光部と受光部との間の光による情報のやり取りを通じて当該液体インク収納容器のインク色に関する情報を記録装置側が取得することを意味するものにすぎない。このような一般的抽象的な周知技術を根拠の一つとして,相違点に関する容易想到性判断に至ったのは,本件発明3の技術的課題と動機付け,そして引用発明との間の相違点1ないし3で表される本件発明3の構成の特徴について触れることなく,甲第3号証等に記載された事項を過度に抽象化した事項を引用発明に適用して具体的な本件発明3の構成に想到しようとするものであって相当でない

 その余の自明課題,設計事項及び周知技術にしても,甲第3号証等における抽象的技術事項に基づくものであり,同様の理由で引用発明との相違点における本件発明3の構成に至ることを理由付ける根拠とするには不足というほかない。

面接の性質

2011-02-14 20:09:21 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10263
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

・・・本件訴訟においても,本件補正が不適法であること自体について原告は争っておらず,これが適法であることを裏付けるべき主張立証もないので,本件補正を前提としての本願発明の分割出願が適法になるものということはできない。そうである以上,審判官が上記内容についての面接要請に応じなかったことをもって,審判手続に違法があるとすることはできない
・・・
 原告は,特許庁が発行しているガイドライン(乙1)中には,面接等の要請に応じることができない12の事例が挙げられているところ,原告の面接要請は,いずれの事例にも該当しないから,面接をする機会を与えなかった審判合議体の判断は,ガイドライン違反であると主張する

 しかし,ガイドラインは特許庁が定めている基準であって,面接の機会を与えられなかったことが違法となるか否かは本件訴訟で独自に判断すべきである。そして,本件審判手続において面接を行わなかったことをもって違法とすべき事実関係を認めることができないことは,冒頭に説示したとおりである。
 拒絶査定不服審判は,書面審理により行われるものである(特許法145条2項)ところ,審判手続において,審判合議体と請求人側との密な意思疎通を図り,それにより審理の促進に役立てるために面接が実務上行われているとしても(ガイドライン1.1(乙1)参照。),それは,特許法上規定された手続ではなく,請求人に対するいわゆる行政サービスの性質を持つものである

 そうすると,拒絶査定不服審判の審理に際して面接を行うか否かは,個々の事案において審判合議体の裁量に属する事項であり,特段の事情のない限り,面接を行わなかったことが審判手続上の違法となるものではない。そして,上記説示したところによれば,本件においてこの特段の事情はない。

控訴審において出願経過が参酌されなかった事例

2011-02-14 19:00:00 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10031
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

イ 判断
 上記記載によれば,構成要件C1の「・・・後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」は,従来技術においては,前後の壁面の上部に上側段部が,深さ方向の中程に中側段部が形成されている流し台のシンクでは,上側段部と中側段部のそれぞれに,上側あるいは中側専用の調理プレートを各別に用意しなければならないという課題があったのに対して,同課題を解決するため,後方側の壁面について,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とをほぼ同一の長さに形成して,それら上側段部と中側段部とに,選択的に同一のプレートを掛け渡すことができることを図ったものである。
 ところで,上記記載における「発明の実施形態」では,後方側の壁面は,上側段部から中側段部に至るすべてが,奧方に向かって延びる傾斜面であり,垂直部は存在するわけではない。
 しかし,本件明細書中には
「本発明は,上述した実施の形態に限定されるわけではなく,その他種々の変更が可能である。・・・また,シンク8gの後方側の壁面8iは,・・・上部傾斜面8pとなっていなくとも,上側段部8fと中側段部8nとに同一のプレートが掛け渡すことができるよう,奥方に延びるように形成されているものであればよく,その形状は任意である。」
と記載されていることを考慮するならば,後方側の壁面の形状は,上側段部と中側段部との間において,下方に向かうにつれて奥方に向かってのびる傾斜面を用いることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にすることができるものであれば足りるというべきである。

 そうすると,構成要件C1の「前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」とは,後方側の壁面の形状について,上側段部と中側段部との間のすべての面が例外なく,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面で構成されている必要はなく,上側段部と中側段部との間の壁面の一部について,下方に向かうにつれて奥行き方向に傾斜する斜面とすることによって,上側段部の前後の間隔と中側段部の前後の間隔とを容易に同一にするものを含むと解するのが相当である。

<原審>
事件番号 平成21(ワ)5610
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 清水節

原告は,本件特許の出願当初の【特許請求の範囲】において,
【請求項1】を「・・・」として,上側段部と下側段部に同一のプレートを載置することが可能となるように,上側段部同士と中側段部同士との幅がほぼ同一に形成された流し台のシンクとして特許請求の範囲に記載していたところ,特許庁審査官から,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの拒絶理由通知を受け,
【請求項1】を,「・・・」と補正し,出願当初の【請求項1】の構成のうち,構成要件C1の構成を有するものに限定することにより,特許庁審査官の指摘した特許法29条2項の規定に該当するという拒絶理由を回避して,特許査定を受けたものであることが認められる。

エ 以上のような本件明細書の記載,図面及び出願経過に照らせば,「前記後の壁面である後方側の壁面は,前記上側段部と前記中側段部との間が,下方に向かうにつれて,奥方に向かって延びる傾斜面となっている」(構成要件C1)という構成は,後方側の壁面の傾斜面が,中側段部によりその上部と下部とが分断されるように後方側の壁面の全面にわたるような,本件明細書に記載された実施形態のような形状のものに限られないと解されるものの,その傾斜面は,少なくとも,下方に向かうにつれて奥方に向かって延びることにより,シンク内に奥方に向けて一定の広がりを有する「内部空間」を形成するような,ある程度の面積(奥行き方向の長さと左右方向の幅)と垂直方向に対する傾斜角度を有するものでなければならないと解するのが相当である。

明細書の要旨の変更の判断基準

2011-02-13 22:26:27 | Weblog
事件番号 平成22(ネ)10009
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

「ところで,補正により,特許請求の範囲に記載された技術的事項が,原明細書等に記載された事項,又は,少なくとも出願時において当業者が原明細書等に記載された技術内容に照らし現実に記載があると認識し得る程度に自明な事項を超える場合,当該補正は明細書の要旨を変更したものとなる。

 また,当初明細書に現実記載があると認識し得る程度に自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもがその事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項でなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かるという程度のものでは,自明ということはできない

 さらに,当業者が,ある周知技術を前提として,当初明細書の記載から当該事項を容易に理解認識することができるというだけでは足りず,周知技術であっても,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要である。」
・・・
「補正が要旨変更にあたるか否かは,明細書を補正した結果,特許請求の範囲に記載した技術的事項が,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であるか否かを基準に判断される。」

国際予備審査に対する無効確認と義務づけの訴え

2011-02-12 15:02:30 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)304
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

3 争点3(無効等確認の訴えの適法性)について
 無効等確認の訴えは,「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟」である(行政事件訴訟法3条4項)ところ,「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される。

 これを本件についてみると,前記1のとおり,国際予備審査は,・・・,出願人の請求により,国際予備審査機関が「予備的なかつ拘束力のない見解」を示すにすぎないものであるから,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできない。
 したがって,国際予備審査の結果である国際予備審査報告書及びこれに記載された見解,国際予備審査機関の見解書及びこれに記載された見解は,無効等確認の訴え(行政事件訴訟法36条,3条4項)の対象である「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(同法3条2項)にも,「審査請求,異議申立てその他の不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の行為」(同法3条3項)にも該当しないから,本件見解書及び本件報告書ないしこれらに記載された見解が無効であることの確認を求める原告の無効等確認の訴えは不適法なものである。


4 争点4(義務付けの訴えの適法性)について
行政事件訴訟法3条6項2号により行政庁に義務付けを求め得る「処分又は裁決」とは,直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解される。
 原告は,特許庁長官に対し,本件見解書及び本件報告書が無効である事実を認め,無効な審査結果によって原告が被った損害を賠償し,特許庁審査官の特許法29条に基づく実体審査の在り方,審査業務の取組姿勢を見直し,再発を防止することの義務付けを求めるが,原告が求めるものは,いずれも直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定することが法律上認められているものということはできないから,行政事件訴訟法3条6項2号により行政庁に義務付けを求め得る「処分又は裁決」に該当しない


関連事件

国際予備審査機関の見解書、予備審査報告書に対する国家賠償請求

2011-02-12 14:38:08 | Weblog
事件番号 平成22(行ウ)304
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点1(国家賠償法1条1項の違法の有無)について
(1) 原告は,特許庁審査官が,本件見解書において本件国際予備審査請求の請求の範囲21及び22につき,本件報告書において本件国際予備審査請求の請求の範囲9ないし13につき,それぞれ特許性(進歩性)がない旨の審査をしたことが特許法29条に則さない論理付けであって無効であるから,これらの書面を作成・送付した行為が違法であると主張する。

 しかし,前記1(2)エ(ウ)のとおり,国際予備審査は,予備的で選択国を拘束しないものであり,いずれの国内法令からも独立し,PCT33条に規定された要件によってのみ行われるものであるから,国際予備審査報告においては,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がいずれかの国内法令により特許を受けることができる発明であるかどうか又は特許を受けることができる発明であると思われるかどうかの問題についてのいかなる陳述をも記載してはならないとされている(PCT35条(2))
 したがって,本件国際予備審査請求に係る国際予備審査報告を作成する特許庁審査官に対し,本件国際予備審査請求の請求の範囲に係る発明につき,我が国の特許法29条に基づく特許性(進歩性)の有無の判断を求めることを前提とする原告の主張は,PCT35条(2)に反する行為を求めるものであって,失当である

(2) また,前記1(2)エ(ウ),(オ)のとおり,
国際予備審査機関の見解書
には,特許性を有しない旨の見解及びその根拠を十分に記載するものとされており,
国際予備審査報告
には,当該国際出願の請求の範囲に記載されている発明がPCT33条(1)ないし(4)までに規定する新規性,進歩性(自明のものではないもの)及び産業上の利用可能性の基準に適合していると認められるかどうかを各請求の範囲について記述し,その記述の結論を裏付けると認めらる文献を列記し,場合により必要な説明を付するものとされている
が,
・・・
から,本件見解書及び本件報告書の記載は,PCT35条(2),PCT規則66.2の規定に則したものである。また,本件報告書の第Ⅱ欄の3における請求の範囲5-13,15-28に係る各発明の基準日に関する記載も,PCT規則70.2(c)の規定に則したものである。
 ・・・
 以上からすると,特許庁審査官が本件見解書及び本件報告書を作成し,特許庁がこれらの書面を原告・国際事務局に送付するに当たり,特許庁審査官及び特許庁長官がその職務上尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と行為をしたと認め得るような事情は認められないから,原告主張の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。

(3) 原告は,我が国では,本件国際予備審査請求の請求の範囲9ないし13,21及び22と全く同じ構成の発明につき,特許性ありとして登録査定がされていることから,本件見解書及び本件報告書における特許性(進歩性)の審査結果が無効であることは明らかであると主張するが,
 上記(1)のとおり国際予備審査は,いずれの国内法令からも独立してPCT33条に規定された要件によってのみ行われるものであるから,我が国の特許法に基づき特許査定がされたことをもって本件見解書及び本件報告書における特許性についての審査結果が無効であるということはできず,原告の主張を採用することはできない

関連事件

覚え書きによる不争合意の(射程の)解釈

2011-02-02 22:50:58 | Weblog
事件番号 平成21(ワ)18507
事件名 特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月21日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

ウ  本件覚書の4条は,被告を「甲」,原告を「乙」として,「第4条(不争合意) 甲は,本件特許権の有効性について,乙と争わず,かつ,乙と争う第三者を援助しない。」というものであって,被告が「本件特許権の有効性」について原告と争わない旨記載されている。

 しかるに,前記イの認定事実と本件覚書の各条項(甲4)を総合すれば,
① 原告と被告間において被告が平成9年当時製造及び販売していた「らくちん おまる」に関する本件特許権の侵害の有無をめぐる紛争があったところ,被告が上記「らくちん おまる」をめぐる紛争の早期解決のために,「らくちん おまる」の設計変更をすることを自発的に申し入れ,その後の原告と被告間の交渉の結果,被告が「らくちん おまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更をし,原告に和解金100万円(消費税は別途)を支払う内容の和解をし,その旨の本件覚書を締結するに至ったこと,

② 被告は,上記交渉の過程において,本件特許の有効性について一貫して争っており,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)においても,「らくちん おまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことに疑問の余地はなく,本件特許の有効性には問題があると考えているが,「無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちん おまる」を設計変更したいと自由意思により考えた」旨の記載があることが認められる。

 上記認定事実によれば,本件覚書の4条において,被告が本件特許の有効性を争わない旨の規定を置いた趣旨は,あくまで「らくちん おまる」に関する本件特許権侵害の紛争を解決することを目的とするものであって,被告が製造販売する「らくちん おまる」とは別の製品について原告が本件特許権を行使する場合について,本件特許の有効性を争う利益を放棄したものではないと解するのが,当事者の合理的意思に合致するもの解される。
 そして,被告製品と「らくちん おまる」とを対比すると,「らくちん おまる」が上記設計変更により後部2か所の支脚(後脚)を高くした点を除いても,被告製品(検甲1)と「らくちん おまる」(検乙1,乙20)とでは,座面の形状,前部2か所の支脚の位置,後縁部の形状等が異なるものといえるから,被告製品は,「らくちん おまる」とは別の製品であるものと認められる(・・・。)。

 したがって,本件覚書の4条の効力は,原告が「らくちん おまる」とは別の製品である被告製品について本件特許権を行使する本件訴訟には及ばないというべきである。

商標中のハングル文字の評価

2011-01-31 22:23:36 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10336
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年01月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

第5 当裁判所の判断
1 本件商標は,アルファベット(欧文字)の大文字のみからなる「YUJARON」,片仮名からなる「ユジャロン」,ハングル文字からなる「xxx」を概ね同じ大きさ,明朝体ないしこれと同等の書体で,横三段書きしてなる外観を有するものであり,上記アルファベット文字部分,片仮名部分,ハングル文字部分との間で格別の体裁の差は存しない。
・・・
 他方,「xxx」がハングル文字であること自体は我が国の需要者の間でも一般的認識となっていると推測され,この部分を独立の図形として商標の構成を評価するのは相当でなく,この部分も,称呼は判然としないものの何らかの文字を表すものとして,本件商標からは,「YUJARON」と「ユジャロン」の部分を合わせて一体として「ユジャロン」との称呼が生じると解される一方,これは被告株式会社ビュウの代表者が創作した造語であるから(弁論の全趣旨),そこからは特段の観念は生じない。
・・・
 そして,原告及び被告ビュウが遅くとも平成22年3月ころまで使用していたホームページには,「こうみゆずちゃ/香味柚子茶/YUJARON/ユジャロン」と横書きした標章が使用されている(甲6,7 )。
・・・
 そして,商標として使用されたと認められる前記各使用標章からは,「ユジャロン」の称呼が生じることが明らかであるし,本件商標のアルファベット部分又は片仮名部分の一方又は双方と同一の文字列をその構成部分としているものであるから,前記各使用標章と本件商標とは社会通念上同一の商標であると評価することができる。

 なお,「xxx」の部分については前記のとおり図形として評価するよりも文字として評価するのが相当であるから,前記各使用標章と本件商標の外観の相違は,上記評価を左右するものではない