知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

再許諾権を有していない者からの再許諾に過失を認めた事例

2011-12-18 19:47:20 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)17393
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

 しかしながら,アートステーションが本件両作品の複製及び頒布に係る再許諾権を有していないことを被告が知っていたことを認めるに足りる証拠はない。もっとも,前記認定の事実に証拠(甲9,乙3)を総合すれば,
○1 DVDの製造・販売業界では,再許諾を認めると,ライセンス対象物の管理や広告宣伝,パッケージの表示内容,品質管理が困難となるため,再許諾を禁じるのが通常であること,
○2 アートステーションは,被告との間で前記ライセンス契約を締結した当時,資金繰りに窮しており,被告への製造費も支払えなかったことが認められる。
 以上の事実を前提とすれば,被告は,DVDの製造販売業者として,原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり,アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりして,アートステーションが上記再許諾権を有しているか確認すべき注意義務を負っていたものといえる。

 そうであるにもかかわらず,証拠(乙3,弁論の全趣旨)によれば,被告は,原告に対してアートステーションへの再許諾権付与の有無を問い合わせたり,アートステーションに対してライセンス契約書を提示させたりしていないことが認められる。
したがって,被告には,原告が本件両作品について有する著作権(複製権及び頒布権)を侵害したことにつき,過失があるというべきである。

著作権法2条1項1号の「創作的に表現したもの」とは

2011-12-04 19:44:52 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)28962
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大鷹一郎

 著作権法上の保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)であり,ここでいう「創作的」に表現したものといえるためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作者の個性が表現されたもので足りるというべきである。
 ・・・
(ア) 本件画像1について
 本件画像1は,本件CTデータからコンピュータソフトウェアの機能により自動的に生成される本件三次元再構築モデルとは異なり,本件CTデータを素材としながらも,半透明にした本件マンモスの頭部の三次元画像の中に,本件マンモスの水平断面像を並べて配置する構成としている点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されいるものということができる。
 加えて,本件画像1では,・・・,様々な表現の可能性があり得る中で,美術的又は学術的な観点に基づく特定の選択が行われて,その選択に従った表現が行われているのであり,これらを総合した成果物である本件画像1の中に作者の個性が表現されていることを認めることができる。
・・・
(イ) 本件画像2について
 本件画像2は,本件三次元再構築モデルを特定の切断面において切断した画像それ自体とは異なり,2枚の同じ切断画像を素材とし,一方には体表面に当たる部分に茶色の彩色を施し,他方には赤,青,黄の原色によるグラデーションの彩色を施した上で,後者の頭部断面部分のみを切り抜いて前者と合成することによって一つの画像を構成している点において,美術的又は学術的観点からの作者の個性が表現されているものということができる。
・・・
(ウ) 被告の主張について
 これに対し被告は,本件各画像における上記の各点について,いずれもありふれた表現方法や画像を見やすくするための技術的調整等にすぎず,本件各画像に創作性を認める根拠とはならない旨を主張する。
しかしながら,被告の主張は,要するに,本件各画像における表現の要素を個別に取り上げて,それぞれが独創性のある表現とまではいえない旨を述べているものにすぎないものであり,前述のとおり,著作物としての創作性が認められるためには,必ずしも表現の独創性が求められるものではなく,作者の個性が表現されていれば足りるのであり,本件各画像にそのような意味での創作性が認められることは,上記(ア)及び(イ)で述べたとおりであるから,被告の上記主張は採用することができない。

出版契約の一方の当事者である共有者間の出版契約の存否についての確認訴訟

2011-12-04 10:15:55 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)20132
事件名 著作権に基づく差止権不存在確認等請求事件
裁判年月日 平成23年11月24日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二


1 判断の基礎となる事実(当事者間で争いがないか,又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認定できる。)
(1) 当事者
ア 原告竹井機器は,実験心理学器械,職業適性検査器及び体力測定器の製作,並びに販売等を目的とする会社である。
イ 原告P1は,共同著作物である本件検査用紙1ないし4の著作者の一人である関西大学教授であったP5の妻である。
ウ 原告P2は,共同著作物である本件検査用紙1ないし3の著作者の一人である京都大学教授であったP6の子である。
エ 被告P3は,P5と先妻との間の子である
・・・

第4 当裁判所の判断
1 争点1(甲事件のうち原告P1及び同P2の主位的請求に係る訴えに確認の利益があるか)について
(1) 原告竹井機器が,本件各検査用紙を出版,販売する権原の根拠となる平成12年1月1日締結された本件出版契約の契約関係は,甲事件に関する限度でみると,原告P1と被告P3がP5を相続し,原告P2がP6を相続したP10をさらに相続したことから,現在では,原告竹井機器と原告P1との間の契約関係,原告竹井機器と被告P3との間の契約関係,原告竹井機器と原告P2との間の契約関係(...)からなる

 これらの契約関係は,共有に係る著作権の利用に関する契約であることから,著作権法65条等によって,その権利行使が相互に規制される面があるものの,法律的にはそれぞれ独立した関係である。したがって,原告P1及び同P2には,被告P3と間で,原告竹井機器と被告P3間の権利関係の存否について確認を求める利益は認められない

(2) 原告P1及び同P2は,被告P3との間で不当利得の問題が生じる可能性がある旨主張するが,
 被告P3は原告P1及び同P2が本件出版契約の契約当事者であることを争っているわけではなく,また被告P3は,現在も,本件出版契約が更新されたことを前提とする印税相当額を受領しているから(甲20,乙20の1),本件出版契約が存続しているのであれば,不当利得の問題を生じる余地はないし,存続していない場合でも,不当利得の問題は,出版社である原告竹井機器と同原告から印税として著作権利用料を受領した原告P1,同P2及び被告P3とのそれぞれの間で生じるだけであって,被告P3と原告P1及び同P2間で不当利得の問題が生じることはないから,この点を理由とする原告P1及び同P2の主張は失当である。

著作権侵害の意図と損害賠償

2011-11-18 22:03:42 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10020
事件名 損害賠償等・同反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 「著作権侵害及び損害賠償の対象ではない」との主張について
(1) 控訴人は,被控訴人が本件写真の著作権を有することを知らないか,又は本件写真の芸術的若しくは商業的価値を認めていないから,無許可で使用しても著作権侵害の意図がなく,損害賠償責任を負わないと主張する。

 しかし,著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには,行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り,また,故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって,著作権の帰属に関する行為者の認識の有無,行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か,さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。

固定カメラで撮影したライブ映像の著作物性

2011-11-17 22:55:12 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31190
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大須賀滋

(1) 著作物3の著作物性(創作性)について
ア 前提となる事実に加え,証拠(甲10,15)及び弁論の全趣旨によると,著作物3は,「THE MACKSHOW」の活動初期のライブの映像を収録したDVDであり,
 Yの発意・方針に基づき,関係者への配布を目的として製作されたこと,
 映像は,ライブハウスに設置された固定カメラにより撮影されているが,同カメラは,ステージ全体を捉えることのきる位置及び角度に設置されており,ステージ全体を正面から撮影したり,ステージ上の人物の移動に合わせて左右に角度を変えて撮影したり,望遠によりステージ上の人物を中心に撮影することができるものであること,
 著作物3は,上記バンドがライブにおいて楽曲を演奏する様子を撮影したライブ全体の映像で構成され,ライブの進行に応じて,ステージ全体を正面から撮影したり,特定のメンバーを中心に撮影したり,メンバーのステージ上の移動に伴いカメラの角度を変えて撮影するなどした映像から成っていること,
 著作物3の映像には,ライブの臨場感を損なわないため,特段の編集作業を施していないこと
がそれぞれ認められる。

 したがって,著作物3の映像は,上記バンドのライブにおける演奏の様子が記録され,カメラワークや編集方針により,ライブ全体の流れやその臨場感が忠実に表現されたものとなっており,著作者であるYの個性が現れているということができるから,著作物性(創作性)を認めるのが相当である。

イ 被告は,著作物3のカメラワーク等から,その著作物性(創作性)を争うが,上記のとおり,著作物3は,ライブの進行に応じた撮影を行っていることからすると,著作者の個性が表現されているということができる。
 したがって,被告の上記主張を採用することはできない。

実用品である装置の著作物性の判断事例

2011-09-10 15:29:21 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)5114
事件名 損害賠償等請求反訴事件
裁判年月日 平成23年08月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 大須賀滋

ア そもそも,著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないとするものと解される。

イ そこで検討すると,反訴原告装置は,前記第4の1(1)の前提事実でみたとおり,人が中に入り,布の反力によって体が支えられる状態を体験することができる装置として考案されたものである。反訴原告装置は体験装置として使用され,人が中に入った状態では,様々な形態をとるし,また,中に入った人は日常生活では感じることのできない感覚を味わうことができる。このように,反訴原告装置は,体験装置として独創的なものと考えられるが,反訴原告が本訴において著作物として主張するのは,上記のような動的な利用状況における創作性ではなく,反訴原告装置目録において示された静的な形状,構成(反訴原告装置)の創作性である
したがって,以下では,反訴原告装置目録において示された反訴原告装置の著作物性について検討する。
 ・・・
 しかし,反訴原告装置の前記(1)ウの形状,構成は,次に述べるとおり,創作性を基礎付ける要素となっているものと考えられる。

d 反訴原告装置の創作性
 反訴原告装置の上辺部分の形状は本体部分及び二重化部分が一体となって,中央部分から両端部分にかけて反った形状として構成されており,神社の屋根を思わせる形状としての美観を与えている。さらに,反訴原告装置の左右両端部分は,垂直に対しやや傾いて上の方へ広がり,上辺の反りの部分と合わせて日本刀の刃先の部分を思わせる形状となっている
 反訴原告装置は,これらの点に独自の美的な要素を有しており,美術的な創作性を認めることができる

・・・

エ したがって,反訴原告装置は,前記イdでみた点における限りで創作性があるものとして,著作物性が認められ,反訴原告は,反訴原告装置の制作者として反訴原告装置について著作権を有する。

オ この点に関し,反訴被告は,反訴原告装置は実用品であって,著作物として保護されるためには,その機能性又は実用性から独立した美的創作性を有することを要するが,反訴原告装置の表現上の特徴として挙げることのできる点は,いずれも機能性又は実用性からの帰結にすぎないと主張する。
 確かに,前記のとおり,反訴原告装置は人が中に入り反力を体験することができる装置として考案されたものであり,この意味で実用性を有するものということができる。しかし,前記第4の1(1)前提事実ウでみた反訴原告装置の制作過程に照らすと,反訴原告装置は,各別にその形態(傾き,くびれ,曲線等)を調整して制作されるものと認められ,画一的かつ機械的な大量生産を予定しているものではないということができる上,反訴原告装置の具体的表現のうち,創作性が認められる部分は,反訴原告装置の機能又は目的から不可避の結果として生じたものではなく,その表現に選択の幅が認められるものであって,前記1ウ(ウ)のとおり,反訴原告自身が「日本的な美しさ」を表現するためにそのような形状を選択している旨述べるなど,美的表現の追求の結果として生じたものとみることができるものであるから,反訴被告の主張は当たらず,前記エの認定は左右されない。

ネガとポジを反転しモノクロ化した写真の同一性保持権の侵害

2011-08-14 10:11:05 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31755
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年07月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(3) 同一性保持権侵害の成否
本件入れ墨と本件画像とを対比すると,本件画像は,陰影が反転し,セピア色の単色に変更されていることは,上記(1)アのとおりである。
 そして,被告らは,原告に無断で,原告の著作物である本件入れ墨に上記の変更を加えて本件画像を作成し,これを本件書籍及び本件各ホームページに掲載したものであり,このような変更は著作者である原告の意に反する改変であると認められ,原告が本件入れ墨について有する同一性保持権を侵害するものである。

被告らは,本件画像は原告から無償譲渡された写真によるものであり,原告は当該写真の利用方法につき何らの制約も加えるところがなかったので,被告らが無償譲渡された写真を本件書籍に掲載する際,ネガとポジを反転し,モノクロ化したことは原告の許容した利用範囲にとどまり,原告の同一性保持権を侵害するものではないと主張する。
 しかしながら,原告が写真を譲渡したからといって,それだけで原告が上記のような改変を許容していたとは認められず,ほかにそのように認めるに足りる証拠はない。したがって,被告らの上記主張は採用することができない。

ウ 以上によれば,上記アの改変は,原告が本件入れ墨について有する同一性保持権を侵害するものであり,また,この点に関し被告らに少なくとも過失が認められることは明らかである。

仏像写真をモデルにした入れ墨の著作物性

2011-08-14 09:35:43 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)31755
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年07月29日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


1 争点(1)(本件入れ墨の著作物性)について
・・・
 本件仏像写真(甲16の2)は,本件仏像の全身を向かって左斜め前から撮影したカラー写真であり,本件仏像の表情や黒色ないし焦げ茶色の色合いがほぼそのままに再現されている。
 これに対し,本件入れ墨(甲8の3)は,本件仏像写真をモデルにしながらも,本件仏像の胸部より上の部分に絞り,顔の向きを右向きから左向きに変え,顔の表情は,眉,目などを穏やかな表情に変えるなどの変更を加えていること,本件仏像写真は,平面での表現であり,仏像の色合いも実物そのままに表現されているのに対し,本件入れ墨は,人間の大腿部の丸味を利用した立体的な表現であり,色合いも人間の肌の色を基調としながら,墨の濃淡で独特の立体感が表現されていることなど,本件仏像写真との間には表現上の相違が見て取れる。
 そして,上記表現上の相違は,本件入れ墨の作成者である原告が,下絵の作成に際して構図の取り方や仏像の表情等に創意工夫を凝らし,輪郭線の筋彫りや描線の墨入れ,ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し,技法を凝らして入れ墨を施したことによるものと認められ,そこには原告の思想,感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって,本件入れ墨について,著作物性を肯定することができる。

(4) 被告らは,本件入れ墨は本件仏像写真の単なる機械的な模写又は単なる模倣にすぎないから著作物性が認められないと主張し,その理由として,
① 本件下絵は本件仏像写真の上にトレーシングペーパーを重ね,上から鉛筆で描線をトレースして作成したものにすぎないこと,
② 本件下絵から貼り絵を作成し,これを入れ墨施術部位に貼り付け,裏側のインクを皮膚に定着される過程は,全て機械的転位にすぎず,そこには創作性の入る余地はないこと,
③ 輪郭線の描写は,全て本件下絵に基づくか,本件下絵になかったとしても基となる本件仏像写真に表われているか,彫物師なら誰でも思い付く程度のもので創作性を認めるに値しないこと,
④ ぼかしについても,本件入れ墨の場合,ほぼ本件仏像写真の陰影と同一であって,これは写真の模倣にすぎず,創作性を認めることができないことを挙げる

 しかしながら,上記①は前提とする事実が誤りである。そして,原告は,本件入れ墨の制作に当たり,
① 下絵の作成に際して構図の取り方や仏像の表情等に創意工夫を凝らしたこと,
② 入れ墨を施すに際しては,輪郭線の筋彫りや描線の墨入れ,ぼかしの墨入れ等に際しても様々の道具を使用し,技法を凝らしたこと,これにより本件入れ墨と本件仏像写真との間には表現上の相違があり,そこには原告の思想,感情が創作的に表現されていると評価することができること
は上記説示のとおりであり,本件入れ墨が本件仏像写真の単なる機械的な模写又は単なる模倣にすぎないということはできず,被告らの上記主張は採用することができない。

機能ブロックの抽出、共通機能のサブルーチン化にプログラム作成者の個性が表れているとした事例

2011-06-12 19:23:04 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)24698
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年05月26日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) プログラムとは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(著作権法2条1項10号の2)であり,これが著作物として保護されるためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法2条1項1号)であることが必要である。
 一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解される。この点は,プログラム著作物の場合であっても同様である。

(3) これを原告プログラムについてみるに,原告プログラムは,測量業務を行うためのソフトウェアに係るプログラムであり,上記(1)で認定したとおり,プログラムの作成者において,測量業務に必要かつ便宜であると判断した機能を抽出・分類し,これらを40個近くのファイル形式で区分して集約し,相互に組み合わせたもので,膨大な量のソースコードから成り,そこに含まれる関数も多数に上るものであって,これにより,測量のための多様な機能を実現している。
 また,原告プログラムは,個別のファイルに含まれる機能の中から,共通化できる部分を抽出・分類し,これをサブルーチン化して,共通処理のためのソースコード(原告ファイル33)を作成しており,この共通処理のファイルの中だけでも,60個以上のブロックが設けられ,1000行を超えるプログラムのソースコードが含まれている(甲28の37,甲55の33)。

 このように,原告プログラムは,これを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な選択の幅があり得るはずであるにもかかわらず,上記のようなファイル形式に区分し,これらを相互に関連付けることによって作成されたものであり,プログラム作成者の個性が表れているといえる。

 また,測量用のプログラムという機能を達成するためには,単純に,機能ごとに処理式を表現すれば足りるにもかかわらず,原告プログラムは,上記のとおり,共通化できる部分を選択し,これらを抽出して1つのファイルにまとめている。これらのサブルーチンを各ファイル中のどの処理ステップ部分から切り出してサブルーチン化するのか,その際に,引数として,どのような型の変数をいくつ用いるか,あるいは,いずれかのシステム変数で値を引き渡すのか,などの選択には,多様な選択肢があり得るはずであるから,この点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。さらに,各ファイル内のブロック群で受け渡しされるどのデータをデータベースに構造化して格納するか,システム変数を用いて受け渡すのかという点にも,プログラム作成者の個性が表れているといえる。
 これらの事実に鑑みると,原告プログラムは,全体として創作性を有するものということができ,プログラム著作物であると認められる。

(4) これに対し,被告らは,原告プログラムは多くの制約がある中で記述され,作成者である被告Bの個性が表現される余地はなかったものであって,創作性を有するものではない,原告が原告プログラムにおいてプログラムの作成者の個性が表現されていると主張する部分は,「解法」(著作権法10条3項3号)に当たり,著作権法上保護されるものではない,と主張する
 しかしながら,原告プログラムにおいて作成者の個性が表現される余地がなかったとの主張については,これを裏付けるに足りる客観的な証拠はない。また,原告プログラムにおけるファイル形式の区分の仕方や,各ファイルを相互に関連付ける方法,サブルーチン群の取りまとめ方などは,「解法」に当たるものではない
したがって,被告らの上記主張は理由がないというべきである。

廃墟を作品写真として取り上げた先駆者の営業上の諸利益

2011-05-15 21:03:32 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平


3 法的保護に値する利益侵害について
 控訴人が原告各写真について主張する法的保護に値する利益として,まず廃墟を作品写真として取り上げた先駆者として,世間に認知されることによって派生する営業上の諸利益が挙げられている

 しかし,原告各写真が,芸術作品の部類に属するものであることは明らかであるものの,その性質を超えて営業上の利益の対象となるような,例えば大量生産のために供される工業デザイン(インダスリアルデザイン)としての写真であると認めることはできない
 廃墟写真を作品として取り上げることは写真家としての構想であり,控訴人がその先駆者であるか否かは別としても,廃墟が既存の建築物である以上,撮影することが自由な廃墟を撮影する写真に対する法的保護は,著作権及び著作者人格権を超えて認めることは原則としてできないというべきである。

 そして,原判決60頁2行目以下の「3 法的保護に値する利益の侵害の不法行為の成否(争点5)について」に記載のとおり,「廃墟」の被写体としての性質,控訴人が主張する利益の内容,これを保護した場合の不都合等,本件事案に表れた諸事情を勘案することにより,本件においては,控訴人主張の不法行為は成立しないと判断されるものである。控訴人が当審において主張するところによっても,上記判断は動かない。

原審

廃墟写真の本質的な特徴

2011-05-15 20:39:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平
 
1 翻案権侵害を中心とする著作権侵害の有無について
(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる

 本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。

(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,・・・。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
 しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない
・・・

原審
 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真1ないし5の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真1ないし5の作成がこれに対応する原告写真1ないし5の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真1ないし5における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか,被告写真1ないし5において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある
・・・
 そこで検討するに,原告が主張する原告写真1において旧丸山変電所の建物内部を被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その建物内部を,逆ホームベース状内壁の相当後方から,上記内壁に対して斜めに,上記内壁に接する内壁とほぼ平行の視点から撮影する撮影方向としたことのみから,原告が主張するような「旧丸山変電所の,打ち捨てられてまさに廃墟化した」印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではない。
 したがって,原告が主張する原告写真1における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない
・・・
 これらの相違点によって,原告写真1と被告写真1とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真1から原告写真1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

著作権法76条、75条の登録では著作物性を有することについて推定が及ばないとした事例

2011-05-15 19:36:38 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)35800
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

第2 事案の概要
1 本件は,原告が,被告の商品台紙(・・・)の裏面に掲載した取扱文及び写真(・・・)並びに同商品のリーフレット(・・・)は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(・・・)を 複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正の著作権(複製権,翻案権)及び著者人格権(氏名表示権,公表権,同一性保持権)を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき逸失利益200万円及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき慰謝料100万円,合計300万円の損害賠償の支払を求める事案である。
・・・

第3 当裁判所の判断
・・・
(3) 著作権法75条3項の推定
 原告は,本件手続補正書は,本件願書と実質的に同一の著作物であるところ,本件願書は著作物として登録がされているから,著作権法75条3項により著作物と推定されると主張する。
 しかし,本件願書について登録がされているのは,著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって,同法75条の登録(実名の登録)ではない
 また,著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作者であること,同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって,登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるのではない
 原告は,著作物として認められないのであれば却下理由になるはずであると主張するが,著作権に関する登録は,いわゆる形式審査により行われ,法令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないかどうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から,著作権に関する登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解することもできない

プログラムの創作性及び翻案権侵害等の判断基準

2011-03-14 20:01:41 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10051
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無について
著作権法が保護の対象とする「著作物」であるというためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(同法2条1項1号)。思想又は感情や,思想又は感情を表現する際の手法やアイデア自体は,保護の対象とならない。例えば,プログラムにおいて,コンピュータにどのような処理をさせ,どのような指令(又はその組合せ)の方法を採用するかなどの工夫それ自体は,アイデアであり,著作権法における保護の対象とはならない

 また,思想又は感情を「創作的に」表現したというためには,当該表現が,厳密な意味で独創性のあることを要しないが,作成者の何らかの個性が発揮されたものであることが必要である。この理は,プログラムについても異なることはなく,プログラムにおける「創作性」が認められるためには,プログラムの具体的記述に作成者の何らかの個性が発揮されていることを要すると解すべきである。もっとも,プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)であり,コンピュータに対する指令の組合せという性質上,表現する記号や言語体系に制約があり,かつ,コンピュータを経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似せざるを得ず,作成者の個性を発揮する選択の幅が制約される場合があり得る。プログラムの具体的表現がこのような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていない,ありふれた表現として,創作性が否定される
 また,著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法10条3項),一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性を肯定することはできない。

 さらに,後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できるか否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない

 上記の観点に照らして,以下,個別的に検討する。

イ 個別的判断
 (ア) 星座を求めるプログラム
・・・。「②恋愛の神様」のプログラムは,上記アイデアを実現するために,基本的な命令であるswitch-case 文if-else 文を組み合わせて単純な条件分岐をする,一般的,実用的な記述であり,その長さも短いものであるから,作成者の個性が発揮された表現と評価することはできない。なお,プログラムの作成当時,多用されていなかったPHP言語を使用したという事情があるからといって,作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラムは,ありふれた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。

<原審>
事件番号 平成18(ワ)24088
裁判年月日 平成22年04月28日
裁判長裁判官 岡本岳

自動生成コードを含むプログラムの著作物性の有無

2011-02-12 13:26:59 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)11762
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告プログラムの著作物性について
・・・
イ そこで,原告プログラムにおける創作性の有無について検討するに,一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解されるところ,この点は,プログラム著作物の場合であっても特段異なるものではないというべきであるから,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又はごくありふれたものである場合には,作成者の個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるべきであるが,これらの場合には当たらず,作成者の何らかの個性が発揮されているものといえる場合には,創作性が認められるべきである

 しかるところ,原告プログラムは,上記アのとおり,株価チャート分析のための多様な機能を実現するものであり,膨大な量のソースコードからなり,そこに含まれる関数も多数にのぼるものであって,原告プログラムを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な可能性があり得るはずであるから,特段の事情がない限りは,原告プログラムにおける具体的記述をもって,誰が作成しても同一になるものであるとか,あるいは,ごくありふれたものであるなどとして,作成者の個性が発揮されていないものと断ずることは困難ということができる。

ウ これに対し,被告らは,原告プログラムにおいては,画面上の構成要素を貼り付け,ボタン等を配置するために必要なプログラムなど,開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり,これらの部分には創作性がないとした上で,原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると,別紙5において☆,○又は□の印を記載したものについては,自動生成コードが相当割合を占めることから,創作性が認められない旨を主張する。

 しかしながら,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても,少なくとも別紙5において△の印が記載された合計10の関数については,被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており,創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。
・・・
 この点,被告らは,これらの関数について,汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが,汎用的プログラムの組合せであったとしても,それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上,このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから,被告らの上記主張は採用できない

 してみると,被告らの上記主張を前提としても,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において,自動生成コードが1割以下にとどまっており,それ以外のコードは,その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから,プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる

アナログチューナー非搭載DVD録画機器は,施行令1条2項3号の特定機器に該当するか

2011-01-10 20:12:47 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)40387
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年12月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告各製品の特定機器該当性)について
(1) 施行令1条2項3号の特定機器
 原告は,被告各製品は,・・・特定機器(・・・)に該当する旨主張する。
 これに対し被告は,・・・,アナログチューナー非搭載DVD録画機器である被告各製品は,施行令1条2項3号の特定機器に該当せず,また,同号柱書きの・・・「アナログデジタル変換が行われた影像」とは,デジタル方式の録画の機能を有する機器の内部でアナログデジタル変換(AD変換)が行われた影像に限定されるから,アナログチューナーを搭載していない・・・被告各製品は,・・・,同号の特定機器に該当しないなどと主張して争っている。
・・・

(2) 施行令1条2項3号柱書きの「アナログデジタル変換が行われた影像」の意義
ア 法30条2項は,・・・と規定し,私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」は,「政令で定めるもの」として,その具体的な機器の指定を政令への委任事項としている。
 このように法30条2項が私的録音録画補償金の対象となる「デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器」の具体的な機器の指定を政令への委任事項とした趣旨は,私的録音録画補償金を支払うべき機器の範囲を明確にするためには,・・・客観的・一義的な技術的事項により特定することが相当であり,しかも,・・・技術開発により新たな機能,技術仕様等を備えた機器が現れ,普及することが想定され,このような機器を私的録音録画補償金の対象とするかどうかを適時に決める必要があること,逆に,・・・適時に除外する必要があることなどを考慮し,具体的な特定機器の指定については,法律で定める事項とするよりも,政令への委任事項とした方がより迅速な対応が可能となるものと考えられたことによるものと解される。
 このような法30条2項の趣旨に照らすならば,法30条2項の委任に基づいて制定された「政令」で定める特定機器の解釈に当たっては,当該政令の文言に忠実な文理解釈によるのが相当であると解される。
・・・
 施行令1条2項3号は,上記のとおり,同号に係る特定機器において固定される対象について,「アナログデジタル変換が行われた影像」と規定するのみであり,特に「アナログデジタル変換」が行われる場所についての文言上の限定はない。
 ・・・
 このように施行令1条の文言においては,同条2項3号の特定機器において固定される対象について,「アナログデジタル変換」すなわち「アナログ信号をデジタル信号に変換する」処理が行われた「影像」であることが規定されるのみであり,当該変換処理が行われる場所的要素,すなわち,当該変換処理が当該機器内で行われたものか,それ以外の場所で行われたものかについては,何ら規定されていない。
・・・
 してみると,特定機器に関する法30条2項及び施行令1条の各文言によれば,施行令1条2項3号の「アナログデジタル変換が行われた影像」とは,変換処理が行われる場所のいかんに関わらず,「アナログ信号をデジタル信号に変換する処理が行われた影像」を意味するものと解するのが相当である。
・・・
イ 前記第2の3(4)アのとおり,被告各製品は,いずれもデジタルチューナーを搭載しており,地上デジタル放送,BSデジタル放送及び110度CSデジタル放送の各デジタル放送を受信し,その影像をDVDに録画する機能を有する機器である。他方,デジタル放送においてデジタル信号として送信される影像の大部分は,もともとアナログ信号であったものについて,撮影から放送に至るいずれかの過程においてデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる(デジタルビデオカメラで撮影された影像の場合には,当該デジタルビデオカメラ内において,アナログビデオカメラで撮影された影像の場合には,放送局内の設備において,アナログ信号からデジタル信号に変換する処理が行われているものと考えられる。)。
 したがって,被告各製品は,「光学的方法により,アナログデジタル変換が行われた影像を,連続して固定する機能を有する機器であること」(施行令1条2項3号柱書き)の要件を満たすものといえる。