知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

自動生成コードを含むプログラムの著作物性の有無

2011-02-12 13:26:59 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)11762
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成23年01月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎


(1) 原告プログラムの著作物性について
・・・
イ そこで,原告プログラムにおける創作性の有無について検討するに,一般に,ある表現物について,著作物としての創作性が認められるためには,当該表現に作成者の何らかの個性が表れていることを要し,かつそれで足りるものと解されるところ,この点は,プログラム著作物の場合であっても特段異なるものではないというべきであるから,プログラムの具体的記述が,誰が作成してもほぼ同一になるもの,簡単な内容をごく短い表記法によって記述したもの又はごくありふれたものである場合には,作成者の個性が発揮されていないものとして創作性が否定されるべきであるが,これらの場合には当たらず,作成者の何らかの個性が発揮されているものといえる場合には,創作性が認められるべきである

 しかるところ,原告プログラムは,上記アのとおり,株価チャート分析のための多様な機能を実現するものであり,膨大な量のソースコードからなり,そこに含まれる関数も多数にのぼるものであって,原告プログラムを全体としてみれば,そこに含まれる指令の組合せには多様な可能性があり得るはずであるから,特段の事情がない限りは,原告プログラムにおける具体的記述をもって,誰が作成しても同一になるものであるとか,あるいは,ごくありふれたものであるなどとして,作成者の個性が発揮されていないものと断ずることは困難ということができる。

ウ これに対し,被告らは,原告プログラムにおいては,画面上の構成要素を貼り付け,ボタン等を配置するために必要なプログラムなど,開発ツールであるMicrosoft社の「Visual Studio.net」によって自動生成された部分が相当の分量に及んでおり,これらの部分には創作性がないとした上で,原告プログラムのうちのMainForm.csの原告ソースコードに含まれる各関数を分析すると,別紙5において☆,○又は□の印を記載したものについては,自動生成コードが相当割合を占めることから,創作性が認められない旨を主張する。

 しかしながら,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる各関数における自動生成コードの占める割合が被告ら主張のとおりであることを前提にしたとしても,少なくとも別紙5において△の印が記載された合計10の関数については,被告ら自身が汎用的でないコードからなるものであることを認めており,創作性が認められることに実質的な争いはないものといえる。
・・・
 この点,被告らは,これらの関数について,汎用的プログラムの組合せであることを理由として創作性が否定されるかのごとく主張するが,汎用的プログラムの組合せであったとしても,それらの選択と組合せが一義的に定まるものでない以上,このような選択と組合せにはプログラム作成者の個性が発揮されるのが通常というべきであるから,被告らの上記主張は採用できない

 してみると,被告らの上記主張を前提としても,MainForm.csの原告ソースコードについては,そこに含まれる298の関数のうちの約6割(174/298)において,自動生成コードが1割以下にとどまっており,それ以外のコードは,その選択と組合せにおいてプログラム作成者の個性が発揮されていることが推認できるというべきであるから,プログラム著作物としての創作性を優に肯定することができる

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