知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

廃墟写真の本質的な特徴

2011-05-15 20:39:12 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10010
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
裁判長裁判官 塩月秀平
 
1 翻案権侵害を中心とする著作権侵害の有無について
(1) 著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決民集55巻4号837頁(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる

 本件の原告写真1~5は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。

(2) 被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,・・・。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
 しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない
・・・

原審
 本件において,原告は,「廃墟写真」の写真ジャンルにおいては被写体である「廃墟」の選定が重要な意味を持ち,原告写真1ないし5の表現上の本質的な特徴は被写体及び構図の選択にある旨主張しているので,被告写真1ないし5の作成がこれに対応する原告写真1ないし5の翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,原告が主張する原告写真1ないし5における被写体及び構図の選択における本質的特徴部分が上記のような表現上の本質的な特徴に当たるかどうか,被告写真1ないし5において当該表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある
・・・
 そこで検討するに,原告が主張する原告写真1において旧丸山変電所の建物内部を被写体として選択した点はアイデアであって表現それ自体ではなく,また,その建物内部を,逆ホームベース状内壁の相当後方から,上記内壁に対して斜めに,上記内壁に接する内壁とほぼ平行の視点から撮影する撮影方向としたことのみから,原告が主張するような「旧丸山変電所の,打ち捨てられてまさに廃墟化した」印象や見る者に与える強いインパクトを感得することができるものではない。
 したがって,原告が主張する原告写真1における被写体及び構図ないし撮影方向そのものは,表現上の本質的な特徴ということはできない
・・・
 これらの相違点によって,原告写真1と被告写真1とでは写真全体から受ける印象が大きく異なるものとなっており,被告写真1から原告写真1の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない

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