知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

プログラムの創作性及び翻案権侵害等の判断基準

2011-03-14 20:01:41 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10051
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(1) プログラムの創作性及び翻案権侵害等の有無について
著作権法が保護の対象とする「著作物」であるというためには,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(同法2条1項1号)。思想又は感情や,思想又は感情を表現する際の手法やアイデア自体は,保護の対象とならない。例えば,プログラムにおいて,コンピュータにどのような処理をさせ,どのような指令(又はその組合せ)の方法を採用するかなどの工夫それ自体は,アイデアであり,著作権法における保護の対象とはならない

 また,思想又は感情を「創作的に」表現したというためには,当該表現が,厳密な意味で独創性のあることを要しないが,作成者の何らかの個性が発揮されたものであることが必要である。この理は,プログラムについても異なることはなく,プログラムにおける「創作性」が認められるためには,プログラムの具体的記述に作成者の何らかの個性が発揮されていることを要すると解すべきである。もっとも,プログラムは,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法2条1項10号の2)であり,コンピュータに対する指令の組合せという性質上,表現する記号や言語体系に制約があり,かつ,コンピュータを経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似せざるを得ず,作成者の個性を発揮する選択の幅が制約される場合があり得る。プログラムの具体的表現がこのような記述からなる場合は,作成者の個性が発揮されていない,ありふれた表現として,創作性が否定される
 また,著作物を作成するために用いるプログラム言語,規約,解法には,著作権法による保護は及ばず(同法10条3項),一般的でないプログラム言語を使用していることをもって,直ちに創作性を肯定することはできない。

 さらに,後に作成されたプログラムが先に作成されたプログラムに係る複製権ないし翻案権侵害に当たるか否かを判断するに当たっては,プログラムに上記のような制約が存在することから,プログラムの具体的記述の中で,創作性が認められる部分を対比し,創作性のある表現における同一性があるか否か,あるいは,表現上の創作的な特徴部分を直接感得できるか否かの観点から判断すべきであり,単にプログラム全体の手順や構成が類似しているか否かという観点から判断すべきではない

 上記の観点に照らして,以下,個別的に検討する。

イ 個別的判断
 (ア) 星座を求めるプログラム
・・・。「②恋愛の神様」のプログラムは,上記アイデアを実現するために,基本的な命令であるswitch-case 文if-else 文を組み合わせて単純な条件分岐をする,一般的,実用的な記述であり,その長さも短いものであるから,作成者の個性が発揮された表現と評価することはできない。なお,プログラムの作成当時,多用されていなかったPHP言語を使用したという事情があるからといって,作成者の個性を認める理由とはならない。
したがって,「②恋愛の神様」の星座を求めるプログラムは,ありふれた表現として,創作性がなく,著作物とはいえない。

<原審>
事件番号 平成18(ワ)24088
裁判年月日 平成22年04月28日
裁判長裁判官 岡本岳

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