知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

引用としての利用に当たるか否かの判断

2010-10-25 22:57:46 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10052
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成22年10月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(1) 引用の適法性の要件
ア 著作権法は,著作物等の文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的とするものであるが(同法1条),その目的から,著作者の権利の内容として,著作者人格権(同法第2章第3節第2款),著作権(同第3款)などについて規定するだけでなく,著作権の制限(同第5款)について規定する。
その制限の1つとして,公表された著作物は,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(同法32条1項),他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり,著作権法の上記目的をも念頭に置くと,引用としての利用に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない

イ ・・・

(2) 要件の充足性の有無
ア そこで,前記見地から,本件各鑑定証書に本件各絵画を複製した本件各コピーを添付したことが著作権法32条にいう引用としての利用として許されるか否かについて検討すると,本件各鑑定証書は,そこに本件各コピーが添付されている本件各絵画が真作であることを証する鑑定書であって,本件各鑑定証書に本件各コピーを添付したのは,その鑑定対象である絵画を特定し,かつ,当該鑑定証書の偽造を防ぐためであるところ,そのためには,一般的にみても,鑑定対象である絵画のカラーコピーを添付することが確実であって,添付の必要性・有用性も認められることに加え,著作物の鑑定業務が適正に行われることは,贋作の存在を排除し,著作物の価値を高め,著作権者等の権利の保護を図ることにもつながるものであることなどを併せ考慮すると,著作物の鑑定のために当該著作物の複製を利用することは,著作権法の規定する引用の目的に含まれといわなければならない。

 そして,本件各コピーは,いずれもホログラムシールを貼付した表面の鑑定証書の裏面に添付され,表裏一体のものとしてパウチラミネート加工されており,本件各コピー部分のみが分離して利用に供されることは考え難いこと,本件各鑑定証書は,本件各絵画の所有者の直接又は間接の依頼に基づき1部ずつ作製されたものであり,本件絵画と所在を共にすることが想定されており,本件各絵画と別に流通することも考え難いことに照らすと,本件各鑑定証書の作製に際して,本件各絵画を複製した本件各コピーを添付することは,その方法ないし態様としてみても,社会通念上,合理的な範囲内にとどまるものということができる。
 しかも,以上の方法ないし態様であれば,本件各絵画の著作権を相続している被控訴人等の許諾なく本件各絵画を複製したカラーコピーが美術書等に添付されて頒布された場合などとは異なり,被控訴人等が本件各絵画の複製権を利用して経済的利益を得る機会が失われるなどということも考え難いのであって,以上を総合考慮すれば,控訴人が,本件各鑑定証書を作製するに際して,その裏面に本件各コピーを添付したことは,著作物を引用して鑑定する方法ないし態様において,その鑑定に求められる公正な慣行に合致したものということができ,かつ,その引用の目的上でも,正当な範囲内のものであるということができるというべきである

イ この点につき,被控訴人は,著作権法32条1項における引用として適法とされるためには,利用する側が著作物であることが必要であると主張するが,「自己ノ著作物中ニ正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」を要件としていた旧著作権法(明治32年法律第39号)30条1項2号とは異なり,現著作権法(昭和45年法律第48号)32条1項は,引用者が自己の著作物中で他人の著作物を引用した場合を要件として規定していないだけでなく,報道,批評,研究等の目的で他人の著作物を引用する場合において,正当な範囲内で利用されるものである限り,社会的に意義のあるものとして保護するのが現著作権法の趣旨でもあると解されることに照らすと,同法32条1項における引用として適法とされるためには,利用者が自己の著作物中で他人の著作物を利用した場合であることは要件でないと解されるべきものであって,本件各鑑定証書それ自体が著作物でないとしても,そのことから本件各鑑定証書に本件各コピーを添付してこれを利用したことが引用に当たるとした前記判断が妨げられるものではなく,被控訴人の主張を採用することはできない

原審:平成20(ワ)31609 平成22年05月19日 東京地方裁判所 裁判長裁判官 清水節
複製権侵害認容 フェアユースの主張認めず

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 11:01:53 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

(2) 争点(3)(不法行為の成否及び原告らの損害額)について
 前記(1)に説示したとおり,被告に原告ら主張の許諾義務があるということはできず,また,本件脚本の利用について共同著作物に関する著作権法65条3項の規定が類推適用されるということもできない。
 そうすると,二次的著作物である本件脚本の利用に関し,原著作物の著作者である被告は本件脚本の著作者である原告Xが有するものと同一の種類の権利を専有し,原告Xの権利と被告の権利とが併存することになるのであるから,原告Xの権利は同原告と被告の合意によらなければ行使することができないと解される(最高裁平成13年10月25日第一小法廷判決・判例時報1767号115頁参照)。したがって,被告は,本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて,原著作物の著作者として諾否の自由を有しているというべきであり,その許諾をしなかったとしても,原著作物の著作者として有する正当な権利の行使にすぎない

二次的著作物の利用についての著作権法65条3項の類推適用の可否

2010-09-20 10:55:34 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)24208
事件名 出版妨害禁止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月10日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳


ウ なお,原告らは,本件脚本(二次的著作物)の利用については,共同著作物に関する著作権法65条3項の規定と同様の規律がされるべきであり,原作者が二次的著作物の利用を拒絶するには「正当な理由」がなければならないなどとも主張する
 同主張は,本件ただし書規定の解釈に関してなされたものであるが,二次的著作物の利用の場合に上記条項が類推適用されるとすれば,二次的著作物である本件脚本の著作者である原告Xは被告に対し同条項に基づき本件脚本を「年鑑代表シナリオ集」に収録,出版することについて同意を求めることができると解する余地があるので,念のため付言する。

 著作権法は,共同著作物(同法2条1項12号)と二次的著作物(同項11号)とを明確に区別した上,共同著作物については,著作者間に「共同して創作した」という相互に緊密な関係があることに着目し,各共有著作権者の権利行使がいたずらに妨げられることがないようにするという配慮から,同法65条3項のような制約を課したものと解される。これに対し,二次的著作物については,その著作者と原作者との間に上記のような緊密な関係(互いに相補って創作をしたという関係)はなく,原作者に対して同法65条3項のような制約を課すことを正当化する根拠を見いだすことができないから,同項の規定を二次的著作物の原作者に安易に類推適用することは許されないというべきである。したがって,原告らの上記主張は採用することができない。

外部撮影会社の新聞社に対する二次使用許諾の有無

2010-09-20 08:24:29 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)2813
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年09月09日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

(1) 当事者
 原告P1は,昭和55年ころから,フリーのカメラマンとして活動していたが,昭和60年12月に,撮影した写真やフィルムの管理を行う原告会社を設立した。
 原告P2は,平成5年1月に,カメラマンとして原告会社に入社した。
 被告は新聞社であり,自社カメラマンが所属する写真部を有していたが,自社カメラマンが多忙で人手不足の時など,外部のカメラマンに撮影を依頼することがあった。
 ・・・

イ2次使用許諾
(ア) 再掲載の場合
 前記ア(エ)のとおり,被告新聞は,日刊新聞であって,日々の出来事を報道することを主たる目的としており,同一の写真を,複数回にわたって掲載したり,一定期間継続して掲載することは,通常は予定していない。したがって,被告新聞への掲載にあたっての著作権者の使用許諾も,合理的な期間内における1回的なものと見るべきである。
 これは,再掲載にあたりカメラマンの許諾を得るという,被告写真部における一般的な取扱い(証人P4)とも整合する。
そして,被告が,再掲載にあたり,原告P1らの個別の許諾を得て
いなかったことには争いがないし,著作権の譲渡の間接事実とされた前記アの各事実が,2次使用に係る包括的な許諾を裏付けるものとも認めがたい。
 したがって,本件において2次使用許諾があったとの事実は認められない。

(イ) 別カット写真掲載の場合
 別カット写真の使用は,2次使用とは異なる使用形態であるが,被告は,別カット写真の使用についても,2次使用の場合と同様に,使用許諾の抗弁を主張していると考えられる。
 しかしながら,前記(ア)のような被告新聞の性格や,複数枚の候補写真(フィルム)の中から適切なものが選択されるという掲載の形態からして,被告が受けた使用許諾は,「フィルムに感光された写真を,全て1回ずつ使用することができる」というものではなく,「撮影に係る出来事を記事にする際に,フィルムに感光されたどの写真を使用してもよい」というものと考えられる
 したがって,記事に使用しなかった写真を,後に別の記事に転用することは,許諾の範囲を超えるものといえるのであって,被告の使用許諾の抗弁は認められない

著作権法の保護するもの

2010-08-07 20:15:04 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10017等
事件名 著作権侵害差止等反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成22年07月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ニ小括
 既に説示したとおり,著作権法は,思想又は感情の創作的表現を著作物として保護するものである(著作権法2条1項1号)から,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分は,著作権法による保護が及ばない。
 すなわち,歴史的事実の発見やそれに基づく推論等のアイデアは,それらの発見やアイデア自体に独自性があっても,著作に当たってそれらを事実又は思想として選択することは,それ自体,著作権による保護の対象とはなり得ない
 そのようにして選択された事実又は思想の配列は,それ自体としてひとつの表現を構成することがあり得るとしても,以上のとおり,原判決添付別紙対比表2記載の各被控訴人書籍記述部分の事実又は思想の選択及び配列自体には,いずれも表現上の格別な工夫があるとまでいうことはできないばかりか,上記各被控訴人書籍記述部分とこれに対応する各控訴人書籍記述部分とでは,事実又は思想の選択及び配列が異なっているのである。

 したがって,上記各控訴人書籍記述部分は,これに対応する各被控訴人書籍記述部分と単に記述されている事実又は思想が共通するにとどまるから,これについて各被控訴人書籍記述部分の複製又は翻案に当たるものと認めることができないことは明らかである。

著作権の侵害を請求原因として主張している場合の慰謝料

2010-07-04 22:44:46 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)36373
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年06月02日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

イ 慰謝料について
 原告は,本件訴訟において,レコード製作者の著作隣接権及び本件ジャケット等の著作権の侵害を請求原因として主張しているところ,これらは,いずれも財産権であるから,その侵害によって生じるのは,原則として財産的な損害のみであって,そのてん補のみによっては十分に損害を回復することができない等の特段の事情がある場合に限り,慰謝料請求を認めるのが相当である。そして,本件においては,このような特段の事情の存在を認めるに足る証拠はない。

 このほか,原告は,責任の所在等を原告の屋号と表示していることに対する慰謝料であるとも主張するが,責任の所在等を原告の屋号と表示していることが不法行為となり,原告の精神的損害を生じさせる根拠が明らかではなく,原告の主張は採用することができない。

 したがって,本件においては,前記アの財産的損害のほか,慰謝料の支払によって慰謝すべき精神的損害があるとは認められず,原告に慰謝料請求権があるとは認められない。

翻案権侵害と一般不法行為の成否の判断事例

2010-07-04 18:24:00 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10008
事件名 著作権翻案物発行禁止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 当裁判所は,
① 原告書籍各部分は,表現においてありふれたものであって創作性がないか,創作性があったとしても表現上の特徴はないこと,そして,被告書籍各部分と原告書籍各部分とは,取り上げられたエピソードやアイデアにおいて共通する部分があるものの,原告書籍各部分の表現上の本質的な特徴を直接感得するものとはいえないから,被告書籍各部分は,原告書籍各部分を翻案したものとはいえない
② 被告書籍を出版,販売する行為は,原告の有する著作者人格権(同一性保持権等)を侵害するとはいえない,
③ 被告書籍を出版,販売する行為は,不法行為を構成しない,と判断する。その理由は,次のとおり付加変更するほかは,原判決の「第3 当裁判所の判断」(原判決30頁1行目から44頁16行目まで)の記載と同じであるから,これを引用する。

1 原判決の付加変更
 ・・・
(4) 原判決44頁13行目(ブログ筆者注:3行目の誤りか。)の「あるから」を,「ある上,被告書籍は原告書籍の表現それ自体でない部分,表現上の創作性がない部分又は表現上の本質的特徴のない部分を利用したにとどまり,違法な行為態様と解することはできないから」と改める。

<原審>
事件番号 平成20(ワ)5534
事件名 著作権翻案物発行禁止等請求事件
裁判年月日 平成21年12月24日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

3 争点4(一般不法行為の成否)について
 原告は,仮に被告書籍の出版,頒布行為が原告の原告書籍に対する著作権及び著作者人格権の侵害に該当しないとしても,被告らの行為は民法上の一般不法行為に該当すると主張する

 しかしながら,被告書籍は,原告書籍に記載された実在の事実を利用して執筆されたものであり,事実については特定の者に独占させることは許されないものであるから,(*上記付加挿入部分)被告Yが原告書籍を参照して被告書籍を執筆し,これを被告小学館が本件雑誌に掲載して出版したとしても,これを違法な行為であるということはできず,民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。原告の主張は理由がない。

旧著作権法下の映画の著作者

2010-06-28 22:43:01 | 著作権法
事件番号 平成21(ネ)10050
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年06月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

3 本件各映画の著作者及び原告がその著作権を有するかについて
・・・
(1) 本件各映画は,いずれも新著作権法が施行される前に創作された映画の著作物であり,同法附則4条によれば,映画の著作物の著作者に関する規定である同法16条は適用されないから,本件各映画の著作者がだれかについては,旧著作権法によることになる。

 そして,旧著作権法においては,映画の著作物の著作者について直接定めた規定はなく,著作物一般についての著作者の定義や著作物の定義を定める規定もないものの,この点につき,新著作権法における解釈と特段異なる解釈をすべき理由が見当たらないことからすれば,旧著作権法の下においても,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいうと解される
 そして,映画は,脚本家,監督,演出者,俳優,撮影や録音等の技術者など多数の者が関与して創り出される総合著作物であるから,旧著作権法の下における映画の著作物の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者がだれであるかを基準として判断すべきものと解される
・・・

(3) 上記(2)アないしウのとおり,本件各監督は,それぞれ本件各映画の制作に,監督として相当程度関与したものであり,Aは,本件映画1の脚本担当者の1人にもなっている。
 しかし,本件各監督は,いずれも,本件各映画において,俳優として関与してはおらず,本件各映画において,本件各監督自身の演技などを通して,本件各監督の思想・感情が顕著に表れているものではない。また,本件各監督は,いずれも,本件各映画において,原作,制作,演出等を担当していたものでもなく(・・・),A以外のB及びCは,いずれも脚本を担当していない。
 そうであってみれば,本件は,チャップリンに関する最高裁平成20年(受)第889号平成21年10月8日第一小法廷判決・判例時報2064号120頁とは,事案を大きく異にし,本件各監督が,本件各映画の発案から完成に至るまでの制作活動のすべて又は大半を行ったものとは到底認められず,本件各監督は,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与した者の一人にすぎないものと認められ,また,その寄与の程度については,格別の立証がなく,そのおおよその程度についても認めるに足りる証拠はない。

(4) ところで,旧著作権法6条は,著作物の存続期間を定めた規定であるものと解されるが,同条につき,さらに,法人等の団体が著作者となり得ることを前提とした規定であると解することも可能である。
 そして,新著作権法における職務著作の規定の実質的な根拠とされた,法人等における著作物の創作実態及び利用上の便宜の必要性等の事情(・・・)は,旧著作権法の下においても,程度の差こそあれ存在していたものと推認できることからすれば,同法6条によって,直ちに,著作者として表示された映画製作会社がその映画の著作者となると帰結されるものでないとしても,旧著作権法の下において,実際に創作活動をした自然人ではなく,団体が著作者となる場合も一応あり得たものというべきである。

 特に,映画制作においては,非常に多くの者が関与し,その外延が不明なことが通常であり,それら多数の者の複雑な共同作業によって映画が完成するものであるが,その関与者の関与の時期,程度,態様等も,映画によって千差万別であって,このような性質を有する映画については,映画会社がその著作者となり,原始的にその著作権を取得したものと観念するのが,各関与者の意図に合致する場合もあったものと想像され,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備え,映画会社が原始的に著作者となるべきものと認める映画も相当数あったのではないかと思われる

(5) この見地から,本件各映画についてみるに,新著作権法15条1項所定の要件が充たされているかは,具体的には,①法人その他使用者(法人等)の発意に基づき,②その法人等の業務に従事する者が,③職務上作成する著作物で,④その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもので,⑤その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがないかについて検討することになるところ,・・・,原告や新東宝が,自社の制作名義の下に本件各映画を公表したとはいい得るが,自社を著作者とした映画として公表したとまでいい得るか,必ずしも断じ難いものがある。そのほかの要件については,本件では,必要な証拠が十分に提出されていないため,確たることは不明であるといわざるを得ない。

 そうすると,旧著作権法下において,本件各映画が著作物として保護を受けることは明らかであるところ,その著作者としては,原告ないし新東宝と本件各監督を含む多数の自然人とのいずれと認めるのが合理的であるかについては,新著作権法15条1項の要件が証拠不十分のため,認められないとすれば,本件各映画の著作権は,本件各監督を含む多数の自然人に発生したものといわざるを得ない

旧著作権法下の注意義務

2010-06-28 06:11:15 | 著作権法
事件番号 平成21(ネ)10050
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年06月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

6 被告の故意又は過失の有無について
(1) 被告は,著作権の存続期間が満了してパブリックドメインとなった映画の販売等を業として行っていることが認められる(・・・)。なお,原判決は,このような事業を行う者としては,自らが取り扱う映画の著作物の著作権の存続期間が満了したものであるか否かについて,十分調査する義務を負っているものと解すべきであると判示するが,一般論としてそのような調査義務を負っていることは認められるが,そうであるからといって,そのような業者が高度の注意義務や特別の注意義務を負っているということはできない

(2) 旧著作権法における映画の著作物の著作者については,原則として自然人が著作者になるのか,例外なく自然人しか著作者になり得ないのか,映画を制作した法人が著作者になり得るのか,どのような要件があれば法人も著作者になり得るのかをめぐっては,旧著作権法時代のみならず,現在でも学説が分かれており,これについて適切な判例や指導的な裁判例もない状況であることは,証拠(甲4,86ないし89,乙1ないし7等)に徴するまでもなく,当裁判所に顕著である。

 旧著作権法下における映画著作権の存続期間の満了の問題については,シェーン事件における地裁,高裁,最高裁の判決が報道された当時,法律家の間でさえ全くといってよいほど正確に認識されておらず,この点は,チャップリン事件の地裁,高裁,最高裁の判決が出た今日でも,同事件に登場してくるチャップリンが原作,脚本,制作,監督,演出,主演等をほぼすべて単独で行っているというスーパースターであるため,十分な問題認識が提起されたとはいえない。
 この問題が本格的に取り上げられるようになったのは,映画の著作権を有する会社が,我が国で最も著名な映画監督の1人といえる黒澤明の作品について,本件の原告等が本件の被告に対し本件と同種の訴訟を提起したことに事実上始まっているにすぎない。そして,チャップリン事件では,最高裁は先例性のある判断を示しているが,黒澤監督の作品では,黒澤監督以外に著作者がいることが想定されており,明らかにチャップリン事件よりも判例として射程距離が大きく判断も難しい事件であるところ,最高裁は上告不受理の処理を選択し,格別,判断を示していない。そして,本件各監督は,有名な監督ではあるが,黒澤監督の作品よりも,その著作者性はさらに低く,自然人として著作者の1人であったといえるか否かの点は判断の分かれるところである。
 そうであるとすれば,本件において,何人が著作者であるか,それによって存続期間の満了時期が異なることを考えれば,結果的に著作者の判定を異にし,存続期間の満了時期に差異が生じたとしても,被告の過失を肯定し,損害賠償責任を問うべきではない

 原判決は,被告のような著作権の保護期間が満了した映画作品を販売する業者については,その輸入・販売行為について提訴がなされた場合に,自己が依拠する解釈が裁判所において採用されない可能性があることは,当然に予見すべきであるかのような判断をするが,映画の著作物について,そのような判断をすれば,見解の分かれる場合には,裁判所がいかなる見解を採るか予測可能性が低く,すべての場合にも対処しようとすれば,結果として当該著作物の自由利用は事実上できなくなるため,保護期間満了の制度は機能しなくなり,本来著作権の保護期間の満了した著作物を何人でも自由に利用することを保障した趣旨に反するものであり,当裁判所としては採用することはできない。

 したがって,原告の著作権侵害に基づく損害賠償の請求は理由がない。

委託契約により開発したソフトウェアの著作権

2010-05-30 11:53:57 | 著作権法
事件番号 平成21(行コ)10001
事件名 法人税更正処分取消等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年05月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

2 以上の事実を前提とすれば,本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実を認めることはできない。その理由は,次のとおりである。

(1) 一般的に,著作権は,不動産の所有者や預金の権利者が権利発生等についての出捐等によって客観的に判断されるのと異なり,著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから(著作権法2条1項2号,同法17条),ソフトウェアの著作権の帰属は,原則として,それを創作した著作者に帰属するものであって,開発費の負担によって決せられるものではなく,システム開発委託契約に基づき受託会社によって開発されたプログラムの著作権は,原始的には受託会社に帰属するものと解される。

 また,旧岡三証券とOISとの間の本件委託業務基本契約(甲22)に基づくデータ処理業務は,上記認定の内容からすれば,情報処理委託契約であると解されるところ,情報処理委託契約は,委託者が情報の処理を委託し,受託者がこれを受託し,計算センターが行う様々な情報処理に対し,顧客が対価を支払う約定によって成立する契約であって,著作権の利用許諾契約的要素は含まれないと解される。

 本件においては,前記認定のとおり,旧岡三証券とOIS間において,昭和55年7月1日に締結された本件委託業務基本契約にも,著作権の利用許諾要素は全く含まれていないが,それは上記の理由によりいわば当然であり,また,証拠(甲61,62,70ないし73)によれば,そのような場合でも,委託者が,受託者に対し,システム開発料として多額の支出をすることは,一般的にあり得ることと認められるから,単に開発したソフトウェアが主に委託者の業務に使用されるものであるとの理由で,委託者がその開発料を支払っていれば,直ちにその開発料に対応して改変された著作物の著作権が委託者に移転されるということにはならないことは明らかである。
 著作権はあくまで著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから,例えば,・・・ように,その譲渡にはその旨の意思表示を要することは,他の財産権と異なるものではない。

 したがって,本件においても,上記のような明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである。
そして,本件全証拠を精査しても,一度原始的にOISに帰属した本件ソフトウェアの著作権が,旧岡三証券がその開発費用を支出した都度,本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示的に譲渡されていたことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

論文の著作権侵害の判断事例

2010-05-29 22:15:44 | 著作権法
事件番号 平成22(ネ)10004
事件名 著作権侵害確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年05月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 著作権法において,著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法2条1項1号)と規定する。
 したがって,著作権法により保護されるためには,思想又は感情が創作的に表現されたものであることが必要である。そして,当該記述が,創作的に表現されたものであるというためには,厳密な意味で,作成者の独創性が表現として現れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として現れていることを要する

 また,著作権法が保護する対象は,思想又は感情の創作的な表現であり,思想,感情,アイデアや事実そのものではないしたがって,原告が著作権の保護を求める「第1論文中の複製権又は翻案権が侵害されたと原告が主張する部分」が著作権法による保護の対象になるか否か,また,第2論文の該当箇所が第1論文の該当箇所を複製又は翻案したものであるか否かを判断するに当たって,上記の点を考慮すべきことになる。

 本件においては,前記のとおり,第1論文は,「書き取りにおける音素-書記素変換」と「音読における書記素-音素変換」に共通する脳内部位を明らかにすることを目的とした研究に係る論文であるのに対して,第2論文は,「書き取りにおける音素-書記素変換」の脳内部位に焦点を当てて発展させた研究に係る論文である。第2論文は,研究の目的,課題設定及び結論を導く手法等において,第1論文とは相違する独自の論文であるが,一方で,機能的磁気共鳴画像法(f-MRI)を用いていること,「音素-書記素変換」に活用される神経的基盤を明らかにすることなどの点において,第1論文と共通する点がある。
 両論文を対比するに当たり,各部位の名称,従来の学術研究の紹介,実験手法や研究方法の説明など,内容の説明に係る部分は,事実やアイデアに係るものであるから,それらの内容において共通する部分があるからといって,その内容そのものの対比により,著作権法上の保護の是非を判断すべきことにはならない

 上記観点に照らして,
①「第1論文中の複製権又は翻案権が侵害されたと原告が主張する英文記述部分」(第1論文該当箇所)における表現上の創作性の有無
②「第2論文中の複製権又は翻案権を侵害したと原告が主張する英文記述部分」(第2論文該当箇所)が,対比表第1論文該当箇所を複製し,又は翻案したものであるか否か
について検討する。
・・・

 以上のとおり,第1論文の当該表記部分は,判断を含めた事実について,ごく普通の構文を用いた英文で表記したものであって,全体として,個性的な表現であるということはできず創作性はなく,また表現の本質的な特徴部分も認められないから,第2論文該当箇所は,第1論文該当箇所を複製したものということはできず,また翻案ということもできない

 この点について,原告は,「Discussion」には,多数の書き方が存在するから,第1論文の当該表記部分は,創作性を有すると主張する。
 しかし,ある内容を表現するに当たり,他の表現の選択が可能であったとしても,そのことから,当然に,当該表記部分に創作性が生じると解すべきではなく,創作性を有するとするためには,表現に個性が発揮されていることを要する第1論文該当箇所は,いずれも,語句の選択,順序,配列を含めて格別の個性の発揮された表現であるということはできないから,原告の主張は理由がない。

 なお,第2論文は,第1論文と対比すると,表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において共通する部分が存在するが,「Results」及び「Conclusion」の各章は,記載内容において相違すること,第2論文は,第1論文の全体記述及び個々の記述を総合勘案しても,第1論文の表現の本質的特徴を感得できるものではない点については,既に述べたとおりである。

<原審>
事件番号 平成18(ワ)2591
裁判年月日 平成21年11月27日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

商標法9条の4所定の要旨の変更の判断事例

2010-05-23 17:34:59 | 著作権法
事件番号 平成21(行ケ)10414
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年05月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

〔原告の主張〕
 ・・・
 そうすると,「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現で第32類を指定して登録出願した場合,同シロップが第32類に属する商品概念である清涼飲料に含まれる商品として登録出願されたものであると自然かつ一般的に理解できる。
 他方,本件商標の本件補正後の指定商品である「メープルシロップ」は,調味料として第30類に区分され,第32類の「シロップ」とは非類似商品として取り扱われてきた(甲16,17)。


 したがって,「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現で第32類を指定して登録出願された本件商標について,「メープルシロップ」との表現で第30類を指定することとした本件補正は,要旨の変更に当たり,本件商標の出願日は,本件出願日ではなく,本件補正日である平成19年4月11日となる。
 ・・・

第4 当裁判所の判断
1 原告は,本件商標の登録が各引用商標との関係で商標法8条1項に違反して無効であるとの主張の前提として,本件補正が商標法9条の4所定の要旨の変更に当たると主張するが,出願された商標について行われた補正が要旨の変更に当たるか否かは,当該補正が出願された商標につき商標としての同一性を実質的に損ない,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれがあるものと認められるか否かにより判断すべきものである

・・・

 そうすると,本件補正に係る「メープルシロップ」は,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現を,より一般的な表現に改めただけであって,両者は,その内容において同一の商品を指定するものであったといわなければならない

 したがって,第32類に「シロップ」が含まれているからといって,本件出願に係る「カエデの木から採取した樹液を原料とするシロップ」との表現により一般の需要者及び取引者がこれを清涼飲料に含まれる「シロップ」と誤認するおそれはなく,調味料などとして利用される「メープルシロップ」と理解するのが一般的であるから,本件出願に際して商品区分を第32類と指定したことは,第32類に「シロップ」が含まれていたことにより,その記載を誤ったにすぎないものというべく,本件補正により第32類を第30類とすることは,誤記の訂正の範囲を出ないものといえる。

3 本件補正は,以上のとおりのものであって,そもそも,本件商標について商標としての同一性を何ら損なっていないし,また,それにより第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが認められる場合ではないから,商標法9条の4所定の要旨の変更には当たらず,これと結論を同じくする本件審決に誤りはない

プログラム著作権を侵害する製品の差止めを認めた事例

2010-04-29 18:49:19 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

(5) 差止めの必要性,許容性
 前示のとおり,別紙「被告コムネット商品目録」記載1~3,5,6のソフトウェアは,Additions を含むものであり,原告コンセプトがAdditions について有するプログラム著作権を侵害するものであるから,Additions のプログラム著作権を有する原告コンセプトは,被告コムネットに対し,著作権法112条の規定に基づき,その侵害行為の差止めを求めることができる。

 この点,被告コムネットは,別紙「被告コムネット商品目録」記載1,2のソフトウェアに含まれるAdditions の部分はわずかであり,しかも,実際にAdditions の機能を利用することはできないとして,同目録記載1,2のソフトウェア全体の差止めを認めることは被告コムネットに過大な不利益を与えるものであると主張するが,仮に被告コムネットが侵害するAdditionsの部分がわずかであり,また,実際にAdditions の機能を利用することができないとしても,ソースコードの具体的記述を同一にする部分が現に存在する以上,複製権,翻案権を侵害するものということを妨げないし,また,本件において,Vellum3.0 コードからAdditions の部分が可分であることについて適切な立証がされていないから,Additions の侵害部分がわずかであったとしても,これを利用するソフトウェア全体の使用を差し止めざるを得ないというべきである。
また,被告コムネットは,Vellum2.7 コードの二次的著作物であるVellum3.0 コードに係るプログラム著作権に基づき,原著作権者(原告アシュラ)から適法に許諾を受けている被告コムネットに対して権利行使をするのは権利の濫用であるとも主張するが,二次的著作物であっても,原著作物とは独立した著作権の保護を受けるものであるから,被告コムネットの上記主張は失当である。

著作権法61条2項の推定が覆った事例

2010-04-29 18:19:23 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

4 争点(4)(Vellum2.7 コード,Extensions コードのプログラム著作権の帰属)について
(1) 前示のとおり,Vellum3.0 コードは,本件修正契約に基づき,ファモティクがVellum2.7 コードに依拠して開発したものであるから,本件修正契約(甲2,18)及びソースコードライセンス契約(乙5の1,2)の規定により, 基本Vellum2.7 コード及びExtensions コードのプログラム著作権は,原告アシュラにおいて取得することになる。

 この点,原告コンセプトは,著作権法61条2項により,Extensions コードのプログラム著作権のうち,同法27条(翻訳権,翻案権等),28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に規定する権利はファモティクに留保され, 原告アシュラに譲渡されないと主張する

 しかし,Extensions コードに係るプログラム著作権の譲渡を定めたソースコードライセンス契約は,その準拠法をカリフォルニア州法及び米国法と定めているから,我が国の著作権法61条2項の規定が適用されることはなく,また,カリフォルニア州法及び米国法に我が国の著作権法61条2項に相当する規定が存在するとは認められない。
 さらに,本件において,仮に我が国の著作権法の規定が適用されるとしても,上記ソースコードライセンス契約(乙5の1,2)2.6条には「原告アシュラは,・・ライセンシーに提供されるソースコードその他の品目(items)について,そのすべての特許,著作権,営業秘密及びその他あらゆる知的財産権を単独で有し,今後も依然としてそうあり続ける。」,「ライセンシー(判決注・ファモティク)は,原告アシュラに対し,Vellum Extensions に関するすべての権利,権限及び権益を譲渡する。」,「この契約期間中,ライセンシーは,特許,著作権,営業秘密の譲渡又は申請など,Vellum Extensions に関するあらゆる文書に署名して原告アシュラに交付する。」旨の規定があるところ,これらの条項は,原告アシュラにおいて,Extensions コードに係る翻案権等を含めた著作権を全面的に保有することを当然の前提とする趣旨と解されるから,著作権法61条2項の推定は覆され,Extensions コードに係る著作権法27条,28条所定の権利についても,ファモティクに留保されることなく,原告アシュラに譲渡されたものと認めるのが相当である。

国際裁判管轄の有無と時機に後れた防御方法

2010-04-29 17:25:51 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)5689等
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成22年03月31日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(国際裁判管轄の有無)について
 原告(*ブログ作者注 第1事件原告・第2事件被告)コンセプトは,第2事件について,ソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条の定めを根拠として,我が国に国際裁判管轄が認められないと主張し,訴えの却下を求めている。原告(*同 第2事件原告)アシュラは,この主張に対し,時機に後れた防御方法であり,民事訴訟法157条1項により却下されるべきである旨の申立てをするが,国際裁判管轄の有無は裁判所が職権で調査すべき事項であるから,その主張が時機に後れたことを理由として,これを却下することはできない

 そこで,第2事件について我が国の国際裁判管轄を検討する。第2事件は,前記第2の1(2)のとおり,原告アシュラが,原告コンセプトに対し,プログラム著作権及び商標権に基づき,原告コンセプトが販売する製品,マニュアルの販売等の差止め,廃棄等を求めるとともに,不法行為(著作権侵害,商標権侵害)による損害賠償又は不当利得返還を求める事案である。

 原告アシュラとファモティクとの間に締結されたソースコードライセンス契約(乙5の1,2)5.4条には「この契約に基づくいかなる訴訟も,カリフォルニア州の連邦又は州裁判所に起こされるものとし,ライセンシーは,この契約により対人裁判管轄権に服する。」旨の規定があるが,同契約の当事者は原告アシュラとファモティクであるから,上記規定は,原告アシュラがファモティクに対し,又はファモティクが原告アシュラに対し,同契約上の紛争に基づく訴訟を提起する場合の裁判管轄について合意したものであって,契約当事者以外の第三者との間に係属すべき訴訟の管轄について定めたものであるとは解されない
 そして,同契約5.8条によれば,ファモティクは,原告アシュラの書面による事前同意なしに同契約上の地位を譲渡することができないものとされているから,原告コンセプトが同契約上のライセンシーとしての地位をファモティクから適法に譲り受けたものということはできず,原告コンセプトとファモティクを同視することはできない以上,上記5.4条の規定を理由として,第2事件について我が国の国際裁判管轄が否定されるということはできない

 ところで,国際裁判管轄については,これを直接規定する法規もなく,また,よるべき条約も,一般に承認された明確な国際法上の原則も,いまだ確立していないのが現状であるから,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理に従って決定するのが相当である(最高裁昭和56年10月16日第二小法廷判決・民集35巻7号1224頁参照)。そして,我が国の民事訴訟法の規定する裁判籍のいずれかが我が国内にあるときは,原則として,我が国の裁判所に提起された訴訟事件につき,被告を我が国の裁判権に服させるのが相当であるが,我が国で裁判を行うことが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念に反する特段の事情があると認められる場合には,我が国の国際裁判管轄を否定すべきである(最高裁平成9年11月11日第三小法廷判決・民集51巻10号4055頁参照)。
 これを第2事件についてみると,同事件は,外国法人である原告アシュラが進んで我が国の裁判権に服するとして我が国の裁判所に提起した訴訟であるところ,他方,被告である原告コンセプトは東京都千代田区を本店の所在地とする日本法人であるから,我が国に普通裁判籍(民事訴訟法4条4項)があるが,我が国の国際裁判管轄を否定すべき上記特段の事情があるとは認められない

 したがって,第2事件に係る訴えについては,我が国に国際裁判管轄を認めるのが相当であり,原告コンセプトの上記本案前の主張は理由がない。