知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

漫画キャラクターの独占的商品化権

2012-07-29 23:26:25 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)35541
事件名 許諾料返還請求事件
裁判年月日 平成24年07月19日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 高野輝久

 被告は,原告が,本件パチンコ遊技機を製造販売することにより,本件漫画に関する被告の独占的商品化権若しくは独占的に商品化して得られる利益を侵害した旨主張する。かかる主張は,上記権利ないし利益の内容を含めて,その趣旨が判然としないが,これをもって,本件パチンコ遊技機の液晶画面の表示等が,本件小説の二次的著作物である本件漫画の著作権,特に複製権・翻案権を侵害しているという趣旨であると善解することができるとしても,被告は,本件パチンコ遊技機の液晶画面の表示等が本件漫画に依拠したものであることについて何ら具体的な主張立証をしないばかりか,本件漫画の表現と上記表示における表現とが完全に違っていることを自認しているから,本件パチンコ遊技機を製造販売することが本件漫画の複製権・翻案権を侵害するとは認められない

(2) また,被告は,本件漫画に登場する「桃太郎侍」などのいわゆるキャラクターが著作物であるかのような主張もするが,本件漫画を離れ,キャラクター自体を著作物と認めることはできないというべきであるから(最高裁平成9年7月17日第一小法廷判決民集51巻6号2714頁参照),被告の上記主張は失当というほかない。

事実・見解の表明と著作権による排他権の成立、不法行為の成否

2012-07-14 09:00:31 | 著作権法
事件番号 平成23(ワ)13060
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年07月05日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 谷有恒

  ・・・
イ このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との間に,外形的表現としての同一性が認められることが必要で,さらに,同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,筆者の何らかの個性が表現されたものであれば足り,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,これを創作的な表現ということはできない。

ウ 本件において,原告は,被告による被告著作物部分の記述又は発言は,P3の浮世絵についての独自の研究成果を盗用したものであるとして,複製又は翻案に当たる旨主張する。
 しかしながら,前述のとおり,原告記述部分と被告著作物部分とを対比して同一又は類似するといえる部分があるとしても,それが思想又は感情の創作的表現の同一性の問題ではなく,表現から抽出される又は表現が前提とする,思想,発想又はアイデアにおける同一性,あるいは事実又は事件における同一性の問題にすぎないときは,当該被告著作物部分の記述又発言は,複製又は翻案に該当するとはいえない。また,原告記述部分が何らかの歴史的事実に言及し,これに対する見解を述べるものであったとしても,そのような事実,見解自体について,排他的権利が成立するものではなく,これと同じ事実,見解を表明することが,著作権法上禁止されるいわれはない
 ・・・

2 争点2(一般不法行為の成否)について
(1) 原告は,原告の祖父P3は,長年の調査・研究により,・・・ユニークな結論にたどりついたところ,被告は,上記P3の労苦にただ乗りして,名声を上げ,かつ経済的利益を上げたことから,不法行為が成立すると主張する。

(2) この点,著作権法は,著作物の独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で,著作権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,独占的な権利の及ぶ範囲,限界を明らかにしているが,同法下では,思想又は感情を創作的に表現したものについて,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に独占的な権利が認められる一方,何びとかが,何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を公表した後に,それと同一の事実について同一の見解を表明することは禁止されていない。
 このような著作権法の規定に鑑みると,ある著作物の中に,先行著作物と何らかの歴史的事実及びそれに対する見解を共通にする部分があったとしても,創作的な表現としての同一性が認められないのであれば,著作権法が規律の対象とする権利あるいは利益とは異なる法的に保護された利益を違法に侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。

原画の著作権者の許諾を得ることなく増刷された絵本

2012-04-15 10:04:50 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)36852
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年03月30日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(エ) Bは,・・・,絵本の印刷数を1万冊とし,・・・,画家に支払う画料は絵本1タイトルにつき50万円程度とするのが適当ではないかと考え,その旨を原告A2ら画家たちに伝えた。また,Bは,画家たちに対し,この絵本のシリーズが成功するようであれば,将来被告において新たに絵本を制作する機会もあるだろうから,その際には新たな挿絵の制作を依頼したいと考えている旨を伝えた。
・・・
本件会合では,・・・,被告側と原告側との間で,絵本原画制作の基本的な方針(原画の大きさ(サイズ),1書籍当たりの原画の枚数,絵本の中の文章部分の位置等)が確認されるなどした。なお,本件会合では,絵本の原画の著作権がどのように取り扱われるのか(著作権は画家が保持するのか,それとも画家から被告に譲渡されるのか)という問題や,被告において本件書籍を将来(数年後に)増刷する予定があるのか,増刷する際に本件原画の著作者(画家)に対して被告から別途画料が支払われるのかという問題については,特段話題に上らなかった
・・・
(ク) 被告は,平成20年4月から平成22年12月までの間に,別紙書籍増刷表記載のとおり本件第1書籍を増刷し(本件増刷),これらを幼稚園等向けに販売した。被告は,本件増刷に当たって,原告らから増刷について改めて許諾を受けることも,追加の画料を支払うこともしなかった。そのため,原告らは,本件増刷がされた当時は増刷の事実を認識していなかった。
・・・
(3) 以上のとおり,被告は,本件第1原画の著作権者である原告らの許諾を得ることなく本件第1書籍を増刷し,これを販売したものであるから,本件第1原画に係る原告らの著作権(複製権及び譲渡権)を侵害したものと認められる。

特定少数の者に対する譲渡

2012-04-01 22:55:00 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)30222
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成24年03月23日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 岡本岳

2 争点(1)(譲渡権侵害の成否)について
(1) 原告は,被告NTTコムが被告GPネットに対し,本件プログラムがインストールされた本件サーバ2台を譲渡したことが,本件プログラムに係る原告又はKDEの譲渡権(著作権法26条の2第1項)を侵害する旨主張する。
 しかしながら,譲渡権は,著作物(映画の著作物を除く。)をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供する権利をいい,「公衆」には「特定かつ多数の者」も含まれるが(同法2条5項),特定少数の者に対する譲渡について譲渡権は及ばない

社交ダンスの振り付けの著作物性

2012-03-17 09:52:35 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)9300
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年02月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 社交ダンスの振り付けの著作物性について
ア 社交ダンスが,原則として,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを自由に組み合わせて踊られるものであることは前記(1)アのとおりであり,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップは,ごく短いものであり,かつ,社交ダンスで一般的に用いられるごくありふれたものであるから,これらに著作物性は認められない
 また,基本ステップの諸要素にアレンジを加えることも一般的に行われていることであり,前記のとおり基本ステップがごく短いものでありふれたものであるといえることに照らすと,基本ステップにアレンジを加えたとしても,アレンジの対象となった基本ステップを認識することができるようなものは,基本ステップの範ちゅうに属するありふれたものとして著作物性は認められない

 社交ダンスの振り付けにおいて,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを取り入れることがあることは前記(1)アのとおりであるが,このような新しいステップや身体の動きは,既存のステップと組み合わされて社交ダンスの振り付け全体を構成する一部分となる短いものにとどまるということができる。このような短い身体の動き自体に著作物性を認め,特定の者にその独占を認めることは,本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになりかねず,妥当でない

 以上によれば,社交ダンスの振り付けを構成する要素である個々のステップや身体の動き自体には,著作物性は認められないというべきである。

イ 前記(1)アのとおり,社交ダンスの振り付けとは,基本ステップやPVのステップ等の既存のステップを組み合わせ,これに適宜アレンジを加えるなどして一つの流れのあるダンスを作り出すことである。このような既存のステップの組合せを基本とする社交ダンスの振り付けが著作物に該当するというためには,それが単なる既存のステップの組合せにとどまらない顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であると解するのが相当である。
 なぜなら,社交ダンスは,そもそも既存のステップを適宜自由に組み合わせて踊られることが前提とされているものであり,競技者のみならず一般の愛好家にも広く踊られていることにかんがみると,振り付けについての独創性を緩和し,組合せに何らかの特徴があれば著作物性が認められるとすると,わずかな差異を有するにすぎない無数の振り付けについて著作権が成立し,特定の者の独占が許されることになる結果,振り付けの自由度が過度に制約されることになりかねないからである。このことは,既存のステップの組合せに加えて,アレンジを加えたステップや,既存のステップにはない新たなステップや身体の動きを組み合わせた場合であっても同様であるというべきである。

釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面に著作物性を認め、翻案権侵害等を認定した事例

2012-03-17 09:25:54 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)34012
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年02月23日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(4) 携帯電話機用釣りゲームにおける魚の引き寄せ画面は,釣り針に掛かった魚をユーザーが釣り糸を巻くなどの操作をして引き寄せる過程を,影像的に表現した部分であり,この画面の描き方については,・・・などの点において,様々な選択肢が考えられる

 原告作品は,この魚の引き寄せ画面について,・・・,特に,水中に三重の同心円を大きく描き,釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ,魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は,原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全くみられなかったものであり(甲3),この点に原告作品の製作者の個性が強く表れているものと認められる。

 他方,被告作品の魚の引き寄せ画面は,・・・,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴といえる
「水面上を捨象して,水中のみを真横から水平方向の視点で描いている点」,
「水中の中央に,三重の同心円を大きく描いている点」,
「水中の魚を黒い魚影で表示し,魚影が水中全体を動き回るようにし,水中の背景は全体に薄暗い青系統の色で統一し,水底と岩陰のみを配置した点」,
「魚を引き寄せるタイミングを,魚影が同心円の一定の位置に来たときに決定キーを押すと魚を引き寄せやすくするようにした点」
についての同一性は,被告作品の中に維持されている


 したがって,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら,同心円の配色や,魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて,新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものと認められる。また,これらの事実に加えて,被告作品の製作された時期は原告作品の製作された時期の約2年後であること,被告らは被告作品を製作する際に原告作品の存在及びその内容を知っていたこと(甲1の1,2)を考慮すると,被告作品の魚の引き寄せ画面は,原告作品の魚の引き寄せ画面に依拠して作成されたものといえ,原告作品の魚の引き寄せ画面を翻案したものであると認められる。

(5) これに対し,被告らは,原告が魚の引き寄せ画面に関して原告作品と被告作品とで同一性を有すると主張する部分は,いずれも,単なるアイデア又は平凡かつありふれた表現にすぎず,創作的表現とはいえないと主張する。

 しかしながら,原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面の共通点は,単に,「水面上を捨象して水中のみを表示する」,「水中に三重の同心円を表示する」,「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく,「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」,「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」,「魚にどのような動きをさせ」,「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で,上記の具体的な表現を採用したものであるから,これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない

プログラムの著作物性

2012-03-11 21:47:16 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10063
事件名 プログラム著作権使用料等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 プログラムに著作物性があるというためには,プログラムの全体に選択の幅が十分にあり,かつ,それがありふれた表現でなく,作成者の個性,すなわち,表現上の創作性が表れていることを要するところ,本件証拠上,本件プログラムが著作物性を備えるものであるといえるかについては疑義がある。
 しかし,前記のとおり,当審における争点は,専ら損害の額であるので,・・・


原審判決はここ

体験型装置の著作物性

2012-03-08 21:37:17 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10053
事件名 損害賠償等反訴請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ア 創作性について
(ア) 著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),・・・,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,当該作品等は著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない
(イ) 控訴人装置は,前記第4の1(1)のとおり,当初は舞台装置として使用されていたが,科学館や美術館等で美術作品として展示されたり,体験型装置として使用されているものである。・・・。このように,控訴人装置は,体験型装置としても用いられるが,控訴人が本件訴訟において著作物として主張するのは,上記のような動的な利用状況における創作性ではなく,原判決別紙反訴原告装置目録に示された静的な形状,構成における創作性である
(ウ) 控訴人は,そのような控訴人装置の創作性として,
 ○1 「閉じた空間・やわらかい空間」であること,
 ○2 「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であること,
 ○3 「見た目の日本的美しさをもつ空間」であること(控訴人装置の上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有すること)
を主張
する。
 もっとも,控訴人装置は,体験型装置として用いられており,控訴人も,争点(4)において,不正競争防止法2条1項3号の「商品」に該当すると主張するものであって,実用に供され,又は産業上利用されることを目的とする応用美術に属するものというべきであるから,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美的特性を備えている場合に限り,著作物性を認めることができるものと解すべきである。
 そこで,以下,上記観点をふまえ,控訴人主張に係る○1ないし○3の各要素に基づき,控訴人装置の創作性について検討する。

イ ○1「閉じた空間・やわらかい空間」であることについて
(ア) 「閉じた空間」とは,控訴人装置が使用されている際の人によって広げられていない部分の空間の性質を示すものであり,使用時において中に入った人によって開かれていくという構想は,控訴人が控訴人装置で実現しようとした,控訴人装置によって構成された空間の性質に関する思想ないしアイデアである。・・・
(イ) 「やわらかい空間」とは,控訴人装置の中に人が入った使用状態において,中に入った人が周囲の空間が固定的ではなく,自在に変形するものと感じられる空間であるという思想ないしアイデアであり,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。・・・

ウ ○2「浮遊を可能にする空間(宙吊り)」であることについて
(ア) 「浮遊を可能にする空間」であることは,控訴人が本件において著作物であると主張する控訴人装置そのものに表現されたものではなく,控訴人装置の中に人が入って使用された際,中に入った人が浮遊していると感じる状態になること意味するものであり,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。・・・
(イ) 「宙吊り」は,控訴人装置の空間における配置を示すものであるが,それ自体では控訴人装置が空間に存在するという抽象的な観念を示すものにすぎず,具体的な表現を示すものとはいえないから,この点も控訴人装置の創作性の根拠とすることはできない。また,控訴人装置を宙吊りにしたことは,装置の機能を発揮させるための構成であるともいうことができる。いずれにせよ,創作的表現と認めることはできない。

エ ○3「日本的美しさをもつ空間」であることについて
(ア) 「日本的美しさをもつ空間」であるということそれ自体は,控訴人の思想又はアイデアを示すものであって,ここに創作性の根拠を認めることはできない。また,控訴人は,ロープの「ずらし方」に創作性があると主張するが,それは,本体部分の布の形状を形成するための方法にすぎず,表現と認めることはできないし,張られたロープ自体の形状に創作性を認めることもできない

(イ) 控訴人は,控訴人装置の具体的特徴として,上辺部分について,神社の屋根や日本刀の曲線に似ているような形状を有することについて,創作性の根拠として主張する。原判決別紙反訴原告装置目録の写真によると,控訴人装置の上辺部分は確かに「く」の字に似た反った曲線を有しているものである。
 しかしながら,布状のチューブを宙吊りにする場合,本体部分の端部において支持具とロープとで固定することは格別珍しいものではない。その際,固定用のロープの角度や緊縮度によっては,チューブ部分に「たわみ」や「反り」が生じることはむしろ通常のことであると認められる。もちろん,ロープの角度や緊縮度を調整することにより,「たわみ」や「反り」の形状をも調整することが可能であったとしても,それにより生じるチューブ部分の上辺部分の形状について,制作者の個性が表現されたものとはいえないから,これをもって創作的な表現であるということはできない
 控訴人装置における上辺部分の「反り」についても,それが直ちに「神社の屋根や日本刀」のような美観を想起させるものということはできないし,仮に,そのように観察し得る余地があったとしても,創作的な表現とまでいえないことは,同様である。

(ウ) 控訴人は,控訴人装置は,「空間の生け花」と称され,日本的な独特な表現であるとして評価されており,控訴人装置の見た目の美しさ,控訴人装置内に入った際に体験者が感じる擬似的無重力環境という異次元空間の感覚が控訴人装置の最大の特徴であり,このような独特な空間構成力によって,控訴人装置は,国内外のどこにもない空間として成立しているなどと主張する。
 しかしながら,体験者が控訴人装置内に入った際に感じる感覚については,控訴人装置の機能を示すものにすぎない。また,著作権法によって保護すべき「著作物」であるか否かは,あくまで創作性の有無によって判断すべきであって,控訴人装置に対する評価が控訴人の主張するようなものであったとしても,前記判断が左右されるものではない。

(原審の筆者によるブログ紹介はここ。原審判決は本件装置が応用美術でないとする点、前記エ(イ)の点に創作性を認める点で本判決と異なる。
原審判決は 事件番号 平成22(ワ)5114 平成23年08月19日判決)

著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の解釈

2012-02-26 20:13:13 | 著作権法
事件番号 平成21(ワ)18463
事件名 著作権確認等請求事件
裁判年月日 平成24年02月16日
裁判所名 大阪地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

 著作権法15条1項の,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」とは,その文言からして,結果として「法人等の名義で公表されたもの」ではなく,創作の時点において「法人等の名義で公表することが予定されていたもの」と解釈するのが相当である

 そして,前記(1),(2)のとおり,本件では,原告の発意により,原告の従業員が本件対策問題集の編集著作を行ったものであるから,本件対策問題集は,創作の時点において,原告が,その編集著作物を利用,処分する権利を有しており,その名義により公表することが予定されていたということができる(実際に編集作業に携わった,個々の従業員の名義の下に公表されることが予定されていたことを窺わせる事情はない。)。

 この点,本件対策問題集は,当初発行に当たり,編集著作者を意味する「編者」が日本漢字教育振興会と表記されていたものであるが,前記(2)のとおり,その編集著作者は,原告の従業員であり,日本漢字教育振興会を編者とする上記記載は実態に合致せず,上記記載のみをもって,日本漢字教育振興会(被告オーク)を本件対策問題集の編集著作者であるとみなすことはできない

著作権の時効取得

2012-02-19 20:11:18 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10028
事件名 損害賠償等,著作権侵害差止等,出版権確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 著作権の時効取得が観念されると解した場合,著作権の時効取得が認められるためには,自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作権(例えば,複製権)を行使する状態を継続していたことを要する
 換言すれば,著作権の時効取得が認められるためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利などを専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するのであって,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決民集51巻6号2714頁参照)。
この観点から,本件をみると,・・・こと等の事実を認めることができる。

 上記認定事実によれば,亡Bの相続人が,控訴人日本教文社から印税を受け取ったり,控訴人日本教文社に対し本件①の書籍1の18版及び19版の奥付に誤った「Ⓒ」表示をさせたりした経緯を認定することはできるが,そのような経緯によっては,複製権等を独占的,排他的に行使する状態を継続している事実,及び他の者に対する著作権の行使を排除した事実を主張,立証したと認めることはできない

編集著作物であると認めた事例

2012-02-18 10:54:50 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)20337
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年01月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

(2) 上記認定事実によれば,原告書籍収録文書は,単に米軍押収文書を時系列に従って並べたり,既に分類されていたものの中から特定の項目のものを選択したりしたというものではなく,原告が,未整理の状態で保存されていた160万ページにも及ぶ米軍押収文書の中から,南北朝鮮のどちらが先に朝鮮戦争を仕掛け,戦争を主導したかを明らかにする文書という一定の視点から約1500ページ分を選択し,これを上記(1)のとおり原告の設定したテーマごとに分類して配列したものといえる。

 したがって,原告書籍収録文書は,全体として,素材たる原資料の「選択」及び「配列」に編者の個性が顕れているものと認められるものであり,編集著作物に当たるというべきである。

著作権の存続期間が満了したと誤信していたことに過失を認めた事例

2012-02-08 21:48:34 | 著作権法
事件番号 平成22(受)1884 判決本文はここ
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年01月17日
裁判所名 最高裁判所第三小法廷  
裁判長裁判官 那須弘平
裁判官 田原睦夫,岡部喜代子,大谷剛彦,寺田逸郎



(7) 被上告人は,旧法の下において興行された映画の著作物(以下「旧法下の映画」という。)の著作権の存続期間については,次のアないしウの考え方に基づき,本件各映画の著作権の存続期間は,公開から50年が経過した平成12年又は平成14年に満了したと誤信していたから,本件行為について過失があったとはいえない旨主張する。
 ア 旧法下の映画については,著作権の存続期間について一律に旧法6条が適用される。
 イ 本件各映画は,団体名義で興行された映画であるから,著作権の存続期間については,旧法6条の適用のある団体名義の著作物に当たる。
 ウ 本件各映画は,いわゆる職務著作(以下,単に「職務著作」という。)として,実際に創作活動をした本件各監督ではなく,映画製作者である上告人又は新東宝が原始的に著作権を取得し,著作権の存続期間については,旧法6条が適用される。

3 原審は,要旨,次のとおり判断して,上告人の損害賠償請求を棄却した。
 旧法下の映画については,映画を製作した団体が著作者になり得るのか,どのような要件があれば団体も著作者になり得るのかをめぐって,学説は分かれ,指導的な裁判例もなく,本件各監督が著作者の一人であったといえるか否かも考え方が分かれ得るところである。このような場合に,結果的に著作者の判定を誤り,著作権の存続期間が満了したと誤信したとしても,被上告人に過失があったとして損害賠償責任を問うべきではない

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 旧法下の映画の著作者については,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを基準として判断すべきであるところ最高裁平成20年(受)第889号同21年10月8日第一小法廷判決裁判集民事232号25頁),一般に,監督を担当する者は,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与し得る者であり,本件各監督について,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与したことを疑わせる事情はなく,かえって,本件各映画の冒頭部分やポスターにおいて,監督として個別に表示されたり,その氏名を付して監督作品と表示されたりしていることからすれば,本件各映画に相当程度創作的に寄与したと認識され得る状況にあったということができる。

 他方,被上告人が,旧法下の映画の著作権の存続期間に関し,上記の2(7)アないしウの考え方を採ったことに相当な理由があるとは認められないことは次のとおりである

 すなわち,独創性を有する旧法下の映画の著作権の存続期間については,旧法3条~6条,9条の規定が適用される(旧法22条ノ3)ところ,旧法3条は,著作者が自然人であることを前提として,当該著作者の死亡の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間を定めるとしているのである。旧法3条が著作者の死亡の時点を基準に著作物の著作権の存続期間を定めることを想定している以上,映画の著作物について,一律に旧法6条が適用されるとして,興行の時点を基準にその著作物の著作権の存続期間が定まるとの解釈を採ることは困難であり,上記のような解釈を示す公的見解,有力な学説,裁判例があったこともうかがわれない。
 また,団体名義で興行された映画は,自然人が著作者である旨が実名をもって表示されているか否かを問うことなく,全て団体の著作名義をもって公表された著作物として,旧法6条が適用されるとする見解についても同様である。最高裁平成19年(受)第1105号同年12月18日第三小法廷判決民集61巻9号3460頁は,自然人が著作者である旨がその実名をもって表示されたことを前提とするものではなく,上記判断を左右するものではない。
 そして,旧法下の映画について,職務著作となる場合があり得るとしても,これが,原則として職務著作となることや,映画製作者の名義で興行したものは当然に職務著作となることを定めた規定はなく,その旨を示す公的見解等があったこともうかがわれない。加えて,被上告人は,本件各映画が職務著作であることを基礎付ける具体的事実を主張しておらず,本件各映画が職務著作であると判断する相当な根拠に基づいて本件行為に及んだものでないことが明らかである。

 そうすると,被上告人は,本件行為の時点において,本件各映画の著作権の存続期間について,少なくとも本件各監督が著作者の一人であるとして旧法3条が適用されることを認識し得たというべきであり,そうであれば,本件各監督の死亡した時期などの必要な調査を行うことによって,本件各映画の著作権が存続していたことも認識し得たというべきである。
 以上の事情からすれば,被上告人が本件各映画の著作権の存続期間が満了したと誤信していたとしても,本件行為について被上告人に少なくとも過失があったというほかはない。

原審:平成21(ネ)10050

編み物と編み図の著作物性の判断事例

2012-01-22 21:57:54 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)39994
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成23年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

 以上を前提に,原告編み物の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ そこで検討すると,原告は,原告編み物について,いずれも「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成を有するものであって,この点に創作性が存在すると主張するものであるところ,確かに,前記(1)オでみたとおり,原告編み物は,Aモチーフの中心部分で編み目の方向が変わるとともに,寄せ目部分で編み目が重なることにより編み目が直線状に浮き上がって見え,この線が,原告の主張する別紙図面記載のAの線として看取できるものとなっており,また,隣接するA,B,Cモチーフをそれぞれ異なる色とすることにより,モチーフ同士のとじ目を境として両側の色が異なるものとなり,その境界部分がB又はCの線として看取できるものとなっていることが認められる(・・・。)。
 そうすると,原告編み物は,前記認定のとおり,編み目の方向の変化,編み目の重なりなどにより,線を浮き上がらせることによってAの線を表現し,かつ,隣接する各モチーフの色を異なるものとすることによってB,Cの線を表現しているものであり,編み地が平面的で均一なものであることなどと相まって,A,B,Cの線で構成される直角三角形の形状を強調し,全体として,直角三角形をパズルのごとく組み合わせたような面白さや斬新な印象を表現しようとしたものと認められるのであって,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができる。そうすると,原告編み物は,これらの具体的構成によって,上記の思想又は感情を表現しようとしたものであって,これらの具体的構成を捨象した,「線」から成る本件構成は,表現それ自体ではなく,そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきものと解され,創作性の根拠となるものではないというべきである。
・・・
(2) 以上を前提に,原告編み図の著作物性について検討する。
ア ・・・。
イ  原告は,原告編み図には衣服のデザインとして本件構成が表現されているのであって,この点に原告編み物と同様に著作物性が認められるべきであると主張するが,争点(1)アに関する判断でみたとおり,本件構成自体は,そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず,上記思想又はアイデアを編み物として具現化する過程において,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択等によって具体的表現となるに至るものであるから,原告編み図に本件構成が表示されている点は,思想又はアイデアを表示したにとどまるものというべきであり,この点をもって,原告編み図に著作物性を認めることはできない。

 以上のとおりであるが,原告は,編み図は美術の著作物あるいは図面の著作物に当たると主張するので,以下,念のため,本件構成を含む編み図全体(各2枚目)について,著作物性を検討する。
ウ 原告編み図を美術の著作物としてみた場合,・・・,その具体的表現において,「美術の範囲に属するもの」というべき創作性を認め得るものではない

エ また,原告は,原告編み図は図面の著作物として著作物性を有する旨も主張する図面の著作物については,図面としての見やすさや,編み方の説明のわかりやすさに関する創意工夫が表現上現れているか否かによって創作性の有無を検討すべきものと解されるところ,・・・,原告編み図は,編み図における一般的な表示方法又は表示ルールに従い,他の編み図でも一般的に採用されている構成によって,原告編み物の作成方法を説明したものであると認められ,図面としての見やすさや,説明のわかりやすさに関し,特段の創意工夫を加えたものということはできず,図面の著作物としての創作性を認めることはできない

へんしんふきごま事件控訴審判決

2012-01-15 23:44:05 | 著作権法
事件番号 平成23(ネ)10008
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,
○ 32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,
○ 各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,
○ 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
 しかし,他方で,本件折り図は,・・・折り方を示すことを基本とし,・・・読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字・・・で示した上で,折り工程の大部分・・・について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
 このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。

 以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない
 以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない

イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
 しかし,原告の主張は,主張自体失当である。

 すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない

 上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,
○ 32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法
○ いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,
○ 各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。
 しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない

第1審判決はここ

火災保険改訂の説明書面の著作物性

2012-01-15 23:18:51 | 著作権法
事件番号 平成22(ワ)36616
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成23年12月22日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 本件説明書面の著作物性
ア 本件説明書面(甲2)は,別紙1のとおりのものであり,「平成22年1月1日付け火災保険改定のお知らせ」と題して,本件改定の内容を顧客向けに文章で説明する本文部分(1枚目)と,地域別に建物の構造級別区分ごとの保険料率の改定幅を数値で示した一覧表及び本件改定の前後それぞれにおける建物の構造級別区分の判定の仕方をフローチャート方式で示した図表などが記載された別添資料部分(2枚目)とからなるものである。
 そして,本件説明書面のうち,上記本文部分においては,「主な改定の内容」が,「1.火災保険上の建物構造級別の判定方法の簡素化」,「2.火災保険料率の大幅な改定」,「3.保険法の改定による対応」の3点に整理されて,それぞれの内容が数行程度の簡略な文章で紹介されるとともに,特に内容的に重要な部分については,太文字で表記されたり,下線が付されるなど,一見して本件改定のポイントが把握しやすいような構成とされている。
 また,上記別添資料部分においては,本件改定による建物の構造級別区分の判定方法の変更点について,一見して理解しやすいように,フローチャート方式の図表を用いた説明がされ,しかも,当該フローチャート図の中に,楕円で囲った白抜きの文字や太い矢印を適宜用いるなど,視覚的にも分かりやすくするための工夫が施されている

 以上で述べたような本件説明書面の構成やデザインは,本件改定の内容を説明するための表現方法として様々な可能性があり得る中で(甲3ないし5,弁論の全趣旨),本件説明書面の作成者が,本件改定の内容を分かりやすく説明するという観点から特定の選択を行い,その選択に従った表現を行ったものといえるのであり,これらを総合した成果物である本件説明書面の中に作成者の個性が表現されているものと認めることができる。
・・・
ウ 以上によれば,本件説明書面は,作成者の思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作権法2条1項1号の著作物に当たるものといえる。