☆ちゃんは、おもちゃに付いているタッチペンをひとつひとつの料理のメニューに当てていました。
それを見て、わたしは「☆ちゃんは思った通り目ざとい子だなぁ」と感じていました。
わたしが黙って一度だけやって見せた素振りをしっかり見ていて、
こちらが引き出しに片付けた後も、それを出してきて、わたしがやった通り再現して
遊んでいるのですから。
「こうしたら?」「これをする?」と勧められて遊ぶのではなく、自分でやりたいことを決めて、
自分で必要なものを取ってきてからはじめたことは、
長い間、試行錯誤を続けていることもわかりました。
そこでわたしは、
「こんな時は、どんな言葉をかけたらいいんでしょう?」とたずねる☆ちゃんのお母さんに、
言葉をかけるのを急がず、☆ちゃんがどんなことをしているのか
よく観察することを勧めました。
絶え間なく言葉をかけ続けている場合、少しそれを控える時間を持つと、
その子が何かをしようと決めて、ひとつのことに関わっていく時の流れや長さ、
心の動きや目線の動き、興味のあり様や個性的な能力などが見えてきますから。
時間に隙間がないと、自分でイメージしたことを実行に移す途中で気がそれてしまうし、
新しいことやより広い範囲に注意を向けにくくなりますよね。
そうやって☆ちゃんの姿を受け止めると、こんなことに気づきます。
☆ちゃんは観察したことを再現するのが上手ですから、
言葉で指示を与えるのではなく、
さまざまなおもちゃや道具の扱いや見立て遊びのお手本を
実際にやってみせてあげるといいのでしょう。
お料理のお手伝いや家事の真似っこも楽しいでしょうし、
外出先でお店で働く人や少し年上の子どもたちが何をしているのか見て、お家で真似したり、
動物や魚や昆虫をていねいに眺めるのも面白がるはずです。
「これする?」「あれする?」と言葉でたずねても、見たことがないものは返事のしようがありませんから、
まず、いろいろなものを見せてあげるといいのかもしれません。
そんな話を伝えた後で、こんな一コマがありました。
おやつタイムに、★くんと●くんが持参したラムネを食べていました。
☆ちゃんはうらやましそうにじっとそれを見ています。
わたしが、「★くん、ひとつちょうだい」と言って手を差し出すと、
それを見た☆ちゃんも、「ちょうだい」と自分から手を出しました。
★くんは「いいよ」とふたつ返事でラムネを渡しました。自分からあげることができたことが
とてもうれしそうでした。
☆ちゃんが持ってきた丸いパンを食べ始めると、●くんはとてもお腹がすいていたようで
欲しがって泣き出しました。☆ちゃんのそばに行って、手を差し出すので、
「☆ちゃん、ちょっとだけパンをちょうだい」と言葉をそえると、☆ちゃんのお母さんが、「もう1個、パンがあるわよ」と
ビニール袋に入ったままの新しいパンを☆ちゃんに手渡しました。
すると、☆ちゃんは落ち着いた口調で、「あんぱんまん、かばん、開けて」と言いました。
そうして自分のあんぱんまんのかばんを開けると、新しい方のパンをその中にしまいこんで
きちんと蓋を閉めてから、ゆっくりと●くんの方を向き直り、
自分の手に持っている食べかけのパンを半分に割って、それを●くんに差し出しました。
☆ちゃんが自分が考えたことを実行し終えるまで、お母さんにはがんばって声をかけないように
していただいたのですが、
そのかいあって、☆ちゃんは自分の行動に大満足の様子で、
それまではお友だちの遊ぶ様子にあまり関心がなかったのに、
教室全体に活動範囲を広げて、お友だちの様子やわたしのすることに寄せる関心の
質が変化したことが感じられました。
☆ちゃんと同じ2歳前半の子とはいえ、★くんも●くんも、興味の持ち方や能力の発揮の仕方に
ずいぶん個性が出てきています。
★くんは想像力が豊かで問題解決能力が優れた子です。
お母さんが、恐竜を椅子の上を歩かせていって、端まで来たところで、「落ちちゃう、落ちちゃう」と言うと、
さっと新しい椅子を取ってきて横に並べていました。
人形をお風呂に入れて、「熱い、熱い」とか、「冷たいよ」と言っては
水や湯を足す真似をしたり、さまざまなケースに対応を変える宅配便ごっこして喜んでいました。
●くんは、「自分で!」と何でも自分でやりたがる子で、感覚が優れているようです。
お手本を見せると、最後までていねいに真似しています。
視覚に訴えるお手本なら、かなり長いものもしっかり覚えて、
できるようになるまで何度も取り組もうとします。
相手が2歳の子であっても、そうしたそれぞれの個性を
面白いなと感じながら受け止めていると、
その子らしさが輝きはじめます。
遊びのアトリエのレオ先生が、熊本へうかがった時にした話にちなんで
という記事を書いてくださっています。
よかったらブログにお邪魔してみてくださいね。