教室の子たちと、ぜひ行ってみたいです。
『ビジネスで一番、大切なこと』にこんなこんな一文がありました。
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人間の行動は複雑だ。学問に携わることは、真実の追究に携わることだが、私が研究の過程で学んだのは、
人間の行動に関して言えば、真実はとらえどころがないということだった。人は馴染みのあるものを求める。
いや、ときには変化を求める。人は進歩を切望する。しかし、過去を懐かしむこともある。人はもっと多くを望む。いや、実際には少ない状態を望んでいることもある。
(略)
私もまさにハンターと一緒で、消費行動の実情やその原因について見極められたと思ったとたん、論破できない何か、私の出したそれほど厳密ではない結論に穴を開ける、新鮮な視点が現われるように感じる。
研究に没頭すればするほど、私はすべてに関して断定的にはなれない自分に気づいている。
『ビジネスで一番、大切なこと』ヤンミ・ムン ダイヤモンド社
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「ビジネス」と「教育や子育て]には、共通点があります。
それは「相手が人間だ」ということです。
その共通点ゆえに、ハーバード大で ビジネスのことを語るヤンミ・ムンの言葉は、
自宅でくつろぎながら教育と子育てについて考えている私の心をも
大きく揺さぶります。
「そう、そう!そこが問題の核心なのよ……!」と。
ブログで教え方や接し方の < how to >を紹介しても、
「同じようにやってみるのですが、奈緒美先生のようにうまくいきません」
という声をいただくことがあるのです。
「ほら、してごらん」と魅力的な演出をしても、
笛吹けど踊らず……で終わるのは、
子どもを相手にするときのお約束。
子どもから強い意欲を引き出すには、熱血先生を装うより、
「ちょっとやらせてよ」と懇願されても
「子どもには無理じゃ。あっち行っとれ」と言いつつ、
大人の作業も手伝わせるような
……田舎のおじいちゃん風の態度の方が上手くいくものです。
友だちに自分の仕事のペンキ塗りを押し付けておきながら、
まんまとみつぎ物までもらった
トムソーヤの話は有名ですよね。
人間相手ですから、相手からやる気を引き出すのに、
必ずしも「やる気を出せ!」「がんばれ!」ってエールを送る正等な方法がうまくいくわけじゃなくて、
「えーやりたいの? やめといたら?」なんて変化球が、
「勉強したい~やらせてよ、お願い!」と懇願させる結果につながったりするのです。
そこには、こうすればこうなるというマニュアルは存在しません。
虹色教室の帰り際に、
子どもが「このぬいぐるみ持って帰りたい~」と ぐずる
とき、親御さんが真剣な表情でする
「これは先生とみんなの物でしょう? 他人のものを欲しがったりしたら……」なんてお説教は、
たちまち子どもを反抗的な困ったちゃんに変えてしまいます。
けれども、「そう、このぬいぐるみが気にいったのね。遊んで楽しかったのね。ありがとうね」と子どもに共感してから、
「じゃ、ぬいぐるみをしまっておくわね」
と言うと、ニコニコしながら素直に返すだけじゃなく、後片付けまで手伝ってくれるというおまけがついてきたりするのです。
言葉ひとつ、態度ひとつで、
雲泥の差が生じるのが、「相手が人間」ということでもあるのです。
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人間を相手にするときの感性というか、
ビジネスの舞台で、他人のニーズを感じ取って 適切に対応する能力という面で、
私は 娘にはかなわないな……という思いがあって、
「この娘は社会に出て、何度も頭を打っていろんな経験をした後で、
最後には自分で起業してやっていくんだろうな~」
などと考えています。
「ハイタッチ」(共感力、人間関係の機敏を感じ取る能力、自分の喜びを見つけ、他の人々が喜びを見つける手助けをする能力、日常的な出来事にも目的や意義を追求する能力)という面で
どこまでも極めて、それを新しいビジネスのスタイルへと昇華しようと思えば、
誰かのもとでマニュアルに縛られながら働くより、
規模は小さくとも自分の判断力と気づきが生かせる仕事が合っているでしょうから。
息子の場合、将来、仕事にしたいと考えている
ゲームクリエイター
(息子の考えるこれからのゲームクリエイター像は、
既存のものとはずいぶん異なるようですが……)
としての働き方を思うとき、
作品を介しての人との関わり方について、
いつも真剣に考えている模様です。
ある時、息子がこんなことをつぶやきました。
「今、IT産業の世界は、
こんな物が作りたいと思いついた時点で、
もうすでに誰かが作っているか、同じようにひらめいて制作に入ってる人がいるような状態でさ……
いずれ飽和状態が来て、新しい良いものができても、
人がそれを求めなくなるような時期が来るのは近いと思う。
それと作品の質より何より、
ネットの世界ならではの難題にどう向き合うかで、成功 不成功 が決まってくる面があるから、
作ることだけ考えていたらいいってわけじゃないんだ」
「どういう意味?」とたずねると、
次のような答えが返ってきました。
「たとえば、違法ダウンロードへの対策でさ、
ゲームを売り出すときに、プロテクトをかけるとか、コピーガードをかけるとかどんなに厳重にしても、守りを固めるだけじゃ逆効果なんだ。
遊び感覚でそれを破りたがるハッカーはどこにでもいるし、
一番の問題は、売れないことんだ。
だって、厳重にプロテクトをかけているゲームは、
しょっちゅう誤作動を起すし、そうなると正規ルートで買ったのに盗人扱いされているようでいい気がしないからね。
だって今は、フリーでいくらでもゲームができる時代だよ。
お客さんにすれば、無料で遊んでいるときですら、遊んでやっている!
って構えがあるのに、有料でそんなことされたんじゃ、
とうてい有名にはなれないよ。
考えてもみてよ。道端にタダのゲームがごろごろ転がっているんだよ。」
「だからって手放しで違法ダウンロードさせ放題ってわけにはいかないでしょう? それを回避する方法はあるの?」
「本当に難しい問題だけど……意外だけど、
人の『善意』が唯一の解決法だったりもするんじゃない?
ゲーム会社の中には、コピーガードをつけないって、
ある年度以来、つらぬいているところもあるんだ。
そうした姿勢が、企業としてお客から愛されているから、それが成り立っているところがあるんだ。
ゲーム業界と同じように、音楽業界も、無料で手に入るものに金なんか払っていられるかって客側の思いが、制作の場を荒らしてるんだろうけど……。
それでも、売れているバンドは、
客から、あの人にならお金を払いたい……って気持ちを引き出すようなファンサービスがあって、
客の側も無料でもいいところをわざわざお金を払うんだよ。
価格競争の時代じゃないんだ。
だって、値段=品質 という捉え方はもう古いからさ。
明和電気の「なこーど」ってあるじゃん。
電気のコードにしては高い買い物だけど、
ああいう物が売れたのも、
商品の背後に見える人に対する愛着というか……
この人の商品は買ってあげたいという人の善意が刺激された面があると思うよ。
だって、人間として生きていくのに必要でない物は、買わないという選択肢があるんだから。」
「人の善意がカギを握っているって、先が見えない気がするけれど……」
と私が言うと、
息子からはこんな返事が返ってきました。
「そうだよね。確かにその通りだけど……。
でもさ、違法ダウンロードを取り締まるのは難しいしいのって、
人間は犯罪に流れやすい傾向があるからだろうけど、
同時に人は善意にも流れやすいと思うんだよ。
今は思いやりがあっても、思いやりが出しにくい時代で、
共通の敵を作ってみんなで攻撃して団結力を確かめるようなことを
よくしているけれど……
そうした集団のフィルーターがかかってないところでは、
ひとりひとりは、こういう時に善意が引き出されてくるってものを
持ってると思うんだ。
ぼくなら、これまでこのアイデアはなかったなって驚きと、
品質への安心感と制作者が見えて良い感情を持てたなら……
お金を払ってもいい気になるんだ。」
「そうね。お母さんが物を買う動機も……ほとんど本だけどね。
出版業界への愛情とか、
特に店頭販売している本屋が生き残って欲しいって思いがあるわ。
ネットの方が安く買えても、
わざわざ損を覚悟で大量の本を取り揃えているようなサービスをしている本屋で買うもの。
でも、そうした善意は、どうしても
一部のマニアックな思い入れを抱いている人に限られるんじゃないかしら。
それにしても、そんな現状じゃ、ITの世界で働いていくのも大変そうね」
「うん。近い将来、飽和状態が来るのは覚悟しているけど。
エンターテイメントの世界では、ネットの世界が進みすぎて、もうネットだけじゃ、つまらないって人も増えてきているから、
これからはネットでつながった後で、
実際、出会って何か創造的な時間を過すといった
使われ方も増えてくると思うんだ。
もちろん、そこに侵入してくる出会い系の問題には悩まされるだろうけどね。
『IT』プラス『リアルなおにごっこ』といった
実体験とネット世界がつながった物が出てきているけど、そういったものも進化するんだろうな。
ぼくが、制作に関わりたいと思っているのは、
そうしたITの新しい可能性を広げる分野なんだ。
自分のやりたいことをどう収益につなげるか、難しい課題だけど、ずっと考えていってるよ」
息子の話を聞いて、「ネットの世界とはいえ、機械の向こうにいるのは人間なんだなぁ~。
人を相手にするのは、難しくて面白い……。
ITの世界で仕事をしていくといったって、おにごっこして楽しかった~という子ども時代の実体験が役立ってくるんだな~」
そうしみじみ感じました。