幼い頃からもりもりと工作に興じていた子たちには、小学校中学年頃になると、
さらに作る技術を洗練させながら物作りを極めていく子たちもいるし、
それまでの作ることへの強い情熱が薄らいで、
ボードゲームやカードゲームをしたがったり
友だちやわたしと会話する時間が長くなったりする子たちがいます。
どちらにしても、しっかり手を目を使った作業に熱中した時期が長かった子たちは、
その頃から、頭と言葉を使った活動で非常に高い能力を示しだすことを実感しています。
物作りが大好きな子たちには、
手と目を使った活動から、頭と言葉を使う活動へと移行していく
「頭でイメージして手で活動する、言葉で説明しながら目で確かめる」
ことがとても活発になる過渡期のようなものがあります。
それぞれの子固有の意志や想像力や思考を使うことを大事にしていると
自然発生的に「手と目」から「頭と言葉」へ橋渡ししていくような活動につながり、
次第に頭脳活動の色が濃くなっていく印象です。
家庭や園が、運動や楽器演奏や学習のように、外から系統的に教え込んでいく教育に
ばかり力を入れていると、そうした自然な過渡期を見かけないようです。
うまく楽器が演奏できるようになっていたとしても、スポーツで力を発揮しても、
計算や文字を書くことができても、移行の時期に必要な
十分に頭の中でイメージする力や自分で見つけ、選び、決断し、実行に移す力や
自分自身の行動をメタな視点から眺める能力が足りないのです。
「間違った幼児教育が意欲と考える力が弱い子を量産している」なんてタイトルは
刺激が強すぎるかな、毒があるかな……と思いつつも、
「こうしたらこんな効果」「ああしたらあんな効果」という言葉に踊らされるうちに、
子ども自身が自分で決めたり選んだり、想像を膨らませたり、
やってみたりやめたりするチャンスもエネルギーも奪われているようで
見ていてやきもきするのです。
先日、物作りが大好きな年長の男の子たち3人の創作風景と算数の学習の様子を見て、
手と目を使った活動から、頭と言葉を使う活動へと移行していく時期にあるのを
実感しました。
「ダンボールに剣の絵を描いて、切り取り、クーピーで雑に色付けする」という
自己流の剣作りを繰り返していたAくん。
「同じものばかり何度も何度も作りたがるし、作る素材も作り方も同じで、
作業もちょっと雑……でも、本人は全身全霊をこの活動に打ちこんでいる」
という状態が1年近く続いた後で、Aくんにいくつもの変化が訪れました。
Aくんが手と目でする作業と頭と言葉でする作業の移行の時期にあると思ったのは、
誰に言われるともなく、先に設計図や完成図を描いて、計画を立てて作品作りに入る
姿を目にしたからです。
何本も何本もダンボールの剣を作るうちに、ダンボール製のため剣が何度も折れて
しまうという憂き目を見てきたAくんは、常に作る際の補強する材料に気を配るように
なりました。事前に割り箸やストローなどで折れない工夫をしてから作っていきます。
相変わらず剣が好きだけれど、剣以外のものも、目で見たものをどのように作ろうかと
自分でイメージして作り始めました。
弓矢を作る時に曲線部分はモールを巻きつけることで補強していました。
仕上がりをきれいにするためにカラフルな折り紙を貼ったり、色テープで
模様を描いたりするようになりました。
「お城が作りたい」と言うBくん。
作る前に「どのようにしたらできるのか」を言葉にして、
わからない部分は納得するまでわたしと話しあった上で作業に入るようになりました。
形や色の完成度をあげたい気持ちが高くなっていて、
思っている仕上がりと角度が異なったり、端の処理がいいかげんだったりすることが
許せないようで、苦労しても美しい出来上がりになるよう努めていました。
Bくんはこれまで物に素材を当ててみて、大雑把に切っていく方法で
作品作りをしていました。
今はそうした方法を計画段階で駆使して、あるものを使って、
どのような作品にしていくのか調整するのがとても上手です。
Cくんはブロックや積み木で多彩な作品を作るけれど、紙を使った工作は
手伝ってもらいながらしている段階です。
でも、「どうやってするの?次は何をしたらいいの?」とたずねるCくんに、
「紙を置いてみて、こうだろうと思うところを切ってみたら?」と告げて、
しばらくして戻っると、自分なりに工夫して船らしい形に仕上げていました。
これまで何度か別の素材でいっしょに船作りをした時の勘を思いだしたようです。
Cくんにしても、普段物作りに親しんでいる分、
何をするのか決めて、それをするにはどんな手順が必要か考え、
イメージした画像に沿うような作品に仕上げて行くことや、
問題が起こった時に知恵で解決する力がついているようです。
教室の子たちの成長を追っていると、こうした移行の時期を経た子たちのほとんどが、
長文の算数の文章題でも、何から順番に解いていけばいいのか、
どのような考えを追っていけばいいのか、自力でつかむ力を持っています。
また言葉を画像イメージに変換させて、
頭の中だけで自在に操作していくことができるようです。
最後まで解き切る集中力や長い思考に耐える熟考する力も鍛えられています。