『滅びゆく思考力(J.ハーリー著/大修館書店)』では、思考力の向上と「メタ認知力」の関わりについて、さまざまな重要な指摘がされています。
『メタ認知力』のキーワードは『方略』。
新しいことを学んだり理解したりするときに、自分自身を援助するために用いる、知的なプロセスのことです。
現在の環境は心の混乱を引き起こし、子どもたちの内言を失わせています。
また、子どもたちが大人たちとあまり長い時間を過ごさない家庭や、データーの記憶を学習(知識偏重の学習法)している学校は、メタ認知力という脳の特別な長所を無視し、注意の持続の問題で子どもたちを危機に陥れているそうです。
イスラエルのルーベン・ヒューエルスタインは、変化する環境に対して人間をより抵抗力や適応力があるようにする「メタ認知的方略の訓練」によって、脳はそれ自身も向上するものと確信しています。
ヒューエルスタインは次のように語っています。
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脳は、個人の自己保存を可能にする構成的な方法によって変容することができるのです。
人間は自分自身を変容させることができる点に特徴があります。
私はこれを『自動的可逆性』と呼んでいます。
しかし、学校へ通うようになる前であっても、子どもたちは意味というものを入力する大人を必要としています。
さもなければ、子どもたちは意味を捜し求めて世界をさまようことになるのです。
『滅びゆく思考力—子どもたちの脳が変わる』(J.ハーリー著/大修館書店)P320
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ヒューエルスタインは、部屋におもちゃを置くだけで、あとは子どがそれで遊ぶことを期待する親のもとでは、適切な思考技能が育たないと主張しています。
親も教師も、子どもの理解を組み立てるように援助し、それを通して意味を教えていく必要があるのだとか。
といっても、それは今の早期教育ありがちな、一口サイズに刻んだ「思考技能」の要素を押しつけるやり方とは違います。
「思考」を過剰に分割すると、創造性を犠牲にすることにつながるのです。
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虹色教室の年中さんと年長さんの子どもたちのレッスンの様子から、遊びの中で子どもたちが思考を広げ、柔軟に考えていく姿を紹介します。
年中のAちゃんが「葉っぱ」の形をしたブロックのパーツを見つけて「畑を作りたいわ」と言いました。
ブロックで畑を作ろうというアイデアを思いついたのはAちゃんが初めてです。
家庭菜園をしている年長のBちゃんが、すぐにそのアイデアに飛びついて、いっしょに畑作りをはじめました。
「きゅうりとかミニトマトとか植えようよ」と話しています。
ブロックの穴にさせるサイズにストローを用意してあげると、器用な年長のCちゃんがはさみで切っていきました。
めいめいブロックの穴にストローをさしては、「ほら、伸びてきているよ。よく育っているねぇ」と本物の植物を眺めるような感情のこもった声で話しあっていました。
このグループの子たちは、それぞれ独創的なアイデアを思いついては、さまざまな場面で工夫を凝らす子達ですが、お友だちと協調して、遊びをストーリーのあるものに作りあげていくことも、とっても上手です。
畑を作ったお友だちの姿を見て、畑にかける水が出てくる水道を作っているAちゃん。
ビー玉の水が透明のホースを通って飛び出します。
アイデアマンのAちゃん。工作材料の網を見つけると、「魚を捕まえる網にする」と言いました。
そこで、海に魚を捕るワナを仕掛けることにしました。
ワナの中にはパンが入れられていました。
すると、BちゃんとCちゃんが、サンマと鯛の人形を手にして、誤ってワナにかかってしまうストーリーで遊びだしました。
「先生、もっと魚はいないの?」とCちゃん。
「大きいまぐろならあるけど、これは一本釣りね。」と答えると、「まぐろも捕まえたい!」と子どもたち。
別グループのやんちゃな男の子たちがやっていたまぐろの一本釣り?(天井のフックに引っかけて、吊り上げています。)
「工作したい」という子らと、「たつまき」ができるおもちゃを作りました。
発泡スチロールの玉やスパンコールなどをペットボトルに入れて工作するうちに、Bちゃんが、「粘土でキャンディーとか作りたい」と言いました。
以前、遊んだことがあるベルトコンベアーで食べ物を移動させたことを思いだしたAちゃんが、工場の機械を作りたがりました。
写真を撮りそびれたのですが、空き箱に画用紙を挟んで動かす形で、面白いベルトコンベアーができました。
年中や年長さんのおしゃべりを聞いていると、自分たちはどんなことがしたいのか、それには何が必要で、どんなことをすればいいのか、あることからどんなことが連想されるのか、あるものの背後にはどんな意味があるのか、非常によくわかっているし、互いのアイデアを響かせ合って遊ぶ中で、それをどんどん広げていくのがわかります。
一方で、大人との会話や一緒にする活動を通して、意味の理解を深め、内言を育み、さまざまな思考パターンを身につけていくのを感じます。
↑ 算数タイムの一コマ。