犀川の河川整備を考える会

犀川の辰巳ダム建設を契機に河川整備を考え、公共土木事業のあり方について問題提起をするブログ。

辰巳ダム裁判>裁判で技術の議論をする意味 つづき25

2016年02月26日 | 辰巳ダム裁判
河川工学者にとって水文統計学は便利な道具

 基本高水の決め方について、統計に博識の方から「ご意見」をいただいた。

「ご意見」: 基本高水の正しい決め方は、ピーク流量群の最大値ではなく、平均値を採用するべきだ。
(統計学的には平均値採用が当然。ただ、この主張を裏付ける河川工学関係の学術資料は、今のところ見あたらないとのことだった。)

 確かに、旧基準で、カバー率50%以上で慎重に決めるという規定があって、「手引き」の計算例には、カバー率50%値を採用する例が掲載されていた。カバー率50%値、つまり、中位数(≒平均値)を採用するべきという学術論文があってもよさそうなものだ。

 「カバー率50%値(≒平均値=真値) → 基本高水」という考え方には同意である。

 ただ、「ピーク流量群の平均値 = 計画規模のピーク流量の真値」であるとしても、
真値 → 基本高水ピーク流量
と考えるかどうかは、難しいところである。
基本高水ピーク流量は、洪水防御計画の基本となる数値で、自然現象の不確実性を考慮する必要から、
真値×α、あるいは真値+α → 基本高水ピーク流量
 としたいところである。

 旧基準の解説でも、カバー率50%以上で、採用は60~80%の例が多いという記載だった。「平均値 → 基本高水ピーク流量」ではなく、「平均値×αあるいは+α →基本高水ピーク流量」ということと同義である。

 統計学的には、計画規模の雨量確率と同じ流量確率は、ピーク流量群の平均値であるとすると、αを加味すると基本高水ピーク流量は、計画規模の雨量確率と違うことになる。最大値を選択するケースも計画規模の雨量確率と違うことと同じになる。この点からすると、旧基準も新基準も考え方に差はない。

 意見をよせていただいた方がその方面の権威に確認したところによると、河川工学者の共通認識は、「ピーク流量群のすべてのピーク流量の流量確率は計画規模の降雨の雨量確率と同じとすることが暗黙の了解」になっているということらしいが、旧基準も新基準でも、この考え方に変更はない。

 辰巳ダムの例では、1/100の対象降雨から求めたピーク流量群(24個、547~1741立方メートル毎秒)のどれを選んでも流量確率1/100(治水安全度1/100)とするということである。
だが、現実とは全く合わない。547立方メートル毎秒が100年確率値(おおむね100年に1回)ということになるからである。同様に、1741立方メートル毎秒も100年確率であるのは非現実的だ。

 司法の場での解釈は、
1/100の雨量は、「法が想定した枠」とすると、ピーク流量24個のうちのどれを選んでも「行政裁量の逸脱・濫用がない範囲」ということか。

 基本高水を決めるために、河川工学者は、水文統計学の超過確率概念という便利な道具を用いることにしたが、水文統計学で基本高水の科学技術的な答えがでない、と思っているのではないか。この道具を都合のよいところで便利に使用しているのは明らかだ。
(つづく)
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