読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

池井戸潤の『ルーズヴェルト・ゲーム』

2017年11月15日 | 読書

◇『ルーズヴェルト・ゲーム』 著者: 池井戸 潤 
                 2014.3 講談社 刊 (講談社文庫)

          


 「ルーズヴェルト・ゲーム」?なんじゃこれは。
そもそも「ルーズヴェルト・ゲーム」とはなんぞや。野球好きだったアメリカ大統領ルーズ
ヴェルトが「野球が最も面白いのは8:7の試合」と言ったことから来る、言ってみれば緊迫
した展開の試合のことを指すらしい。

 さて池井戸潤の『ルーズヴェルト・ゲーム』は企業野球チームの存亡の物語である。池井戸
潤と言えば『俺たちバブル入行組』、『俺たち花のバブル組』、直木賞受賞の『下町ロケッ
ト』のほか『ロスジェネの逆襲』など企業小説が得意分野と思うが、本書ではリーマンショ
ックなど経済環境の激変がもたらした企業経営の危機対応と企業スポーツの在り方を問うと
いう二つの課題をうまく組み合わせ、中堅企業の青島製作所が奇跡の大逆転をもたらすとい
う後味の良い作品に仕立てた。

 この物語は電子部品主力の青島製作所という中堅企業とそのライバル企業ミツワ電器との
企業対抗野球の公式戦で青島製作所が7:0で完敗するプロローグから始まる。
 かつて名門として名をはせた青島製作所は今や資金力のあるミツワ電器の後塵を拝する体
たらく。その監督が突然辞表を出し、有力選手2人を連れてライバルミツワ電器に走った。
 一方会社自体が長引く業績不振で人員整理を含むリストラが避けられない状況に。有力
取引先からは発注量の削減と単価引き下げの要求が出るし銀行からは開発資金融資にリスト
ラ案が甘いと難色が示されている。当然維持費に3億円かかっている野球部に対して白い目
が向けられる。
 そんな中ライバルのミツワ電器から企業統合の話が持ち込まれる。ミツワのいう規模の利
益追求は建前で本音は青島の持つ技術力が狙い。一緒になっても技術力は取られ青島系は人
員整理で消えていくだけだと読んだ青島側は申し入れを断る。
 しかし銀行が求めるリストラ計画第二弾には野球部の廃部を入れざるを得なくなる。

 ライバルミツワ電器への対抗心と、新たに入部させた剛腕投手沖原を擁し地区大会をのし
上がってきた青島チームは代表戦まで廃部を知らない。野球部長である総務部長の三上はい
つ告げようかと悩む。

 一方技術開発部は念願の新型イメージセンサー開発を加速させ新規受注を開拓に成功した。
会社の将来展望は急に明るくなった。
 そして東京都代表をかけるライバル・ミツワ電器との試合が始まった。逆転再逆転とまさ
に息詰まるルーズヴェルト・ゲームの展開。


 日本の製造業を支える中小企業の技術力を侮ってはいけないというメッセージも込めた、
ある意味『下町ロケット』に通じるものがある。さらに、いくら優れた力を持った企業内ス
ポーツチームでも所詮は企業あってのチーム。本体が危うくなればチームのリストラは避け
られないという冷厳な状況もしっかりと織り込む。

 この物語では多少嫌らしい人は出てくるものの本当の悪人は出てこない。みんなそれぞれ
良い面を持っていて、明るく危機を乗り越えていくところが良い後味を残す所以である。

                                (以上この項終わり)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

陶磁器など静物を透明水彩で描く

2017年11月13日 | 水彩画

◇ 陶器・磁器・ガラス器などを描く

   

         Artenon F6

  先週の水彩画教室では陶器・磁器・ガラス器・陶器飾り皿を描いた。
  普段は花を挿して器として脇役であるが、今回はれっきとした主役である。
  それぞれ材質を異にするのでその質感をうまく表現できるかどうかがポイント。
  飾り皿などは釉薬の色合いが微妙でなかなか色が出せなくて苦労した。
  ガラス器はもっといろんな映り込みがあったかもしれないがやや単調になってしまった。
  白い磁器はやや平べったいつくりなのであるが、丸く見えるのは技量不足。

                                (以上この項終わり)
  
  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「元祖山の手七福神」を歩く

2017年11月10日 | 里歩き

 ◇ 快晴の秋空の下目黒区の七福神を歩く

 これまで東京の七福神を9か所ほど歩いた。今回は江戸時代初めて七福神めぐりと
して人気を博したということで「元祖」という肩書をいただいた「山の手七福神」
を歩いた。
 これまで歩いた七福神の中では道順がわりと素直でほとんど迷うこともなかった。
 11月9日は〇〇回目の結婚記念日ということで、歩き終わったら盛大に豪華な食事
をということであったが、条件が合わず結局は生ビールで寿司という変わり映えしな
いところに落ち着いた。こうなったら金婚式は絶対盛大にやろう。

 先ずは東京メトロ東西線「白金高輪駅」に降り立つ。10時30分。京浜国道を青山
方向にたどる。

  

<毘沙門天>
 
「日吉坂」といって幾分か上りになって清正公前交差点に至る。交差点の一角にあ
る寺は覚林寺と言って「毘沙門天」を祀る。境内には江戸時代の勇将加
藤清正公を祀
る堂がある。

  

  

  

<布袋尊>

ヒルトン都ホテルの前を通り進むと白金台駅近くに瑞聖寺がある。ここには「布袋
尊」を祀る。
 実に見事な本堂である。解説には珍しい「裳階(もこし)」とあるがどれがそう
なのかわからない。寺務所に来てもわからず、
相棒がスマホで調べて氷解。建物の屋根の下にさらに屋根をかけ重層構造に見える。
優美な外観を際立たせる効果があるという。

  

      

  

     
<福禄寿尊><寿老人尊>
 さらに進むと妙円寺ここには「福禄寿尊」と「寿老人尊」が祀られている。

  

     

     
     
 道路を隔てて向かいには科学博物館自然教育園がある。折角の機会なので入園し、
広い園内をほぼ一周した。規模からいったら新宿御苑のほぼ半分の20㏊。武蔵野の原
野を忍ばせる森林、池沼、湿地、土塁などが自然のまま保存されている。人工物は少
なく2か所のトイレと木のベンチしかない。江戸時代には高松藩松平頼重の下屋敷、
明治時代には陸海軍の火薬庫として使われた。

  

     

     

     

     

  

     

     

     

     

        
<大黒天>
 高速道路の下をくぐり目黒駅(JR/東京メトロ・都営地下鉄)駅前の急坂(行人坂)
を下ると左にあるのが「大円寺」。江戸の三大火事の一つ「目黒行人坂の大火」の火
元である。ここでは「大黒天」を祀る。
 境内には500を数える仏像がある。

  

      

      

      

      

<弁財天>

 ついで雅叙園を左に見て桜で有名な「目黒川」を渡り「蟠龍寺」に向かう。この寺は
「弁財天」を祀る。

  

  

     

<恵比寿神>
 次は目黒不動で有名な「滝泉寺」ここは「恵比寿神」を祀る。江戸三大不動尊の一つ
だけに今回の七福神巡りでは最も豪壮な寺院であった。

  

  

     

                         (以上この項終わり)



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロジャー・ホッブズの『ゴーストマン・消滅遊戯』を読む

2017年11月08日 | 読書

◇ 『ゴーストマン・消滅遊戯』(原題:VANISHING GAMES)

              著者:ロジャー・ホッブズ(Roer Hobbs)
              訳者: 田口 俊樹  2017.9 文芸春秋 刊


  

      21世紀最高のノワール・シリーズ第2弾。21世紀に書かれた犯罪小説で10指に
 入る傑作とされた『ゴーストマン・時限紙幣』に次ぐ。
  ゴーストマン対殺し屋ローレンス対中国マフィア。全篇これ犯罪者同士の半端な
 い闘いのみ。我々一般人の想像を絶する非日常の世界が展開する。単純なハードボ
 イルドとはまた違った血沸き肉躍る攻防が楽しい。

  世界で屈指の犯罪者ゴーストマン(私)にアンジェラから6年ぶりに連絡が入っ
 た。かねて示し合わせたサインSOSである。
  アンジェラは私の師匠。私が犯罪の第一人者になるまで、必要なすべてを教わっ
 た。5歳年上だ。
  アンジェラに何があったのか。罠かもしれないがアンジェラのためなら死も厭わ
 ない。ゴーストマンは敢然とマカオに飛ぶ。

  アンジェラはジャグマーカー(犯罪計画者)としてミャンマー産出の稀少サファ
 イヤの洋上強奪を企画、3人のチームを仕組んだ。彼らは見事運搬船の襲撃に成功
 し、目的のサファイアを手に入れたのであるが、チームの一人は目的の宝石の価値
 を幾層倍上回る戦利品を手に入れた。そしてプラン通りマカオの海岸に上陸したの
 であるが…。正体不明の殺し屋が待ち構えていて、宝石はあっさりと奪われた。

  アンジェラは宝石強奪の知らせは受けたものの、仲間は肝心のブツの引き渡しに
 現れない。代わりに届いた荷物には仲間の一人の頭部と「盗んだものは返せ、返せ
 ばサファイアはお前のものだ ここで明日見張っているからな」のメッセージ。
  アンジェラは危険を察知しゴーストマンにSOSを発し直ちにアジトのホテルを脱
 する。

  無事に再会を果たした二人は、殺された仲間が海中に隠した戦利品の何とか回収
 したのであるが、それは超精巧な偽札であった。その額はなんと1500万㌦。これ
 ほど精巧な偽札を作る組織はならず者国家、情報機関、将軍、独裁者しかいない。
  アンジェラと私は水上警察巡視艇や殺し屋ローレンスの苛烈な追跡を逃れて何と
 かマカオの隠れ家に落ち着く。

  二人は二つの殺し屋に狙われる。一人はサファイア取引を横取りされたと信じて
 いるの中間業者で故買屋でもあるマカオマフィアの龍頭。もう一人は偽札の持ち主
 を依頼人とする殺し屋ローレンス。

  後半シルビアは龍頭と丁々発止の駆け引きでなんとか危機を乗り越えようと機略
 を尽くす。一方私は奪われたサファイアを取り戻すためにローレンスと相まみえる。
 とにかくローレンスとゴーストマンの死闘シーンは手に汗を握る。

  サファイアを取り戻し偽札を手に入れた二人は、いつとも知れぬ再会を約してま
 た別れる。 

  作者とすればゴーストマンシリーズとして第3作、第4作を続ける意図があったよ
 うであるが、2016.11薬物の過剰摂取で亡くなった。享年28。

                             (以上この項終わり)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西川三郎の『罠』

2017年11月07日 | 読書


◇ 『』 著者:西川 三郎 2017.3 幻冬舎 刊

  

     西川三郎の題名が一字の作品第3作。ほかに『瘤』、『欲』があ
 る。
  『瘤』を先に読んだが、『罠』はまるでタイプが違う作品。企業
 の出世争い、上司と部下の確執などがあって、ありきたりの企業小
 説かと思ったら、FX(外為証拠金取引)に狂う高層マンションの
 住人の奥様方や悪徳地上げ師、金には目がない銀座のクラブのママ
 などが登場し結構飽きさせない内容。

 お人好しですぐに人を信用してしまう車の販社取締役管理部長石田
 真人が主人公。子供はいない。妻紗栄子は本社(自動車メーカー)
 の元秘書。今は同じマンションに住む4人の妻たちとFX外為取引に
 のめりこみ多額の借金をしている。夫とは冷えた関係にある。

 石田はある日散歩中に喫煙を注意して怖いおじさんに絡まれた。だ
 が通りかかった美人の女性に助けられた。何とこれが同じマンシ
 ョンの住人で銀座のクラブのママ・玲子。しかも怖いおじさん赤川
 もこのマンションの住人で不動産業で高利貸の大金持ち。
 なぜか石田は美人ママに部屋に誘われる。
 こうした不自然に疑問を感じながらも玲子の言いなりになってしま
 3う石田。

  FX取引のグループの一人小沢真理は赤沢に借金をしているが利息
 の代わりに掃除を引き受ける。実は金庫の大金を狙っていて、盗聴
 器を仕掛けている。
  石田の妻は昔バイトで玲子とキャバクラで一緒に働ていたことが
   ある。FXの証拠金不足で赤川から多額の借金をした紗栄子は、昔取
 った杵柄の特技で利息の代わりに赤川に全身マッサージを施し気に入
 られる。
  赤川は石田の会社に架空の土地売買を持ち掛けているが、慎重派
 の石田を排除するために司法書士と玲子で石田を罠にかける。
  本社の燃費不正疑惑情報が週刊誌に投書された。玲子に情報を漏
 らした疑いで石田は川崎支店長に降格させられる。一方玲子は同社
 の空売りで大儲けをして証券取引等監視委員会の調査対象になる。
  抜け駆けした玲子のせいで架空取引の儲けを失った赤川は玲子を切
 り捨てる。
  一方真理は石田を抱き込み赤川の留守に金庫を開けるがもぬけの殻。
 真理の細工を見抜いた赤川は金庫の大金を移したのだ。紗栄子と呵々
 大笑する。

 何とも劇画チックな筋書きで面白いが、あとには何も残らない。
                     
                       (以上この項終わり)   
 
 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする