読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ロバート・B・パーカー追悼出版

2010年07月26日 | 読書

◇「勇気の季節」(原題:The Boxer and the Spy)
         著者:ロバート・B・パーカー(Robert Brown Parker) 訳者:光野多恵子 
         2010.3早川書房刊

  作者ロバート・B・パーカーは本年1月18日に亡くなった。77歳だった。妻のジョアン・
 パーカーも今年亡くなっている。
  1972年探偵スペンサーを主人公とするハードボイルド「ゴッドウルフの行方」で小説家デ
 ビューを果たした。
  以後スペンサーシリーズを初め、警察署長ジェッシィストーンシリーズ、女性探偵サニーランドル
 シリーズなど多くの作品を残した。
  スペンサーシリーズ第4作「約束の地」でアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞し
 た。
  これまで多くの作品は菊地光が翻訳しているが、氏が81歳の高齢で亡くなっ
 てからは主として加賀山卓朗氏が引き継いでいる。
 (余談ながら菊地光氏はディック・フランシスの競馬シリーズの翻訳者でもあり、その名
  訳には常に感嘆を禁じえなかった。)

  パーカーの作品は、翻訳者の手腕もあるかと思うが、歯切れの良いテンポで素直
 に読み進むことが出来て好きな作家だった。「約束の地」はもとより、邦訳の殆ど
 とは言わないが、かなりの作品は読んだと思う。今回の作品はお得意のジャンル
 ハードボイルドではなく、ヤングアダルト小説に属する。

  ボクサーを目指すケリーとそのガールフレンドのアビー。二人はステロイド服用と自殺説で
 片付けられた同級生ジェイソンの死に疑問を持ったことがきっかけで、自分たちの
 高校の校長の不可解な行動と知事選立候補者のスキャンダルを巡り友人たちとス
 パイ大作戦を進め、ついに学校と行政委員会委員長の汚職とこれを隠そうとす
 る陰謀の全てを明らかにする。
  荒筋を述べれば赤川次郎が書いてもおかしくない内容ではあるが、主人公
 ケリーは黒人トレーナーのジョージからボクシングを教わっていく中で、勇気とは何か、恐
 怖心を克服するためには何が必要かなど、大人になっていく過程で誰しもぶつ
 かる壁を乗り越えていく・・・。
  
   この作品はパーカーの2008年の作品であるが、既に76歳を迎えていた作者が
 自身の高校時代を振りつつ描いた青春小説(このほかにも「われらがアウルズ」
 というYA小説もある。)である。ここで描かれている高校生の姿は、多分今のア
 メリカでは既に過去のものとなってしまった、少年同士の友情と恋なのかもしれ
 ない。しかし時代こそ違え、そこには立派な人間とは、男らしさとは何かをいま
 どきの青少年に伝えたい作者の暖かい眼差しを感じ取ることが出来よう。

     

  (以上この項終わり)

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