◇ 『リバー』
著者: 奥田 英朗 2022.9 集英社 刊
警察小説で定評のある奥田英朗の大作である。
警察組織と捜査員の刑事らが生き生きと描かれている。刑事だけでな
く元刑事、容疑者らの人物造形も堂に入っている。プロットも単純のよ
うでありながらさすがに読ませる仕掛けがあって飽きない。
ただ難点が一つ。
途中で容疑者の一人に解離性同一性障害(多重人格)が明らかになる
こと。これですっかり興ざめしてしまった。(それに650ページは重い)
リバーとは連続殺人事件の現場となった「渡良瀬川」のことである。
渡良瀬川は群馬県赤城山麓に源を持ち渡良瀬遊水地を経て利根川に合し
太平洋に注ぐ。
渡良瀬川は栃木、群馬両県の県境となっている。川の両側の河川敷で
ほぼ同時期に事件が起きたため群馬県、栃木県両県警で合同捜査本部が
設置された。
若い女性の全裸殺人事件が続けて起こった上に、十年前に同様な連続
殺人があり、未解決のままであることから、関連を疑い色めき立って警
察庁からも刑事局から出張って来る扱いになったのである。
事件があった桐生市と足利市の近隣太田市などの工場にはラテン系外
国人労務者が多い。
容疑者が3人いる。最重要容疑者のKは重機工場の期間工。しかし遺
留品はあるが決め手に欠ける。しっかりとした目撃証人もいない。10
年前と同じ轍を踏むのかと捜査陣は焦りまくる。すでに事件発生から4
か月も経ったが、進展が見られない。Kを別件でひぱったが黙秘状態。
裁判員裁判制度の導入で証拠・証人が必要最小限しか採用されなくな
って立証が厳しくなり警察と検察、裁判所の馴れ合いはもう通用しなく
なった。
そうこうしているうちに第3の類似殺人事件が起きる。検警ともKの
拘留を解いた直後だけに慌てふためく。
そして驚愕の事実が明らかになった。ただこんな安直な収まり方でよ
いのか。犯人の心の闇がさっぱり解明されていない憾みが残る。そこは
読者に残しておく作者独特のスタイルなのかも。
10年前の殺人事件の被害女性の父親、犯人と踏んでいたのに送致で
きなかった元刑事、最有力容疑者、前回事件の容疑者、ストーカー行為
でやり玉に挙がった引きこもりの多重人格者、犯罪心理学者、最有力容
疑者といい仲になったスナックの雇われママ、全国紙の新米女性記者等
々、それぞれ存在感のあるキャラクターである。とりわけ千野今日子と
いう記者は雇われママと分かり合える関係になるなど一服の清涼剤的存
在で好ましい。
(以上この項終わり)
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