読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

中島義道の『私の嫌いな10の人びと』

2018年02月11日 | 読書

◇『私の嫌いな10の人びと』 著者: 中島義道  2008.9 新潮社 刊

  
  
  哲学博士の中島義道先生のエッセイ集。大学で教えている教授であるがご本人はあと
 がきで(タレント)としている。
  ご職業柄哲学的なお話かと思えば、全くそうではなくて日本人の常識としている事々
 について強烈に抗議している本なのである。
  その「事々」の代表が「私の嫌いな10」と思えばよろしい。
  著者は独特の感受性を有していると宣言しているのであるが、大部分の現代日本人が
 好きな人、そういう人だけを「嫌い」のターゲットにしている。

 1 笑顔の絶えない人
 2 常に感謝の気持ちを忘れない人
 3 みんなの喜ぶ顔が見たい人
 4 いつも前向きに生きている人
 5 自分の仕事に誇「誇り」をもっている人
 6 「けじめ」を大切にする人
 7 喧嘩が起こるとすぐ止めようとする人
 8 物事をはっきり言わない人
 9 「おれ、バカだから」という人
 10 「わが人生に悔いはない」と思っている人

 以上10の人たちは一般的に良い人で模範にしたい人のように思います。ところが中島
先生は世の中の大部分の人が常識として容認している、多分10を十分上回る習慣や行動
規範などに一部生理的に嫌悪感を抱いて受け入れ難く、その常識の底に潜む深層心理を
読み解いて、唾棄すべきなれ合い精神を怒っているのです。

 なんにしても中島先生が忌み嫌うのは、「自分の頭で考えず、世間の考え方に無批判
に従う怠惰な姿勢」なのです。そしてそれが日本人の大多数なので怒っているのです。
要するに物事を「よく感じない人」「よく考えない人」で自分の感受性というものがな
くて世間の感受性に漠然と合わせている怠惰な人が嫌いなのです。

 普段お目にかかれないような、横目どころか後ろ目線で物事をとらえているので切り
口が新鮮です。
笑顔の絶えない人」では太宰治の『人間失格』のお道化を思い出しました。
「どうせ死んでしまうのですから」これを聞いたらどんな激しい論争もがっくときて腰
が折れてしまう(常に感謝の気持ちを忘れない人p59)。
専門バカと普通バカの違い、まるで落語を聞いているような面白みがあります。(「お
れ、
バカだから」という人p223)

とにかく一度読んでみてください。

(以上この項終わり)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ジェフリー・アーチャーの『... | トップ | バラを描く »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

読書」カテゴリの最新記事