読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

佐藤亜紀の『天使』

2019年01月18日 | 読書

◇『天使 Der Engel』 佐藤 亜紀  2002.11 文芸春秋社 刊

  

  初出は別冊文芸春秋であるが、単行本の本書の惹句では「堕天使たちのサイキック・ウォーズ」
 とある。堕天使はともかく天賦の異能感覚を持つ者たちが第一次世界大戦前夜ヨーロッパの大国
 間で繰り広げられる熾烈な戦いを描く。

  著者佐藤亜紀の作品は初めてであるが、結構近世ヨーロッパを舞台にした作品が少なくない。
 『1809ナポレオン暗殺』、『バルタザールの遍歴』、『吸血鬼』などがそうである。
  余分な修辞を削いだやや硬質な文章であるが、作品の内容からすると合っている。

  主人公は「感覚」の鋭いジョルジュ(ゲオルク・エスケルス)。育て親が亡くなり孤児として
 路頭に迷う寸前、オーストリア政府顧問官スタイニッツ男爵に拾われて諜報員としては働くこと
 になる。
  ジョルジュは他人の頭の中をこじ開けて何を考えているか察知したり、考えを破壊したり、忘
 れさせたり、五感に大打撃を与えたりする異能をもっている。
顧問官はもちろん、そのスタッフ
 にはジョルジュと同様の能力を持っている者がそろっている。相手にする敵方にもその手の異能
 人がうじゃうじゃいて、そんな彼らが大戦前夜のオーストリア、ドイツ、ロシアなどの大国やハ
 ンガリー、ボスニア・ヘルツエゴビナなど紛争地に密偵として潜入情報を収集し、敵の要人を無力
 化したり工作を提案し実行したり、要するに登場人物はやりたい放題なのでうまい設定をしたも
 のだと思う次第。
  
  作者は通常人が持つ五感とは異なるこうした異能、いわば超能力を「感覚」という言葉で表現
 しているが、我々(私)が普通持っている感覚の概念とは懸け離れているのでどうしても違和感
 が拭えない。むしろ彼らが操る強力な力は「思念」に当たるのではないだろうか。
  実はジョルジュはある貴族(ライタ男爵)の落胤だった。一時幽界をさまようような事態に陥
 ったこともあるが、卓抜した能力で何度も危地をしのぐ。
 
  最終盤。ジョルジュは顧問官に殺し屋集団との取引を命じられて出かけた先でその親玉である
 実の親ライタ男爵に会う。最後の数ページ、強敵メザーリとの戦いが最大の盛り上がり。

                                 (以上この項終わり)
  
 

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