◇ 欅しぐれ 著者:山本一力 2004.4 朝日新聞社
賭場の貸元猪之吉と深川の履物の老舗桔梗屋のあるじ太兵衛が筆道稽古場で知合い、
懇意な間柄に。そのうち詐欺集団が大掛かりな桔梗屋乗っ取りの企みを図りつつあるこ
とが明るみに出る。重い病を患った太兵衛は後を猪之吉に託し息を引き取る。賭場の貸
元と大店の主が懇意になるとはちょっと意外であるし、その貸元が大店の後見人として
詐欺集団に立ち向かうというのもあまりない構図であるが、そこは時代小説のベテラン。
なかなか読ませる。それにしてもこの人たちは江戸の町や、当時の下町庶民に詳しいで
すな。当然だけど。
◇ 白日夢 著者:笹本稜平 2010.10 光文社
この作家の作品には初めて接したが、警察ものとしては佐々木穣を凌ぐと言っても
過言ではない。
圧巻痛快一気読み。エンターテインメント警察小説。との宣伝文句に偽りはなかった。
警視庁警務部人事一課監察係の監察官はいわば警察官の警察。内部の不正を暴く
のが職務であるが、実態は組織の悪事を世間に知られる前にうまく処理するのが役割。
主人公の本郷監察官は、自殺した元潜入捜査官の遺骨を受け取りに山形に向かった
が、元潜入調査官は実は警察組織に裏切られ自殺に追い込まれたことが明らかになる。
本郷の上司入江首席監察官はキャリアだが高校同期生、私立探偵から入江に誘われ
て監察官になった異色。相棒の北本は定年直前のベテラン。この面白い組み合わせで
警察中枢の悪事に立ち向かう。
エンターテイメントとはいえ、ほんとに警察はこんなに腐りきっているのかとあきれてしま
うが、裏金作りに始まって、権力争い、縄張り争いなどにうつつを抜かしているらしいこと
は何となくうなづけるし、こんなことでは初動捜査の手際は悪い、検挙率は悪いのは当
たり前ではないかと思う。手配犯が出頭しても「うそ!」なんて対応しているのも警察官
の程度を示すものだと思ってしまう。
◇ 越境捜査 著者:笹本稜平 2007.9 双葉社
本書に登場する主要人物は、迷宮入りした事件担当の警視庁特別捜査班の刑事と
神奈川県警警務部監査官室長。
15年前の未公開株式の詐欺事件に絡む殺人事件と殺された犯人が持ち逃げした
12億円の金はどこに消えたのか。警察の秘密資金かあるいは警視庁・警察庁幹部
の手に渡ったのではないか。賄事件の捜査関係者と暴力団行など行方不明の金を
めぐって事態はスリリングな展開を見せる。
主人公の一人特捜刑事鷺沼の縦横無尽の行動はまるで日本版ダーティーハリーだ。
「監察という仕事は、社会正義を実現するためにあるんじゃない。警察と言う利益集
団の存続のためにあるんだよ。」警視庁警務部人事第一課監察係長の川島の言
葉を聞くと実に空しいというか情けなくなる。
[発売4日でたちまち重版]とは本書の帯の惹句。とにかく面白い。
(以上この項終わり)
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