読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

マリリンモンロー死の謎に挑む『空のグラス』

2014年01月23日 | 読書

◇『空(から)のグラス』  著者:J・I・ベーカー(J・IBaker)
           訳者: 茅 律子  
           2013.10 早川書房 刊(ハヤカワ・ミステリー文庫)

              


  1962.8.5 突然世を去った世紀の大スターマリリン・モンロー。その死は自殺説で片づけられたが、
 依然として根強く謀殺説が囁かれるなどいまだに話題性を持つ。
  不可解な死を巡って、これまでいろんな小説や映画などで独自の推理がなされているがこの小説
 もこうした流れのひとつ。

  著者はジャーナリストで、現在も雑誌「コンデナスト・トラベラー」の寄稿編集者をつとめているという。
 彼は謀殺説をとる(そうでなければなかなか小説にはならないだろう)。小説家としての第一作。

  マリリン・モンローの死にはいくつかの疑問点があって、公表された自殺説はにわかには信じが
 たいのは確かだ。

  ①家政婦が発見してから警察に通報するまで4時間もかかっている。この間に何があったのか。
  ②電話の交信記録が消えた(FBIが押収していたことが後でわかった)。
  ③睡眠薬の瓶はあったが、処方された錠数ではとても死ねない。しかもコップも水も発見されて
    いない。解剖しても胃腸には薬剤服用の痕跡がない。注射の痕もない。座薬か?
    死後遺体を移動させた痕跡がある。
  ④遺書はない。日記帳代わりにしていたという赤い手帳が見当たらない。
  ⑤死の前日に白い化粧棚を買った小切手が発見された。自殺する人の行動とは思われない。
  ⑥3日後にはかつて離婚したジョー・ディマジオと再婚することになっていた。
   等々。

  母親が精神病で病院を出たり入ったりしていたこともあって、うつ症状を示すモンローは先天的
 に自殺願望があった。三度の結婚・離婚歴があるが、大統領選前に会ったJFKにすっかり夢中に
 なって、一時はファーストレディを夢見て、JFKが結婚後もジャクリーン夫人に電話を掛けて「私が
 ・・・」ということもあったらしい。その後ロバートが間に立って説得しようとしたが、ミイラ取りがミイ
 ラとなってロバートもモンローと関係を持つことになる。モンローは時折ケネディとの会話の内容
 を漏らすことがあった。当然FBIやCIAは国家機密の漏えいを心配する。時あたかもキューバ危
 機の前夜、CIAがシカゴマフィアのサム・ジアンカ―ナにカストロ暗殺を依頼した事件が起きたこ
 ろで、モンローは危ない火種ではあった。次第に冷たくなっていくケネディ 家の不実な兄弟に業
 を煮やしたモンローは「いろんなことをばらしてやる」と言い始めた。
  焦ったCIAはモンローの口封じに動く。(その夜モンローがロバートを呼びつけたことを知ったジ
 アンカ―ナが殺しの罪をロバートに押し付けようと謀ったとの説もある。JFKの祖父の頃からケネ
 ディ家はシカゴマフィアのボス、サム・ジアンカーナのと親交が厚く、JFKの大統領選でも多大の
 資金援助をしている。JFKの父ジョセフはジョンが大統領になったらいいポストに就けてやると甘
 言を弄した。しかし蓋を開けてみたら司法長官に着いたロバートがジアンカ-ナを極悪人のトップ
 扱いをして追及を厳格化するなど結局はケネディ家に裏切られた。それを根に持ったジアンカ―
 ナはケネディ一家を追い落とすためにモンローを謀殺したというわけである。)

  そして1962年8月4日の夜。モンローは自宅のベッドで、受話器を握ったまま全裸の状態で死ん
 でいるのを家政婦が発見した。
  死体発見の後5日経って「睡眠薬(バルビツール)の過剰摂取による自殺の可能性が高い」と発
 表された。屍体解剖に当たったのはロサンゼルス・オレンジカウンティ郡検視局検死官代理のT・
 野口。奇しくも彼は後に暗殺されたJFK、ロバート・ケネディの検視も行うことになる。  

  この小説ではロサンゼルス・オレンジカウンティ郡検視局検死官代理の一人ベン・フィッツジェラ
 ルドが主人公で、上司が糊塗しようとしている事件の解剖報告書や検視証拠の矛盾を一人で解
 明しようと動き回るうちにCIAやロス市警に狙われ、捕らわれて、ついには命を落とす。
  
  1960年代のアメリカ社会の暗部についてはジェームズ・エルロイの『アメリカン・タブロイド』など
 に詳しい。
 (『アンダーワールドUSA』参照)

  それにしてもこの本は読みにくい。なぜかといえば、時系列がめちゃくちゃで話が相前後し、、今
 話しているのは誰で、いつのことかがよく分からない。「大将」という代名詞が誰を指していたのか
 終わりころにやっとわかる始末。これは翻訳者のせいではないと思う。作家がまだ未熟なのかも。

 (以上この項終わり)

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