読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

最新のスパイ小説『レッド・スパロー』を読む

2014年01月19日 | 読書

◇ 『レッド・スパロー』 原題:RED SPARROW
              著者:ジェイソン・マシューズ(Jason Matthews)
              訳者: 山中 朝晶

     
  
  久しぶりにスパイ小説を堪能した。
  東西冷戦の終結で熾烈な諜報戦は姿を消して、勢いスパイ小説も姿を変えた。しかし大国間の
 情報戦は依然として激しさを増している。そんな現代の新しい諜報戦の中では重要なことは、仮
 想敵国の枢要な部署中に「もぐら」と呼ばれる情報提供者を置くことと、自国に潜り込んだあるいは
 リクルートされた「もぐら」をあぶり出して情報漏洩を防ぐことである。本書ではこのリクルートと、情
 報受け渡しのスリリングな展開が魅力。もちろんスパイ戦といえば米ソ間が面白い。 この小説で
 アメリカCIA防諜部と、ソ連崩壊後のロシア対外情報庁SVRとの情報戦―危険と、策略と、非情さ
 と、陰謀と秘密が渦巻く世界が明らかになる。
 
  この小説の流れをご紹介しよう。 
  主人公の一人は類稀れな美貌のロシア女性ドミニカ・エゴロワ。そして一方にアメリカCIAの諜報
 員ネイト・ナッシュ。
  ドミニカはSVR第一副長官イワン・エゴロフの姪に当たるが、美貌を武器に対外情報保有者の
 落を担わせるために第5部(レッドスパロー訓練学校)に入れられて、屈辱的な訓練を受けさせ
 られる。当初は熱烈なロシア愛国者であったドミニカも、堕落し切った旧ソ連時代を引きずるSVR
 に失望し始める。
 一方、ロシア大物高官のエージェントから極秘情報を受け渡しするケースオフィサーの役割を担っ
 ていたていたネイトは、危うくエージェントを相手SVRの包囲網に晒すというミスがあって、フィンラ
 ンド大使館に追いやられ不遇の身をかこっていた。 

  ソ連情報機関の高官にモグラがいるらしい。その ケース・オフィサーと思しい人物は現在フィンラ
 ンド大使館付きのネイトが最も怪しい。SVRはドミニカに対しネイトに接近し親密な間柄になって
 ソ連の高官モグラを探りだす役目を与えた。
  一方ネイトにはソ連内での新らたな情報提供者としてドミニカをリクルートするよう指示される。ド
 ミニカはネイトとの接触の中で次第にアメリカへの情報提供協力に傾く。そこには自己の人格否
 定をしたロシアに対する復讐心があった。
  折しも米国内のソ連内報者の一人が米国国家通信網構築計画の技術データ・マニュアルという
 機密情報を持ち出す動きを察知する。その情報受け渡しにはドミニカが当たることになるが、功を
 焦ったFBIがこの受け渡し現場でモグラを逮捕したことで事態は急変、ドミニカは内通を疑われ厳
 しい糾問を受ける破目になった。
 
  そして旧政治犯監獄レフィオルトヴォで対外防諜局の旧KGB生き残りによる言語を絶する拷問。
 執拗な拷問で身体も精神もズタズタにされながらもドミニカは強靭な精神力でこれに耐えた。心の
 支えはネイトだった。2カ月に及ぶ拷問はかえって強固な反骨心と復讐心を鍛えた。

  巧みに仕組まれた偽の米国国家通信網構築計画の技術データ・マニュアルは、ソ連内で本物と
 認められてドミニカは釈放される。ドミニカには”赤い憤怒が繰り返し湧きあがってくる”。
 再びネイト攻略の任に着いたドミニカは・・・。
 
   実は<マーブル>と呼ばれるアメリカのソ連内でのモグラはSVR第一部長のウラジミール・コルチ
 ノイ。そして<スワン>と呼ばれるソ連のリクルートした、モグラはなんと米国上院の諜報活動特別
 委員会委員長のステファニー・バウチャーだった。
  やがて傲岸不遜の女性もぐらスワンはCIAの諜報員の監視をを軽視したために、会合場所で逮捕
 され自殺する。
  またロシア防諜部内のもぐらマーブルもその存在が明るみに出て逮捕される。

  ロシア内の「もぐら」を探る目的でネイトに浸透する役割を担ったドミニカは、SVR副長官の後釜を
 狙う防諜部長の送った殺し屋の手にかかって危うく命を落としかけるがネイトに救われる。しかし、
 事件はギリシャ警察の手に移り現場の警察に捕らえられる。
  SVRの不手際に怒り狂ったプーチン大統領は身内のねずみを暴いた英雄ドミニカの取り戻しを命
 ずる。
 
  そして驚愕の展開。CIAはロシアのねずみマーブルとドミニカの交換を図る。またも昇進を狙う防諜
 部長のさし向けた殺し屋に襲われるが、これを排除し受け渡し場所であるエストニアのある橋に向か
 う。果たして無事にマーブルの命を助けることが出来るか。

  ここまでの諜報員とその上司たちがプロとして繰り広げる探り合い、騙し合いの手口や駆け引き、
 などはスパイ小説ではおなじみのもの。著者が米国元CIA局員で旧作戦本部に所属し、エージェン
 トのリクルートに従事していたていただけに話の中身に迫真性があってそれはそれで興味が尽きな
 い。しかしこの本の本当の面白さはロシアの大物モグラが我が身を捨てて二代目の大物モグラをつ
 くりだすという意表をついた陰謀にある。

  だが、作者はここでスパイ小説のルール違反をする。ドミニカは相対した人の背後にその性質を
 表す色彩を見る特異な能力を持つ。正直で誠実な人は紫、茶・黄色・緑は危険・欺瞞・緊張の色。
 敵か味方かを見抜く魔法のメガネを持っていることになる。これは絶大な武器ではないか。

  これは作者の第一作。次作を期待したい。

  (以上この項終わり)

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