読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

奥田英朗『沈黙の街で』

2021年10月01日 | 読書

◇『沈黙の街で

 著者: 奥田 英朗   2016.1 朝日新聞出版 刊

   

 著者奥田英朗らしい、地方都市の狭い地域社会の中で起きたある事件を巡って展開される
人間模様が実にビビッドに描かれていて面白い。

    ある中学校で2年生の男子生徒が校舎内で転落死した。日ごろからいじめにあっていたこ
とが分かり、警察はいじめの延長上の事件とみて自殺・他殺の両面から捜査を始める。
 今回の事件によって生徒同士、生徒と先生、先生と校長・教頭、教育委員会、保護者と学
校、保護者同士、新聞記者、警察、検察のお互いの関係が鮮やかに描かれる。語り方がうま
いし登場人物のキャラクターもリアリティがあって素直に受け入れられる。

 事件解明の動きとともに背景となった転落少年のクラスにおけるいじめの構図や彼の生い
立ち、いじめの深層などがフラッシュバックしながら次第に明らかにされていく。
 まるで学園ものと言ってもよいくらいいろんなタイプの中学生の群像が描かれる。

 最終のページで事件の真相があきらかになる。分かってみれば事件は単純な被害者、加害
者などという区分けで処理出来ないのだと思わせる。
 子供の育て方、いじめ、個人情報の扱い、少年法の検察送致年齢など義務教育学校現場の
抱えるデリケートな諸問題満載の作品である。
                              (以上この項終わり)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする