☆ 『神様の罠』
著者: 辻村深月 乾くるみ 米沢穂信 芹沢 央 大山誠一郎 有栖川有栖
2021.6 文芸春秋 刊(文春文庫)
文春文庫罠シリーズ第3弾(既刊『甘い罠』、『時の罠』)表題辻村深月の
「2020年のロマンス詐欺」のほか乾くるみの「夫の余命」、米澤穂信の
「崖の下」、芹沢央の「投了図」、大山誠一郎の「孤独な容疑者」、有栖川有栖の
「推理研VSパズル研」を集録したアンソロジー。
「投了図」が面白かった。ちょうどコロナ感染拡大防止で葬儀も身近な近親者
たちしか呼べなかった時期をとらえ動機にしているところ、将棋好きの少年に対す
る思いやり、妻の夫に対する眼差しなどが温かく感じられて、好感が持てる小説に
なった。
「崖の下」はトリックがいささか凝りすぎていて白けた。
「推理研VSパズル研」はこの作家らしい本格推理っぽい内容である。
「2020年のロマンス詐欺」は山形の田舎から大学生となって東京に出てきたも
のの、コロナで入学式もなく、友人も出来ず、バイト先もなく、仕送りも窮屈にな
る矢先、先に東京に出てきていた幼馴染からバイトを紹介されたが、気が付けば新
手の特殊詐欺の掛け子だった。成果を上げられず、抜けようとしてもかなわず、か
えって元通訳という主婦から夫殺害の相談を持ち掛けられる羽目にまでなる。真に
受けてその家に向かい夫と小競り合いになって怪我を負わせるが、電話の主はイメ
ージとかけ離れたくたびれた主婦だった。実はその娘が母のアカウントを使ってメ
ールやり取りをしていた事情が明らかになる。現代の世相をうまく切り取った掌篇
だった。
(以上この項終わり)