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読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

池波正太郎の<新装版>『娼婦の眼』

2017年08月08日 | 読書

◇<新装版>『娼婦の眼』 著者: 池波正太郎 
               2014.1 講談社 刊(講談社文庫)

  

     池波正太郎といえば時代小説の大家である。その池波氏がこのような現代小説を
 書いていたとは正直知らなかった。
  表題作『娼婦の眼』が書かれたのが1961年(講談倶楽部)のこと。本書は売春
 防止法が施行された昭和32年以降のモグリ売春の実態を描いた10作品の短編集で
 ある。

  作品では大阪のほか主として浅草近辺や作者になじみのある荏原、目黒(と思し
 い)の地が話の舞台になっている。内容的にはいわゆる艶笑譚に属するが、性需要
 と供給の仲立ちをするいわゆるポン引きも含め、池波正太郎らしい人間的に温かみ
 のある人物しか出てこない。10人の個性的な娼婦や元娼婦が登場する。
   もちろん赤線、青線といった今となれば特殊環境の一時期を描いた作品なので貴
 重と言えばそうなのだが、昭和30年代だからまだ「体重が12貫ちょっと」とか今
 でいうOLがBGと書かれていたりして「やはり一種の時代物か」と思ったりする。
 高度成長を前にした都会の世相が鮮明に描かれている「昭和時代」小説である。

  登場する娼婦は今でいうコールガール。今ならおそらくすべて暴力団の「しのぎ」
 に組み込まれているはずであるが、ここではクラブのバーテンダーが顧客(たいて
 い常連)の好みを聞いて30人くらいの手持ちの名簿から周旋するという単純な仕組
 み。
  彼女らも売春といった後ろめたさはなく、ビジネスというより仕事とととらえる
 など、それなりの主体性をもっていたりする(娼婦万里子)。「月並みの人生に何
 の興味も持てなかったからこそ体を張って、その変転ただならぬ世相を征服しよう
 と決心しこの道に入った」のである。

  この短編集は確かに艶笑譚ではあるが、男女間のそうした場面はほとんどないと
 いってよい。作者自身が「もともとエロシーンを書くのが下手な筆者ごときが、こ
 れを濃密に描写することは不可能だ」と正直に告白している。(p32)

                            (以上この項終わり)