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読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ピエール・ルメートルの『天国でまた会おう』を読む

2016年03月25日 | 読書

◇ 『天国でまた会おう』(原題:Au revoir la-haut)
                          著者:ピエール・ルメートル(Pier le maitre)
                          訳者:平岡 敦 2015.10 早川書房 刊

   

   前作『その女アレックス』(2014.10)はフランスの文学賞ゴンクール賞を受賞した。物語が二転・
  三転するサスペンスフルで驚愕的な展開で読者をうならせ、邦訳本も爆発的な売れ行きだった。
   本書はミステリーに属する『その女アレックス』とは異なり、フランスでは冒険小説と分類されているら
  しい。
   翻訳者がフランスの新聞・雑誌の書評を紹介している。”ルメートルの言葉は生き生きとして抑制が効き、
   独創的だ。まさに注目に値する、驚くべき小説である。”、”悲劇的な、そして波乱万丈の物語。読者の心
  をとらえて離さない感動的な一大絵巻。”、”まさしく傑作だ。大衆性と文学性を両立させた作品。一般読者
  のゴンクールアレルギーを解消させてくれる作品である。”、”心を打つ大作。恐怖、禍々しさ、情感、荘厳、
  卑しさ、そして滑稽さまでもが、ここでは見事にひとつになっている。” 等々。
   578ページの大作である。とても一気読みをするわけにはいかないが、眠れぬ夜の2時3時に、また手に取
  って読み始めるという本はそうはない。

   舞台は1918年ころのパリ。第一次世界大戦が終わってまだ混乱の世が続いている。主要な登場人物は愚図
  で、のろまで、小心者の一兵卒のアルベール・マイヤール、その上官で没落貴族の末裔、大尉アンリ・ドル
  ネー=プラデル、そしてアルベールと同じ小隊の戦友エドゥアール・ペリクール。彼は富裕な実業家の一人
  息子であるが、天与の画才をもちながら父と親子の情を通わせる暇もなく戦場で顎を失うという重傷を負う。
  偶然に上官アンリの悪事を見てしまったアルベールは、その直後爆弾の直撃で生き埋めになる。しかし運よ
  くエドゥアールが必死で掘り起こしてくれて、片手を失うものの九死に一生を得る。その直後にエドゥアール
  が顎を失うという瀕死の怪我を負うことになる。
   ようやく休戦協定にこぎつけ、二人は戦場を後にするが、なぜかエドゥアールは実家に帰ることを拒む。
  彼に恩義があるアルベールは、戦死者の一人となり替わる手を打ち、顎も歯も喉も失ったエドゥアール介護
  に当たることになる。エドゥアールは痛みを抑えるモルヒネ依存になり、ヘロインにまで手を出すようになった。

   戦死の通知を受けたエドゥアールの家では親しかった姉のマドレーヌがアンリ・プラドルを介して弟の戦
  死に立ち会ったというアルベールに会いに来る。なんとそれがきっかけでマドレーヌは金目当てのアンリに
  つかまり結婚することに。
   商才があるプラドルは、政財界に人脈があるマドレーヌの父ペリクールをバックに戦死者を戦没者墓地に
  埋葬する事業を落札する。かつての屋敷を再興したいプラドルは、棺のサイズや埋葬者の数をごまかす、土
  を入れた棺を埋葬する、遺品を盗む、ドイツ兵を埋葬するなど数々の悪事を働き、やがて査察官に見つかり
  訴追される羽目になる。
   一方、エドゥアールはフランス中の市町村に戦没者を追悼する記念碑建設を勧奨することを思いつく。い
  くつものモデル像を描き、パンフレットを送りつけ、100万フランのほど上がるはずの予約金を手に、外国
  に逃げるという壮大な詐欺プランを企てる。心配性のアルベールも日々の生活費やモルヒネ代のこと、加え
  て最近思いを寄せているバツイチの娘ポリーヌとの生活を思って、ついにそのプランに乗る。
   革命記念日の7月14日を締め切りとする戦没者追悼記念碑申し込みはついに100万フランを超えた。あと
  3日後にはマルセイユ経由で二人はベイルートへ逃れる。(そしてポリーヌも連れていきたい!)
   当日エドゥアールはアルベールとリヨン駅で待ち合わせていた。高揚した気分で大通りに走り出たエドゥ
  アールは走ってきた大型車にはねられた。その車には父ペリクールが乗っていた。彼の眼前には死んだと
  思っていた息子の顔があった。リヨン駅ではまだ来ぬエドゥアールをやきもきするアルベールとポリーヌ。

   大まかに言ってこんなストーリーであるが、際立ったサスペンスもないし、冒険小説特有のワクワクする活劇
  場面もあるわけではないが、登場する人物像と相互のかかわり、心の動きなどが生き生きと弾み、一時代前
  の話とは思わせない展開で、飽きさせない。
   前代未聞の詐欺事件を企てさせた背景には、戦死した兵士は英雄としてもてはやされながら、生きて帰っ
  た復員兵には冷たい、戦後のフランス社会に対し痛烈な一矢を報いた小説ともとれるとの見方がある。

                                         (以上この項終わり)