◇ 『クズリ』 著者 :柴田 哲孝 2015.11 講談社 刊
柴田 哲孝の本を読むのは2冊目。綿密な取材で読ませた『下山事件―暗殺者たちの夏』は、著者柴田の
祖父が下山総裁暗殺の謀略組織の一員だっという因縁のある作品だけに実に迫力があった。
今度の作品はまさしくハードボイルドものであるが、殺しの場面が何度かあるものの、シチュエーションが平板
でこの本の帯にある「ハードボイルドサスペンス」というほどの緊迫感がない。登場する人物は主人公の殺し屋
”狼貛(ロンホワン)”、その愛人”春燕”、韓国の麻薬密売人、中国マフィアの殺し屋、在日中国人社会の顔役、
警察庁外事情報部国際テロリズム対策課担当官中瀬と荻原等々ハードボイルド作品としては不足はないもの
の、主人公以外はさほどの存在感がない。しかも主人公も国際手配のテロリストとしては緊迫感に乏しいし、
警察庁担当部署もいまいち追跡の焦点がぼけている。少し気になるのは中国人の会話は中国語そのままが
多いこと。中国黒社会の使う言葉が多いが勉強にはなる。期待していたがこの作品にはがっかりした。
東京と横浜で立て続けに拳銃射殺事件が発生した。その銃弾の線条痕は32年も前に「クズリ」としてその筋
では知られた殺し屋の拳銃から発せられた銃痕の線条と同じものであった。亡霊のごとく甦った「クズリ」とは。
実はウクライナ人に追われて横浜に上陸した”狼貛”は、かつて知られた”クズリ”のロシア語:グログロの忘れ
形見であった。クロアチア国籍の「クズリ」こと「グーロ・ヴラトコヴィチ」は横浜中華街の料理店の屋根裏に潜み、
隠してあった拳銃S&W/M36を使い殺しの仕事を続ける。そこで深圳生まれの中国人”春燕”識り合い恋人関
係になる。韓国・中国・日本での麻薬取引のもつれから、卸元暴力団、密売人、仲介者入り乱れてのの殺し合い
が始まる。終盤で熾烈な銃弾戦になり盛り上がるのであるが…エピローグでがっくり。
ちなみに、「クズリ」(貂熊、gulo gulo)とは、体長1メートルほどのイタチ科の哺乳類動物。主にタイガ、ツンド
ラ地帯に生息する。雑食であるが、クマやムースなど自分より大きな猛獣にも平気で挑み、脊椎を噛み砕き死
に至らせるという凶暴性がある。(Wikipedia)
(以上この項終わり)