読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

ジョン・ル・カレの『われらが背きし者』を読む

2013年02月13日 | 読書

◇ 『われらが背きし者』(原題:OUR KIND OF TRAITOR)
                著者: ジョン・ル・カレ(John Le Carre)
                訳者: 上岡伸雄・上杉隼人    2012.11 岩波書店 刊

    


  ジョン・ル・カレは国際謀略小説の名手である。1961年『死者にかかってきた電話』で小説家デビュー、
 著作は20を超える。『スマイリーと仲間たち』(1987.4)、『ロシア・ハウス』、(1996.4)『影の巡礼者』
 (1997.8)、『ナイロビの蜂』(2003.12)などが知られているが、比較的寡作で2年おきくらいに著作が
 発表されている。
  元々英国外務省に勤務し、諜報部(MI6)に所属したこともある。そんな経歴もあってかスパイものはお
 得意なのだろうか。知的な皮肉(エスプリ?)が効いた対話がイギリスの小説家らしい。

  主人公はオックスフォード大学元個別指導教師のペリー、そのフィアンセ弁護士のゲイル。そしてヴォー
 リーという犯罪集団の幹部で世界的マネーローンダーとして知られるディマ。
  ペリーとゲイルは結婚前に生涯一度の豪華バカンス旅行をとカリブ海アンティグ島にやって来た。そこ
 で偶然出会ったディマにテニスの挑戦を受ける。
  ディマは世界主要地においた会社でネットワークを組み巨額のマネーローンダリングを重ねている。しか
 しグループのボス「プリンス」に疎まれ身に危険が迫ってることを察知し、組織の全貌をばらすことと引き
 換えに我が身と家族の英国亡命を持ちかける。その相手がテニスをきっかけに識り合った、諜報に関し
 ては全くの素人であるペリーとゲイルだった。
  犯罪集団の一員とはいえ誠実なディマに同情したペリーは大学時代の教授を手づるに英国諜報部につ
 なぎを付けこの大事を打ち明ける。そこに登場するのは諜報部(MI6)の一匹狼へクター。へクターはリス
 トラ直前の中年スパイ・ルークやオリーのチームで事の真疑を確かめながらこの重大プロジェクトに取り組
 む。 
  
  アクション場面はそう多くはないが、ベルリンの壁崩壊以降、冷戦構造が緩和し凋落気味の諜報部では
 上層部が事なかれ主義に堕し、ディマの亡命に半信半疑になっている。漸く亡命受け入れとなってしばら
 くスイスの山荘に匿うことになる。パーティー会場からの脱出、アイガー北壁の夜道を駆る逃走劇がスパ
 イ小説らしいシーン。そして物語はあっと思わせるシーンでやや唐突に終わる。
 いろんな疑念が残るが後は読者にお任せか。 

   
  (以上この項終わり)

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