記事のタイトルに奏者まで納まりませんでしたが、「Sweet Jazz Trio」のコルネット奏者ラッセル・トゥーンクヴィストとピアノのヤン・ラングレンのデュオアルバムです。
「Sweet Jazz Trio」が好きで、ラングレンが良いと思っているのですから、飛びついて買ったかというと、そうでもありません。
内容は想像がついているので、あせらず気持ちが盛り上がるまで待って買いました。
そうして、何度も聴くうちに酒場に浮遊しているような気分になりました。
淀むことがないよう、それでいて空気を動かさないようにカウンターの内側で40代後半のバーテンダーがグラスを磨きます。
1曲目“Everything Happens To Me”ピアノのイントロからトゥーンクヴィストのソフトでストレートなテーマが流れると、すでにピュアな世界がはじまります。トゥーンクヴィストのコルネットはいつものままで、ですから安心してコルネットのメロディにのって、ラングレンのバックに弾くピアノを楽しむのです。
2曲目はちょっとテンポを上げて、心を軽いところに持ち上げてくれる演奏。
棚に並べられたオールド・ファッション・グラスとタンブラー、逆さつるされたシャンパンとワイン・グラス、その輝きを保つことが一番の関心事といっても良いのです。
3曲目はおなじみの“枯葉”コルネットがテーマの後、アドリブパートに移ってのラインのしみじみとした美しさ、ここではトゥーンクヴィストのための曲となりました。
客数が多くなると、翌日のグラスには、判断のつかない濁りが浮くように感じるのです。
それは科学的な反応なのか知りませんが、色や香が混じりあって整理のつかない物質となってグラスを曇らすのです。
お客が2,3人の時を好みます。その程度の人数の会話が、時にグラスに輝きを与えることを、透明な音が鳴る事を幾度も経験しているのです。
4曲目“I'm Confessin”のように、このバーテンダー、決して人間嫌いなわけではない、良い人生を送っていることがわかるお客には、サービスをそっと添えることもあるのです。
5曲目“Little Man You've Had A Busy Day”、人生を振り返ることなどと思うのですが、いくつかのことは客の語る思い出の話の記憶とは違う場所に置いてあるのです。
9曲目“Jill”カードの並べ方に行きあぐねる客には、記憶した話を少しだけ捻じ曲げて話すこともあるのです。
ジンを注げば氷しか見えないピュアな清浄、シングル・モルトを注げば芳醇な色合い、ワインは注げば、その年々の悲喜劇が映しだされてくるのは、実はグラスの演出なのです。
同じように10曲目“We Fell Out Of Love”簡単のようで実に演出が効いている演奏です。
この酒場で一番大事なことは、そこにあるグラスの輝きを保つことと思っているのです。
昨日の汚れは感じさせない、門出の人には新品のように、悲しみを抱える人にもピュアに迎え合えるグラスを保つことがこのバーテンダーの仕事なのです。
ですから、このアルバムを開店の前に聴きながら、一つ一つのグラスを磨いていくのです。
Everything Happnes To Me/Lasse Tornqvist / Jan Lundgren
Lasse Tornqvist (cor)
Jan Lundgren (p)
1. Everything Happens To Me
2. Thanks A Million
3. Autumn Leaves
4. I'm Confessin'
5. Little Man You've Had A Busy Day
6. Moon Light Becomes You
7. Danny's Dream
8. The Very Thought Of You
9. Jill
10. We Fell Out Of Love
11. My Queen Is Home To Stay
12. Vidarna Sucka Uti Skogarna / The Winds Sigh In The Wood