20年引きこもっていた男性が働き始めました。
その「復活劇」は感動的でした。
親や周りの人間はどう接したらいいのか、ヒントもたくさん含まれています。
それがあっての「復活劇」です。
ここにも紹介したいと思います。
現在33歳の彼は、小さい頃よりぽっちゃりとした体形で、動作もゆっくりしていました。会話のキャッチボールもあまり得意な方ではなく、相手の求めているであろう受け答えをすることが難しかったそうです。そのためか、中学生の頃に、からかいやいじめの標的にされるようになってしまいました。ひどい時には後ろから頭をたたかれたり、背中を蹴られたりといった暴力も受けたそうです。
母親は学校の先生に相談をしましたが、先生からは「皆と遊んでいるうちに少しエスカレートしてしまっただけでしょう」というような受け答えで、真剣に話を聞いてくれませんでした。
そうこうするうちに、元気がない、食欲がない、いつもお腹を下しているといった症状が出てきました。
心配した母親は息子と話し合った結果、しばらく学校を休むことにしました。
少しの間だけ休むつもりだったのですが、復帰のきっかけもつかめず、そのまま息子はひきこもるようになってしまいました。
父親は当時も会社員で仕事に忙しく、息子のことは母親に任せっきり。母親は「このままではいけない」と思いつつも、息子は両親に暴力をふるったり暴言を吐いたりすることもなかったので、何もしないまま日々を過ごしてきました。
気づけば、20年近くの歳月が経過していました。
現在、父親は定年間近、息子も30歳を超え、本人に焦りが見られるようになったそうです。
息子は『そろそろ働かなきゃ』ということを口にするようになりました。
しかし、その一方で『正社員にならないと、途中でお金が足りなくなって生きていけない。でも自分には学力も技術も何もないから正社員にはなれない。もう働くのは無理だ』と嘆いていたそうです。
そこで専門家に相談に行くと・・・
「確かに『働く』ということを考えたとき、どうしても『正社員になって自活できるようになる』といったことをイメージしてしまいがちです。ここで言う『自活』とは、例えば月に20万円くらい稼げるようになり、自分の生活費は自分で何とかする、といったことを指します。本来なら自活できるようになるのが望ましいと私も思います。ですが『自活することが難しい方もいる』というのが現実です。そして『自活できなければ働く意味はないのか? 生きていけないのか?』というと、そんなことはないとも思っています」
そして、正社員にならないと本当に駄目なのか? 将来お金が足りなくなってしまうのか?お金の見通しを立ててもらいます。
ざっくり言えば、自宅の土地を売却した資金と長男のために現金をある程度残しておけば、お金については何とかなりそう・・とのこと。
「正社員でなくてもお金は何とかなりそうです。例えばアルバイトで月3万円の貯蓄を30年続けた場合、3万円×12カ月×30年で1080万円になります。月4万円なら1440万円です。アルバイトでも息子さんの必要な資金の大部分をまかなうことができます。計算はあくまでも目安ですが、それでも『正社員にならなければ生きていけないのか?』というとそんなわけでもなさそうです」
次は仕事をどう探したらいいか・・・です。
地域若者サポートステーション(通称サポステ)の説明を受けます。
サポステでは、働くことに悩みを抱えている15歳から49歳までの方を対象にした支援を行っています。サポステは厚生労働省が委託したNPO法人や株式会社などが運営しています。主な支援内容としては、相談、スキルアップ講習、職場体験です。
仕事の悩みに関する相談にはキャリアコンサルタントの資格を持つ専門家が対応してくれます。スキルアップ講習には、コミュニケーションや社会人のマナーを身に着ける講座、パソコン講座(ワードやエクセルの基本的な操作を覚える)などがあります。
職場体験は、協力企業に出向いて実際に仕事をしてみるというものです。このようにサポステではさまざまな支援を受けることができ、費用は交通費などの実費を除き無料となっています。
支援者の方々は温和で親しみやすく、「最初は不安や怖い気持ちがあったけど、勇気を出してサポステに来てよかった」という声も。
ひとりで相談に行くのはハードルが高いようであれば、最初は保護者と一緒に行ってもよい。そういうケースも多い。
慣れてくればひとりで通えるようになるでしょう・・・と。
お金の見通しやサポステの話を聞いた息子は最初「ちょっと考えさせてほしい」と答えたそうです。
お母様は、息子を急かすことなく、返事をしてくるのを待つことにしました。
息子は「中学の時のように、また馬鹿にされたらどうしよう。自分のことを受け入れてもらえなかったらどうしよう」と、どうしても不安や恐怖が先だってしまったそうです。
しかし同時に「やっぱりこのままではいけない。何とかしたい!」といった思いも生まれてきました。そしてその思いの方が不安や恐怖よりも少しだけ勝りました。
母親からサポステの話を聞いてから1週間後、サポステで支援を受けることに決めました。ただし最初から一人で行くことがどうしてもできなかったので、母親に頼んで一緒にサポステへ行ってもらうことにしたそうです。
不安な気持ちを抱える息子をサポステの支援者たちは温かく迎え入れてくれました。
担当になったのは50代の小柄な女性。その担当者は息子の話を否定することもなく、途中で受け答えに詰まってしまっても、再び口を開くまでじっくりと待ってくれました。そのような対応をしてくれたため、2回目以降は一人で行けるようになったそうです。
担当者との面談を繰り返す中で、自分の好きなこと、嫌いなこと、出来そうなこと、無理そうなこと、やってみたい仕事のことなど、時間をかけて様々なことを語りました。面談と並行してスキルアップ講習もいくつか受けていきました。ある程度の下地ができ上がってきた頃、担当者から「そろそろ職場体験をしてみませんか?」という提案を受けたそうです。
「とうとう仕事をする時が来た。自分にはできるだろうか?」という不安もありましたが、その一方で「早く仕事をやってみたい」という気持ちも芽生えていました。
担当者と話し合った結果、ショッピングモールの早朝清掃を体験することに決めました。
「ぜひウチで働いてほしい。採用面接を受けに来てくれませんか?」
職場体験当日。心の中は期待と不安でいっぱいでした。
緊張でがちがちになっていましたが、職場の人たちは温かく迎え入れてくれたそうです。
そのおかげで、少しだけ心に余裕を持つことができました。
職場体験で指示された掃除の内容は、自動ドアや看板の雑巾がけ、フロアにあるゴミ箱の中身を捨ててきれいにするといったもの。
もちろん最初から自分一人で掃除ができるわけではないので、ベテランパートの60歳女性とコンビを組んで掃除をすることになりました。
パートの女性から優しく丁寧に掃除のやり方を教えてもらい、黙々と一生懸命に作業をしていきました。
すると、その様子を見ていた採用担当者が職場体験終了後に声をかけてきたのです。
「ぜひうちの会社で働いてほしい。今度、採用面接を受けに来てくれませんか?」
そのように言われ「こんな自分でも受け入れてくれるところがある。すごくうれしい!この会社で仕事をしてみよう」と思ったそうです。
後日、その清掃会社の面接を受け、無事アルバイト採用されることになりました。
アルバイトで仕事をするようになった後も掃除のやり方は丁寧に教えてもらえ、疑問や質問にもきちんと答えてくれたそうです。
また、職場で厳しい言葉を投げかけられたり怒られたりすることもありませんでした。
なぜ、そのようなことが可能なのか?
それはその会社の企業風土にありました。社長を含め従業員全員が働くことが難しいお子さんに理解を示していたからです。
もちろんそのような会社はどこにでもあるわけではありません。
サポステの担当者が日々靴底を減らし、理解を示してくれるような会社を一つひとつ見つけていったからなのです。
職場の方々はいずれも優しく接してくれていますが、その中でも特に“フレンドリーなおばちゃん”がいて、仕事を続ける原動力にもなっているそうです。
そのおばちゃんからは、出勤時には「今日も来てくれてありがとう。一緒に頑張りましょうね」と言われ、退勤時には「今日もおばちゃん助かったわ~。次はいつ来てくれるの?」といったように必ず声かけをしてくれるそうです。それにより「よし、次も頑張ろう」という意欲が湧いてくるのでした。
アルバイトを始めて1カ月がたった頃、念願の初給料が出ました。
時給は最低賃金なので手取りは2万円程度でしたが、それでも「自分で仕事をしてお金を稼いだ」ということが何よりもうれしかったようです。
息子は、その初給料で父親にハンカチを、母親に花をプレゼントしました。
両親は驚きましたが、同時に息子の成長を心から喜びました。
自信がついてきた息子は「もっと仕事の時間を増やして稼ぎたい」と両親に告げたそうです。
その「復活劇」は感動的でした。
親や周りの人間はどう接したらいいのか、ヒントもたくさん含まれています。
それがあっての「復活劇」です。
ここにも紹介したいと思います。
現在33歳の彼は、小さい頃よりぽっちゃりとした体形で、動作もゆっくりしていました。会話のキャッチボールもあまり得意な方ではなく、相手の求めているであろう受け答えをすることが難しかったそうです。そのためか、中学生の頃に、からかいやいじめの標的にされるようになってしまいました。ひどい時には後ろから頭をたたかれたり、背中を蹴られたりといった暴力も受けたそうです。
母親は学校の先生に相談をしましたが、先生からは「皆と遊んでいるうちに少しエスカレートしてしまっただけでしょう」というような受け答えで、真剣に話を聞いてくれませんでした。
そうこうするうちに、元気がない、食欲がない、いつもお腹を下しているといった症状が出てきました。
心配した母親は息子と話し合った結果、しばらく学校を休むことにしました。
少しの間だけ休むつもりだったのですが、復帰のきっかけもつかめず、そのまま息子はひきこもるようになってしまいました。
父親は当時も会社員で仕事に忙しく、息子のことは母親に任せっきり。母親は「このままではいけない」と思いつつも、息子は両親に暴力をふるったり暴言を吐いたりすることもなかったので、何もしないまま日々を過ごしてきました。
気づけば、20年近くの歳月が経過していました。
現在、父親は定年間近、息子も30歳を超え、本人に焦りが見られるようになったそうです。
息子は『そろそろ働かなきゃ』ということを口にするようになりました。
しかし、その一方で『正社員にならないと、途中でお金が足りなくなって生きていけない。でも自分には学力も技術も何もないから正社員にはなれない。もう働くのは無理だ』と嘆いていたそうです。
そこで専門家に相談に行くと・・・
「確かに『働く』ということを考えたとき、どうしても『正社員になって自活できるようになる』といったことをイメージしてしまいがちです。ここで言う『自活』とは、例えば月に20万円くらい稼げるようになり、自分の生活費は自分で何とかする、といったことを指します。本来なら自活できるようになるのが望ましいと私も思います。ですが『自活することが難しい方もいる』というのが現実です。そして『自活できなければ働く意味はないのか? 生きていけないのか?』というと、そんなことはないとも思っています」
そして、正社員にならないと本当に駄目なのか? 将来お金が足りなくなってしまうのか?お金の見通しを立ててもらいます。
ざっくり言えば、自宅の土地を売却した資金と長男のために現金をある程度残しておけば、お金については何とかなりそう・・とのこと。
「正社員でなくてもお金は何とかなりそうです。例えばアルバイトで月3万円の貯蓄を30年続けた場合、3万円×12カ月×30年で1080万円になります。月4万円なら1440万円です。アルバイトでも息子さんの必要な資金の大部分をまかなうことができます。計算はあくまでも目安ですが、それでも『正社員にならなければ生きていけないのか?』というとそんなわけでもなさそうです」
次は仕事をどう探したらいいか・・・です。
地域若者サポートステーション(通称サポステ)の説明を受けます。
サポステでは、働くことに悩みを抱えている15歳から49歳までの方を対象にした支援を行っています。サポステは厚生労働省が委託したNPO法人や株式会社などが運営しています。主な支援内容としては、相談、スキルアップ講習、職場体験です。
仕事の悩みに関する相談にはキャリアコンサルタントの資格を持つ専門家が対応してくれます。スキルアップ講習には、コミュニケーションや社会人のマナーを身に着ける講座、パソコン講座(ワードやエクセルの基本的な操作を覚える)などがあります。
職場体験は、協力企業に出向いて実際に仕事をしてみるというものです。このようにサポステではさまざまな支援を受けることができ、費用は交通費などの実費を除き無料となっています。
支援者の方々は温和で親しみやすく、「最初は不安や怖い気持ちがあったけど、勇気を出してサポステに来てよかった」という声も。
ひとりで相談に行くのはハードルが高いようであれば、最初は保護者と一緒に行ってもよい。そういうケースも多い。
慣れてくればひとりで通えるようになるでしょう・・・と。
お金の見通しやサポステの話を聞いた息子は最初「ちょっと考えさせてほしい」と答えたそうです。
お母様は、息子を急かすことなく、返事をしてくるのを待つことにしました。
息子は「中学の時のように、また馬鹿にされたらどうしよう。自分のことを受け入れてもらえなかったらどうしよう」と、どうしても不安や恐怖が先だってしまったそうです。
しかし同時に「やっぱりこのままではいけない。何とかしたい!」といった思いも生まれてきました。そしてその思いの方が不安や恐怖よりも少しだけ勝りました。
母親からサポステの話を聞いてから1週間後、サポステで支援を受けることに決めました。ただし最初から一人で行くことがどうしてもできなかったので、母親に頼んで一緒にサポステへ行ってもらうことにしたそうです。
不安な気持ちを抱える息子をサポステの支援者たちは温かく迎え入れてくれました。
担当になったのは50代の小柄な女性。その担当者は息子の話を否定することもなく、途中で受け答えに詰まってしまっても、再び口を開くまでじっくりと待ってくれました。そのような対応をしてくれたため、2回目以降は一人で行けるようになったそうです。
担当者との面談を繰り返す中で、自分の好きなこと、嫌いなこと、出来そうなこと、無理そうなこと、やってみたい仕事のことなど、時間をかけて様々なことを語りました。面談と並行してスキルアップ講習もいくつか受けていきました。ある程度の下地ができ上がってきた頃、担当者から「そろそろ職場体験をしてみませんか?」という提案を受けたそうです。
「とうとう仕事をする時が来た。自分にはできるだろうか?」という不安もありましたが、その一方で「早く仕事をやってみたい」という気持ちも芽生えていました。
担当者と話し合った結果、ショッピングモールの早朝清掃を体験することに決めました。
「ぜひウチで働いてほしい。採用面接を受けに来てくれませんか?」
職場体験当日。心の中は期待と不安でいっぱいでした。
緊張でがちがちになっていましたが、職場の人たちは温かく迎え入れてくれたそうです。
そのおかげで、少しだけ心に余裕を持つことができました。
職場体験で指示された掃除の内容は、自動ドアや看板の雑巾がけ、フロアにあるゴミ箱の中身を捨ててきれいにするといったもの。
もちろん最初から自分一人で掃除ができるわけではないので、ベテランパートの60歳女性とコンビを組んで掃除をすることになりました。
パートの女性から優しく丁寧に掃除のやり方を教えてもらい、黙々と一生懸命に作業をしていきました。
すると、その様子を見ていた採用担当者が職場体験終了後に声をかけてきたのです。
「ぜひうちの会社で働いてほしい。今度、採用面接を受けに来てくれませんか?」
そのように言われ「こんな自分でも受け入れてくれるところがある。すごくうれしい!この会社で仕事をしてみよう」と思ったそうです。
後日、その清掃会社の面接を受け、無事アルバイト採用されることになりました。
アルバイトで仕事をするようになった後も掃除のやり方は丁寧に教えてもらえ、疑問や質問にもきちんと答えてくれたそうです。
また、職場で厳しい言葉を投げかけられたり怒られたりすることもありませんでした。
なぜ、そのようなことが可能なのか?
それはその会社の企業風土にありました。社長を含め従業員全員が働くことが難しいお子さんに理解を示していたからです。
もちろんそのような会社はどこにでもあるわけではありません。
サポステの担当者が日々靴底を減らし、理解を示してくれるような会社を一つひとつ見つけていったからなのです。
職場の方々はいずれも優しく接してくれていますが、その中でも特に“フレンドリーなおばちゃん”がいて、仕事を続ける原動力にもなっているそうです。
そのおばちゃんからは、出勤時には「今日も来てくれてありがとう。一緒に頑張りましょうね」と言われ、退勤時には「今日もおばちゃん助かったわ~。次はいつ来てくれるの?」といったように必ず声かけをしてくれるそうです。それにより「よし、次も頑張ろう」という意欲が湧いてくるのでした。
アルバイトを始めて1カ月がたった頃、念願の初給料が出ました。
時給は最低賃金なので手取りは2万円程度でしたが、それでも「自分で仕事をしてお金を稼いだ」ということが何よりもうれしかったようです。
息子は、その初給料で父親にハンカチを、母親に花をプレゼントしました。
両親は驚きましたが、同時に息子の成長を心から喜びました。
自信がついてきた息子は「もっと仕事の時間を増やして稼ぎたい」と両親に告げたそうです。