風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

外交の年

2016-01-10 20:39:39 | 時事放談
 年末年始、日本はとても天気が良く穏やかだったが、国際情勢は荒れた。
 先ず、年末25日、インドのモディ首相が、対立するパキスタンのシャリフ首相を電撃訪問し、滞在は僅か2時間だったが、対話の再開や両国の民間交流の促進について話し合ったことが報じられた。インドは既にスリランカやバングラデシュ等との関係改善に乗り出しており、中国を牽制する動きが本格化しそうだ。
 続いて、29日、日・韓は、喉元に突き刺さった小骨のように首脳間の交流を阻害してきた慰安婦問題で合意した。共同会見も共同文書もないただの口約束で、安倍首相が望む「不可逆的な解決」が果たして実現するのか大いに疑問とされることを含め、そもそも日本のメディアが火を付けた問題で妥協したことに、国内の保守派からは厳しい評価が寄せられた。しかし、日韓基本条約の原則は貫徹したこと、またアメリカをはじめ国際社会から好感されたこと、そして国際社会の監視のもとに、在韓国日本大使館前の慰安婦像撤去を韓国内の国内問題化した状況を見ていると、今のところ、それほど悪くない政治決着だったのかも知れないと思う。
 年が明けて2日、サウジアラビアが、シーア派高位聖職者ニムル師を含む47人を、テロに関与したとして処刑したことをきっかけに、テヘランで群衆がサウジ大使館を襲撃する事件が起こり、報復としてイランとの国交を断絶した。まるでシナリオ通りの、私たちにとってあれよあれよという間の、淀みない展開だった。レバノンやイラクなどシーア派が多い国々でもサウジへの抗議活動が発生する一方、バーレーンやスーダンのようにサウジに追随してイランと外交関係を断絶する国も続き、中東の緊張が俄かに高まった。欧米はサウジなどスンニ派の湾岸諸国を有志連合に引き入れISに代表される暴力的過激主義に立ち向かう連携を模索してきただけに、IS掃討に向けた取り組みに影を落としかねないことが懸念されている。
 同じ2日、中国政府は、南沙諸島のファイアリークロス礁に新設した空港で民間機の飛行実験を行ったと発表し、「すべて中国の主権の範囲内」での行為と開き直ったのに対し、ベトナム政府は、主権が侵害されたとして抗議した。民間機がいずれ軍用機になるのは間違いなく、中国は、腹立たしくも、また一つ既成事実を積み上げた形だ。
 続いて6日、北朝鮮は水爆実験を実施したと発表し、東アジアの緊張が一気に高まった。本当に水爆だったかと言うと懐疑的で、水素爆弾の前段階に当たるブースト型核分裂爆弾との見方があるが、いずれにしても、核実験を行ったことには変わりなく、しかも今回は中国にさえ事前の通告を行わなかったことから、外交的な狙いよりも、ひたすら核開発を進めることに重点が置いたものとの分析もあって、東アジアの攪乱要因として北朝鮮の予測“不”可能性は高まるばかりである。
 僅か過去二週間で起こった一連の出来事であるが、こうして見ると、経済が相互依存する現代世界にあって、安全保障上不安定で火薬庫となり得るのは、もはやバルカンではなく中東と東アジアであり、中東にあっては、イランという眠れる潜在的地域大国が欧米との核合意により国際社会に復帰することを、民族や宗派で対立するもう一つの地域大国のサウジアラビアが警戒する構図が、また東アジアにあっては、政治・経済的に台頭する中国を、同じように地域大国である日本やインドが警戒し牽制する構図が、浮かび上がる。中東にあって、アメリカやフランスは空爆は行っても地上軍派遣は躊躇し、東アジアにあっては、国際ルールを無視する中国に対して、アメリカは飽くまで国連・海洋法条約をはじめ法の支配を主張し、それに沿って航行の自由作戦を展開し、TPPによって地域のルール作りを主導するものの、中国との直接の衝突は避けながら、国際社会への関与を促す穏便なアプローチをとっている。
 日本の安倍政権は「積極的平和主義」のもとに集団的自衛権を認め安保法制を整備し、野党やマスコミからは誤解されて叩かれて散々であるが、専門家からは「地域紛争を未然に防ごうと取り組んでいる」(外交筋)、「武力による争いをせず、国を守る」(元自衛隊幹部)と、評価が高い。今どき、テロにしても他国からの攻撃にしても、一国で防ぐことは困難で、平和と安定に向けた地域的な取り組みが必要であり、冷戦時代とは違って各種情報を秘匿するのではなく同盟国や準同盟国との間で共有し如何に活用していくかが重要であって、その点からも、諸外国は安倍政権の取組みを評価している。実際、安倍首相や岸田外務大臣は、長期政権のメリットを生かして構築した個人的な信頼関係を活用し、関係者とのコミュニケーションや会談を活発化しているようであり、この点でも外交筋の評価は高い。
 とりわけ国家間の距離が縮まった近・現代にあって有効なのは、国際世論や外圧を利用することだろう。今年、日本は、先進7ヶ国や日中韓の首脳会談議長国として、また国連・安全保障理事会の非常任理事国として、国際舞台での露出が多くなり、リーダーシップを発揮しようと思えば大いに発揮し得る立場になる。安倍首相が掲げる「地球儀を俯瞰する外交」の真価が問われる年になりそうだ。
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