風来庵風流記

縁側で、ひなたぼっこでもしながら、あれこれ心に映るよしなしごとを、そこはかとなく書き綴ります。

パリ同時多発テロ・続々

2015-11-20 23:21:02 | 時事放談
 今回まで同じタイトルで引っ張りたい。フランスはじめ関係諸国の動きを見ていると、危機への対処という点で、いろいろ考えさせられるからだ。
 一つには、フランス政府は「非常事態宣言」を発令し、国境封鎖、夜間の外出禁止、集会の禁止などの措置を取ったほか、治安当局が令状なしで家宅捜索を行い、武器の押収や逮捕につなげるなど、テロ対策を進めていることだ(産経Web)。続けて産経Webからの抜粋になるが、こうした対応が可能なのは、緊急事態に対処するため、一時的に国の権限を強化して国民の権利を制限する「国家緊急権」が憲法や法律に設けられているからで、西修・駒沢大名誉教授の調査によると、1990~2014年に制定された102ヶ国の憲法の全てに国家非常事態に関する規定があるらしい。ところが、ご存知の通り日本国憲法にはこうした規定がない。大規模テロに際してフランスのような措置を取ろうにも、居住・移転の自由や財産権、通信の秘密といった権利の制限は困難であり、憲法の枠内で緊急立法するとしても国会審議が必要なため機動的な対応は難しい、ということだ。安保法制の論議の過程で、憲法改正について議論されたとき、リベラル気分を気取っていた日本のメディアはおしなべて、憲法は国民の権利を守るために存在するのであって、国民の権利を制限するなどもってのほか、と言わんばかりの論調だったのを思い出す。勿論、彼らは市民的自由や市場経済などを主張する本来のリベラルではない。税負担を極力回避しながら福祉の充実を求め、日本の防衛努力には反対しながら周辺諸国の軍事行動に無警戒で、市民的自由と言って何ら義務を伴わないかのような無制限の自由だと履き違えて軍にせよ警察にせよ国家権力の抑止に動くといった、やや支離滅裂の日本的リベラルだ。しかし東日本大震災のような巨大災害やテロのような準戦争状態では、国民の間のソフトな絆も重要だが、伝統的な意味での国家の権利(国家緊急権のような)とそのハードな運用が頼りになる。
 もう一つは、まさに集団的自衛権行使を巡る動きだ。一昨日の日経によると、欧州連合(EU)は、フランスの求めに応じて、EU条約に基づき加盟国による集団的自衛権の行使を初めて決めた、ということだ。EU条約は、「加盟国に対する武力攻撃」があった場合に、他の加盟国が集団的自衛権を行使して「可能な限りの援助と支援を実施しなければならない」と定めている。ここで注意すべきは、このようなEUの枠組みは原理原則的で加盟国が賛同し得る最大公約数を定めるだけ、あるいは努力規定として定めるだけで、詳細あるいは各論になると各国の国内法が定めるところにより運用されるものであるため、往々にして実効性は乏しくなる、という点だ。従い、概ね過激派組織IS掃討に向けて欧州の連帯をアピールすることは出来ても、具体的な協力のあり方は定かではない。EUのモゲリーニ外交安全保障上級代表も「フランスへの支援は二国間協議によってなされる」と説明し、今後、仏政府はEU加盟国と個別に交渉して詰めて行くことになるという(以上は一昨日の日経から)。ここでも、欧州の地域共同体とは言え、国民国家のハードな枠組みが主体として厳然としてある。
 そうは言いながら、国内世論への配慮からシリアへの介入に慎重だったイギリスのキャメロン首相は、17日、議会で「パリ同時テロを受け英国がもっとシリアで行動すべきことが明らかになった」と述べ、これまでイラクに限定していた空爆をシリアに広げることを検討する立場を表明した。同じく17日、オランド大統領はケリー米国務長官とパリで会談した。ケリー氏は、会談後、米・仏が情報交換を緊密にすることで合意したと表明、その上で「ISが感じる我々の圧力は今後数週間にわたり強まって行く」と述べ、米・仏が共同で空爆などを強化する考えを示した。さらに同じ17日、オランド大統領はロシアのプーチン大統領とも電話協議し、ISへの攻撃で連携することを確認した。プーチン大統領は、地中海に展開する露軍と仏軍が共同作戦を実施すると表明した(以上は一昨日の日経から)。
 ことほど左様にポストモダンの時代と言われながら国家が主体であることに変わりないし、国家意思や国益が幅をきかせるのが国際社会場裏というこうとをまざまざと見せつけられた数日間だった。
コメント
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