ブルーシャムロック

此処はtomohiroのオリジナル小説サイトです。
小説主体ですので、小説に興味の無い
人は、退出下さい。

信・加賀美屋の一番長い日_2

2014-06-19 18:02:31 | 信・どんど晴れ
「女将、おいごさんのことを聞かせてください。」
佳奈は無躾ながら、婚約者を連れてくる甥のことを女将に尋ねた。
女将は一旦呼吸して口を開いた。
「甥の母親は私にとっては兄嫁に当たる。しかし、甥を加賀美屋から
遠ざけたかったらしく、厳しく彼に当たっていた。」
女将は、何も知らないかなに教えてやりたいから
口がすぐ開いたのかもしれない。
「そうなのですか。」
びっくりした。もしかしたら、松本佳奈という人間を若女将か仲居頭に
据えるのを急ぐのは、甥を担ぐ人間が出てくるからだ。
「甥ごさんを、担ぎ上げる人といえば、やはり、大女将だ。」
佳奈は、大声を出そうとした。
「声が大きい大女将に聞こえるだろう。そう。大女将は甥を溺愛して
いた。大阪の方に失踪した義兄である長男の孫だからすごく可愛がっていた」
女将の口はゆっくりだが、重かった。
「私が一旦上京したのは、父親や島の掟から抜け出したいと思ったから
ですが、兄嫁さんはおいごさんにわざと厳しく当たって
彼を上京させるように仕向けたようにも感じるのですが・・。」
女将は黙ってうなづいた。
そして、
「なぜだか、横浜のホテルに就職した。詳しいことはわからないが
横浜で婚約者まで見つけてきたらしい。」
という。
かつて横浜と横須賀の中間の神奈川県の街に住んでいた佳奈にとって
横浜のホテルといえばニューグランドか、かまぼこビルのホテルか
しかわからなかった・・。
「しかし、私のような従業員を使ってまで婚約記念パーティー
とはなんだろうなぁ。」
ぼやく佳奈を女将は
「まあ、おいとその婚約者をみるだけ目の保養だ。またなにかあったら
私が阻止するだけだ。」
と励ました。
to be continued
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

信・加賀美屋の一番長い日_1

2014-06-18 17:55:54 | 信・どんど晴れ
その日は、やたら春の日差しが強い日だった。
松本佳奈は、やたら早く目が覚めた。
「何時だよ。まだ5時かよ。」
面倒くさそうに職場に向かう。
加賀美屋という徳之島の老舗旅館だ。
「おはよう御座います。女将」
上司である女将、加賀美環に一礼をする。
「今日は私の甥が横浜から婚約者を連れてくる。
それのパーティーだ。」
従業員は黙って一礼する。
「横浜ですか。なんだか懐かしいというか」
佳奈は、まだ未練が有りそうな顔をした。
「うん。そうなんだ。あなた達仲居はパーティーの料理を運ぶ
準備をする。」
女将自身、その甥が帰って来ることに複雑な感じだった。
「めでたいじゃないですか。祝ってやりましょう。」
佳奈からしてみたら、不安そうな女将を気遣ったのだが、
何やら不安が拭えなかった。
「大女将が、そのおいごさんを担いでというのが怖いのですか。
みんなが許さないようにも私には映ります。」
と佳奈は言ってみた。
「そうだねぇ。」
朝だというのに、強い日差しとは対照的に、
大女将の表情は曇っていた。
to be continued ?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする