ブルーシャムロック

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12月のアヌビス_07

2010-06-16 05:05:58 | 信・どんど晴れ
「理解する・・か。」
礼美はふと考えた。
「理解しないといけないでしょう。私は理解してなおかつ不合理な物と
格闘する。それで・・。」
佳奈は、口角泡を飛ばして礼美の顔を見た。
「ところで、今サッキの札束でお父さんの顏をぶっ飛ばすと
言ったけれども、札束って天から降ってきた札束でぶっ飛ばすの?」
礼美の言葉は冷酷であった。
「どうでしょうね。私はその札束はまっとうなところで稼いで札束に
したいと思っています。そのために關東の学校に進学してきたんです。」
佳奈は胸を張った。
「そう言う札束ならば、胸を張ってお父さんをはり倒せるね。
札束を稼げる場所って、生国の琉球でも出来るんじゃないの?」
礼美はおどけてみた。
「そんな馬鹿な。生国でも大阪でも出来やしません。だから此處にいるんじゃないですか
。」
佳奈はアスファルトを指した。
紛れもない關東の天地である。
「今さっきトイレで席を外した時にね、先生が私にこういったんだよ。
松本さんは關東にいるべきじゃない。琉球の天地で生きるのかもしれない。」
礼美の声のToneは巨きくなっていた。
佳奈は一瞬黙っていた。
「でも、關東でやるだけやれば・・・。」
と、礼美の背中を見ながら答えた。
「私は解る、あなたを必要とした人がそこに現れることを・・・。」
礼美はその後口を真一文字にしていた。
おわり






12月のアヌビス_06

2010-06-16 05:05:07 | 信・どんど晴れ
「札束ではり倒すために關東に来たのか。それだけのために。」
礼美は乾いた笑いを含んだ顔を見せた。
「何が可笑しいのですか?」
佳奈の顏はムキに成っているようである。
「お金を貯めて親を見返す態度は、關東の會社じゃなくても出来ると思うのに。」
礼美は冷静な顏であった。
「でも、親の近くにいたって、親は馬鹿にするだけ。」
佳奈はそう切り返した。
礼美はふふと笑いながら
「今回の先生との話は、あんた真剣に聞いていたじゃないの。どうして。」
佳奈は一瞬考えた。伊勢崎先生と東岡礼美が話していた話題は余りにも
専門的で佳奈には理解不能だった。佳奈はこう答えた
「私が専攻している講義を聴いているような物です。何か社会人になったときに
役に立つと考えて聞いていました。」
礼美は
「本来はあんたを馬鹿にするために舞岡に呼んだんだけれども、あんたの真剣な
視線は、怖かったよ・・・。」
と言った。
「私は・・・。同居している人間だって話が合わないと思うときがあるんです。
とくに食べ物で・・・。淡雪や久留美の魚にこだわる態度は自分には解らないんです。」
佳奈の事を聞いていて、
「加計呂麻島だっけ?確かに海に囲まれているのに、
魚を食べる話しは秋田や石川ほど聞かないわね。」
と礼美はかえす。
「だから、解らない態に理解する・・。私は關東に来てからそう思うようになりました。

佳奈の答えである。
つづく






12月のアヌビス_05

2010-06-16 05:03:49 | 信・どんど晴れ
「そうなんですよ・・・。此處にいる東岡嬢に・・。」
そういいつつ、佳奈は礼美をみた。
「へぇ・・。」
伊勢崎は佳奈の方向を見た。
「何かついているんですか?」
佳奈はなんとも興味がなさそうだった
しかし、興味深そうにみたのは、民家の中だった。
土間があり、少し進んだところに、みんなが生活する部屋。
加計呂麻島の実家よりは少し広いぐらいだろうか。
違うところは、本や書類、ワープロ仕事などをする
端末があるところだ。
分厚く
「白洲次郎」
と書かれた本が有るところだろうか。
「先生も不思議なところが好きですね。」
それをみて、礼美も伊勢崎も笑っていた
「私は難しいことは全く解りません。」
佳奈はそう発した。
「じゃあ、なんのために關東に?」
伊勢崎は切り出した。
「基本的に、講義にはまじめに出ております。まあそれも
親父を札束で殴るために入る会社に入る予備段階です。」
佳奈ははっきり答えた。
つづく






12 月のアヌビス_04

2010-06-15 09:51:33 | 信・どんど晴れ
すっかり歩き終えたとき、茅葺屋根の家が見えた。
「すごい古い家ですね。」
佳奈は率直な感想を述べた。
「まあね。かこ戸塚市内に存在した農家を此處に移築してきたの。」
東岡礼美は、略歴を説明した。
目の前にある茅葺屋根の家は入母屋造の矢根、すすけた黒がかった茶色の
木目も、佳奈には珍しく見えた。
「加計呂麻島には、それが存在しないの?」
礼美は不思議がった。
「いえ、私のシマのそれはみんなトタン屋根の現代的な作りで、
けして、こういう古い物はないんです。博物館に移築した物が存在はしていますが、
關東のこの家のように・・・。」
と、いいつつ柱の方を見た。
「先生はまだ帰ってきていないようね。」
礼美は縁側に座った。
これまた、年季の入った納屋が見える。
すぐ近くに、野菜が植わった畑が見えた。
すると、一人の男が帰ってきた。
「東岡さん、よく来てくれたね。」
彼は彫りの深い顏だが、苦み走ったいい男であった。
「伊勢崎先生、先生が大学にいた頃に執筆していた白洲次郎の著作は完成したのですか?」
礼美は聞いてみた。
「まあね。まあいろり端にアガり給え。ところで彼女は。」
伊勢崎と名乗る男は、佳奈の方を見た。
「彼女は、学部生の高槻久留美の同居人です。多學に在籍しているのですが。」
礼美が軽く紹介した。
「松本佳奈です。よろしくお願いします。」
佳奈は会釈をした。
つづく




12 月のアヌビス_03

2010-06-15 09:50:26 | 信・どんど晴れ
東岡先輩は口笛を吹きながら、道を歩いている。
トルコの軍楽風のメロディーLine である。
最近ヒットしている日本映畫の曲らしい。
「トルコの軍楽風ですか・・。私には皆目見当がつきませんが。」
佳奈は怪訝な顏をした。
彼女はそのまま口笛を吹き続ける。
口笛を吹き終わった東岡は、
「トルコの軍楽風だなんてあんたから聞こえるなんてね。」
毒舌をはく。
「いえ、私のクラスメートや自宅の同居人がそう言うの詳しいから。」
と佳奈は苦笑した。
「あんたのclassmate って民族音楽とか聞くの?」
東岡は、佳奈に聞く。
「まあ、クラシックとかも聞いたりすることがあるから、それで聞いたりするみたいで
札幌の実家がエレクトーン教室を開いているみたいなんで・・。」
佳奈が口を開いた。
「クラスメートも北日本の人か・・・。それにしても琉球のなんとか島の出身なのに
周りは北日本の人に囲まれているのね。」
東岡は、周りの木々を見ていた。
初冬の葉っぱが全くなくなった其れをみながら・・。
「關東に来たならば、そういった刺激を受けるべきでしょうね。」
とシビアな発言を東岡はつづけるのだ。
「それにしても先生は不思議なところに住んでいる・・。改めて思います。」
佳奈は、借入れも終わり、焼かれている田圃をみた。
「伝承によると、私のシマもかつては米を良く作っていて、サトウキビはそれほど
でもなかったらしいのです。企画的最近になってサトウキビを良く植えるようになった
と・・・。」
残念そうな顏をした。
「そう・・・。」
これまで佳奈を馬鹿にしたような表情をした東岡が同情したような感じだった。
つづく


12月のアヌビス_02

2010-06-15 09:49:05 | 信・どんど晴れ
全く關東とは思えない砂利道を、車を止めた駐車場から
ずんずんと一行は歩いていく。
「なんだか知らないけれども、これが關東なんですかね。
まるでTheme_Parkにいるいるような感じで。」
上京してから半年以上が経過して、大学のある周辺の神奈川縣の地理には
まあ、なれたのであるが、テレビなどで映し出される渋谷や神奈川県庁が存在する
場所みたいな場所が關東という考えが未だに捨てきれずにいる・・・。
「まったく、あんたは上京ソングのイナカモノそのものね。」
礼美は、詼っているのか、哀れんでいるのか解らない表情をしながら
後ろからついてくる佳奈をみていた。
「もう少し、無機質なBuildingが立ち並んでいる場所に先生が住んでいる
感じがあったから・・。私の故郷のシマみたいで・・・。」
周囲の場所は、田圃、木や竹が生い茂った、田舎道である。
「私には想像が出来ないけれども、すごいところなのね。」
礼美は苦笑していた。
「先輩の出身地は町中でしたよね。おそらく淡雪の出身地みたいな。」
先輩の表情を察しつつ、佳奈は発言した。
「まあ、そうね。手さんは秋田市内の町中なように、私は長崎市内出身よ。」
礼美はそう、口を開いた。
佳奈の同居人、横手淡雪を横手さんと名字で他人行儀に言ったが、
彼女は淡雪の大学に在籍しているわけではない。
同じく同居している高槻久留美と同じ大学に在籍している人間である。
「ところで、先生は茅葺屋根の家に住んでいるとか・・・。」
佳奈は、礼美に質問した。
「そうね。あんたのシマも茅葺屋根の家なんでしょ。」
礼美の答えである。
「どうだか。さすがに違いますよ。」
佳奈は苦笑していた。
つづく






12月のアヌビス1

2010-06-15 09:46:52 | 信・どんど晴れ
「でも、私みたいな女を連れてこなくてもイイじゃないですか。」
松本佳奈は一人の女性の顔をのぞき込んだ。
「うーん。久留美も淡雪さんも彰たんも悪くはない。でも決定打に欠ける。
で、残ったのはあんた・・・。」
女性はそう答えた。女性の名前は東岡礼美。
現在、松本佳奈が家をShareしている高槻久留美と同じ大学の先輩である。
なぜだか、佳奈たちが住んでいる家が気に入ったせいかよく遊びに来る。
出入りしている彰とも顔なじみの女性である。
年も暮れになった12月のある日、神奈川縣の佳奈が住む地域から少し離れた
東海道線沿いにある戸塚市の砂利道を歩いていた。
すぐ近くに横浜という大都市があるのに、この自然あふれる田舎は關東なのにと
佳奈は、考えた。
「あんたの出身の加計呂麻島ってのは、ジャングルみたいな處なんでしょう。」
礼美は皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「ジャングルといえば、まぁジャングルでしょうね。」
佳奈はそう返した。
「去年お世話になった政治学者の伊勢崎先生が、隠遁して、ここら辺の移築した農家に
住んでいるみたいなの・・・。だから・・・。」
礼美は得意そうな顔をした。
「ったく・・・。」
佳奈はイラだった顏をしていた。
つづく