みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1464「遊ぼう」

2024-07-09 18:02:59 | ブログ短編

 彼は綿密(めんみつ)に計画(けいかく)を練(ね)った。金(かね)が集(あつ)まる日も確認(かくにん)し、逃走経路(とうそうけいろ)も頭(あたま)に入っている。だが、決行(けっこう)の日…。どういうわけか、予期(よき)せぬことばかりが起(お)きた。そして計画は失敗(しっぱい)し、彼は警察(けいさつ)に追(お)われる身(み)となった。逃走用(とうそうよう)に用意(ようい)した車(くるま)も、警察が盗難車(とうなんしゃ)と確認しレッカー移動(いどう)させられるところだった。
 ちょうど目の前にマンションがあった。彼はそこに潜(もぐ)り込(こ)むことにした。以前(いぜん)、宅配(たくはい)の仕事(しごと)をしたことがあるので、外観(がいかん)を見ればだいたい分かる。
「ここは単身(たんしん)用の賃貸(ちんたい)だなぁ。セキュリティーも甘(あま)そうだ」
 彼はマンションに入ると二階(かい)へ向かった。ちょうど部屋(へや)を出てきた若(わか)い女を見つけて捕(つか)まえると、その女の部屋へ引(ひ)きずり込んだ。女は抵抗(ていこう)はしなかった。部屋の中を見回(みまわ)す。独身(どくしん)女の部屋だとすぐに分かった。だが、部屋の奥(おく)から女の子の声がした。
 彼は、「ちょうどいいや。このガキは人質(ひとじち)だ。俺(おれ)の言うとおりにしろ」
 女は肯(うなず)くと、「これから買(か)い物(もの)に行くんです。もう…何もなくて…」
 女の子は微笑(ほほえ)んで、「もういいよ。よかったね、あなたの代(か)わりがきてくれて…」
 女は震(ふる)えていた。彼は女の子が何を言っているのか分からなかった。手を緩(ゆる)めたすきに、女は部屋を飛(と)び出して行った。彼は、女の子から目が離(はな)せなくなった。
 女の子は無邪気(むじゃき)に言った。「おじさん、何して遊(あそ)ぼうか?」
<つぶやき>これは、やばいことになるのかなぁ。女の子は…いや、彼は脱出(だっしゅつ)できるのか?
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0005「夢の中の君」

2024-07-05 17:57:33 | 読切物語

 夜中の二時、慎吾は夢にうなされて目を覚ました。ここ一週間というもの、毎晩おなじ夢をみていた。いま住んでいるアパートにいて…。その部屋は、家具の配置から何もかも現実とまったく変わらなかった。ただ違うのは、小夜という名の女がいて…。夢の世界では、その人と結婚していて、一緒に食事をしたり、たわいのない話をしていたようだった。<ようだった>と言うのは、慎吾自身、断片的にしか夢を思い出せないのだ。でも、とてもリアルな、本当に二人で暮らしている感覚が、目が覚めてからも消えずに残っていた。
 慎吾には結婚を約束している彼女がいた。とても明るくて優しい女性で、もとは同じ職場で働いていたのだが、今は配属が変わって別の課になってしまった。
「ねえ、大丈夫?」目を覚ました慎吾に、ひかるは優しく声をかけた。「今日は病欠だって聞いて、びっくりしちゃった。昨夜も、なんかおかしかったし、心配したんだからね」
「ひかる? どうして…」慎吾はうつろな目でひかるを見つめた。
「ふふ…、合い鍵、使っちゃった。ねえ、何か作ろうか? お腹、すいてるでしょ」
 ひかるはそう言うと、スーパーの袋を持ってキッチンに入って行った。ひかるは何度もここで料理をしているので、どこに何が置いてあるのかすべて分かっていた。でも、今日に限ってその配置が変わっていた。「ねえ、置き場所、変えたの? いつもと違うわ」
 ひかるはあちこち探し回ったりして手間取ったが、手際よく調理をすませると、
「慎吾、出来たわよ。起きて」ひかるはうつらうつらしている慎吾に呼びかけた。
 慎吾はだるそうに身体を起こすと、「ああ…、お帰り。小夜」とつぶやいた。
「なに?」ひかるはちょっと首をかしげたが、「もう、寝ぼけてるでしょう」と聞き流した。
「えっ、僕、何か言ったか?」慎吾はひかるの顔をじっと見つめて、「君は…」
「ねえ、ほんとに大丈夫? 病院、行った方がいいんじゃない?」
「ああ、大丈夫だよ。薬のせいさ。それで、ぼうっとしているだけさ」
 ひかるはますます心配になってきた。ここ一週間、彼の行動が変なのだ。二人で話をしていても、急に眠ってしまったり。二人で行ったことのない場所なのに、一緒に行ったみたいに話をすのだ。もちろん、ひかるには身に覚えはない。だが、話をよく聞いてみると、それは昔の話しではなく、ごく最近の話なのだ。もしかしたら、他に誰かと付き合っているの…。ひかるはそんな考えがうかぶたびに、<そんなことない>と打ち消してきた。
「やっぱり、病院に行こうよ。これ食べたら、私が連れてってあげる」
「でも、僕はここにいないと」慎吾はひかるの作った食事をゆっくりと食べながら、「もうすぐ、帰ってくるんだ。だから、待っててあげないと」
「えっ、誰が来るの?」ひかるは不安になって、「はっきり言ってよ」
 その時、玄関の扉が開いた。慎吾は玄関に目をやり、「お帰り。小夜」と言って微笑んだ。
 ひかるが驚いて振り返ると、そこには見たことのない女が立っていた。
「あなた」女は慎吾をそう呼ぶと、「起きてて大丈夫なの? 寝てないとだめだよ」
 ひかるは意識が遠くなっていくのを感じた。ふっと手を見ると、向こう側が透けて見えた。そして、ひかるの身体も透き通ってきて、ついに夢のように消えてしまった。
<つぶやき>自分は本当にそこにいるのか、それとも…。自分の存在に自信あります?
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1463「学校の不思議」

2024-07-01 18:13:21 | ブログ短編

 学校(がっこう)には異界(いかい)へつながる道(みち)があるという。今でも学校を舞台(ぶたい)にいろんな怪談(かいだん)が語(かた)られるのはそのためだ。そして、あたしが通(かよ)っている学校にも、どうやらそれはあるみたい。
 あたしのクラスにはちょっと変(か)わり者(もの)の男の子がいる。他(ほか)の子と雰囲気(ふんいき)が違(ちが)っていて、どこか近寄(ちかよ)りがたい感じがした。その子には友だちはいないみたいで、いつも窓(まど)から外(そと)を見つめていた。いったい何を見ているのか、あたしはちょっと気になっていた。
 ある日のこと。教室(きょうしつ)に忘(わす)れ物をしてしまい、あたしは学校へ戻(もど)ってきた。もう五時を過(す)ぎていて外はまだ明るいけど校舎(こうしゃ)の中は薄暗(うすぐら)く感じた。足早(あしばや)に教室に向(む)かい、忘れ物を手にしてホッと胸(むね)をなで下ろす。教室を出ると廊下(ろうか)を通(とお)り、そして階段(かいだん)を降(お)りて行く。
 そこで、あたしは足を緩(ゆる)めた。何か変だ。階段の下の方がだんだん暗(くら)くなっていく。そしてついに真(ま)っ暗になってしまった。まるで暗闇(くらやみ)の世界(せかい)へ向かって行くようだ。あたしは思わずバランスを崩(くず)して…。このまま下まで落(お)ちるのかと恐怖(きょうふ)で目を閉(と)じた。
 目を開けると、あたしは階段の前に座(すわ)っていた。隣(となり)にはあの男の子が立っている。
 あたしはさっきのことを訊(き)いてみた。あれはいったい何だったのか? でも、
「何でもないさ。お前が階段を踏(ふ)みはずしただけだろ。誰(だれ)にも言うなよ」
 その子が行こうとするので、「えっ、あなたは帰(かえ)らないの?」
「おれ…、ちょっとやることがあるから。お前は、早く帰れ」
 あたしはますます気になって…。その子のあとを追(お)いかけた。
<つぶやき>もしかしたら、この男の子は人間(にんげん)じゃないのかもね。彼女はどうなるのか?
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