彼は、彼女にプロポーズすることにした。それを決(き)めるまでにはずいぶん時間がかかったが、決めたからにはもう後(あと)には引(ひ)けない。プロポーズするのにフラッシュモブとかサプライズをいろいろ考えたが、ここはやはり奇(き)をてらわない方がいいと彼は思った。そこで、ちょっと高級(こうきゅう)なレストランを予約(よやく)した。
当日(とうじつ)――。食事(しょくじ)も終(お)わり、いよいよその時が来てしまった。彼は思い切って――。
「あの、ぼ、僕(ぼく)と…。ずっと…一緒(いっしょ)にいてくれませんか? 君(きみ)だけを見ていたいです」
彼女はきょとんとして首(くび)をかしげて、「あっ……、それって…。まさか…」
彼はポケットから指輪(ゆびわ)を出して、「僕と……結婚(けっこん)してください」
彼女は小さくため息(いき)をつくと、「ちょっと待(ま)って。あたしたち、付き合ってるの?」
これには彼も、どう答(こた)えればいいのか……。彼女は落ち着いた口調(くちょう)で言った。
「あたしたち、仲(なか)の良(い)い友だちだと思ってたんだけど…。あたしね――」
「いや、それはないだろ? だって、僕のこと好きだって…」
「あたし、そんなこと言ってないわ。あたし…、言ってないよね」
「そ、それは…。好きだとは言われてないけど…。でも、デートだって何度もしたし…」
「これはデートじゃないわ。友だちから誘(さそ)われたら、誰(だれ)だって行くでしょ?」
「そ、そんな…。ひどい、ひどすぎるよ。今までのは、何だったんだよ。ぼ、僕は…」
<つぶやき>彼の思い込みだったのかな…。ちゃんと気持(きも)ちを確(たし)かめてからにしましょ。
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