隣国(りんごく)と戦争状態(せんそうじょうたい)になっているとき、敵(てき)の暗号解読器(あんごうかいどくき)を手に入れることができた。これで、敵の動きが丸(まる)見えになるはずだ。将軍(しょうぐん)は敵の通信(つうしん)を解読(かいどく)するように命(めい)じた。
早速(さっそく)、敵の通信の傍受(ぼうじゅ)にあたっている部隊(ぶたい)で、暗号の解読が始まった。だが、解読器がはじき出した文章(ぶんしょう)は、とんでもないものだった。部隊長(ぶたいちょう)はそれを見て、
「これは、どういうことだ? 戦時下(せんじか)だぞ。こんなことを暗号で送るなんて…」
通信内容(ないよう)は、誰(だれ)が見ても痴話喧嘩(ちわげんか)としか思えない。相手(あいて)をなじる言葉(ことば)や、浮気(うわき)の事実(じじつ)を告発(こくはつ)するものばかりだ。それが、延々(えんえん)とやり取りされていた。
部隊長は頭をかかえた。こんなこと将軍に報告(ほうこく)できるわけがない。これはきっと何かあるはずだ。この痴話喧嘩の中に、別の意味(いみ)が隠(かく)されているのかもしれない。部隊長はさらなる解読を命じた。隊員(たいいん)たちは、言葉の一つ一つを分析(ぶんせき)したが何も見つけられなかった。
隊員の一人が言った。「これは、敵のフェイクなんじゃないですか?」
別の隊員が、「きっとそうです。敵の暗号解読器がそう簡単(かんたん)に手に入るはずないですよ」
部隊長はますます頭をかかえて言った。
「もし、そうだとしても…。あの将軍だぞ。そんなこと報告して…。ここは、もう少しがんばってみよう。こじつけでもいい、なんとか文章を作るんだ。さもないと、俺(おれ)たちは格下(かくさ)げか…、命(いのち)を落(お)とすことになるかもしれない」
<つぶやき>忖度(そんたく)しちゃだめですよ。そんなことしちゃうと、戦争に負(ま)けてしまいますよ。
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