みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1066「怪聞」

2021-05-15 17:55:38 | ブログ短編

 その噂(うわさ)を耳(みみ)にしたのは昨日(きのう)のことだった。野良犬(のらいぬ)が人間(にんげん)の腕(うで)を咥(くわ)えて歩いていたというのだ。まさか、そんなことが…。みんなはデタラメだと思っていた。それに、どうやら警察(けいさつ)も捜査(そうさ)をしていないようだ。
 でも、私はそういう話がすこぶる好(す)きだ。私は、その話を検証(けんしょう)するために現場(げんば)へ向(む)かった。まぁ、噂なので、現場と言っても大雑把(おおざっぱ)なものだったが――。
 その場所(ばしょ)は、町外(まちはず)れの山が迫(せま)っているようなところだった。近くに住(す)んでいる人以外(いがい)、こんな道(みち)を通る人はいないだろう。犬はどこから来たのか? 山からか、それとも…。私は周(まわ)りを観察(かんさつ)してみた。すると近くに川が流れている。
「川という線(せん)もあるなぁ。ここからなら、川原(かわら)に下りられそうだ」
 川辺(かわべ)を眺(なが)めていると、茂(しげ)みの中から犬が姿(すがた)を現(あらわ)した。すこぶる大きな犬だ。これが、例(れい)の野良犬なのかもしれない。犬は立ち止まって、じっとこちらを見つめている。私は…、足がすくんだ。実(じつ)は、私は犬がだいの苦手(にがて)なのだ。子供(こども)の頃(ころ)、ひどい目にあったことがある。それ以来(いらい)、なるべく近寄(ちかよ)らないようにしていた。こんなことなら、誰(だれ)かを連(つ)れて来ればよかったと後悔(こうかい)した。
 犬は、私のことなど気にもしていないようだ。すたすたと私から離(はな)れて行く。
「今日は、帰るとしよう。また、出直(でなお)した方がよさそうだ」
 私は犬が向かったのとは逆(ぎゃく)の方へ歩き出した。でも、こっちで帰れるんだろうか…?
<つぶやき>犬の話が出た時点(じてん)で気づくべきでした。好きなことだと忘(わす)れてしまうのね。
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