みけの物語カフェ ブログ版

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1054「妄想島」

2021-04-21 17:50:56 | ブログ短編

 彼は、突然(とつぜん)の嵐(あらし)に襲(おそ)われた。朝になると、船(ふね)はどこかの島(しま)に流(なが)れ着いていた。船はどうにか無事(ぶじ)のようだが、砂浜(すなはま)に乗(の)り上げてしまっているので一人ではどうにもならない。
 彼は、水と食料(しょくりょう)になるものを探(さが)しに出かけた。砂浜の先(さき)には、椰子(やし)の木がうっそうと繁(しげ)っているのが見えた。そこまで行ってみると、小さなテーブルに食事(しょくじ)の用意(ようい)ができていた。彼は、辺(あた)りを見回(みまわ)した。人の気配(けはい)はどこにもない。彼は首(くび)をかしげた。しばらく待(ま)ってみたが、誰(だれ)も来なかった。彼は、空腹(くうふく)に耐(た)えかねて食事を口にした。その味(あじ)といったら、彼が欲(ほっ)していたものだった。彼は故郷(ふるさと)にのこしてきた恋人(こいびと)のことを思(おも)っていた。
 するとどうだろう、恋人の声(こえ)が聞こえてきた。彼が振(ふ)り返ると、そこには恋人の姿(すがた)が――。そ、そんなバカな…。彼女がここにいるはずはない。彼は彼女から目をそらした。次の瞬間(しゅんかん)、彼女の姿は忽然(こつぜん)と消(き)えてしまった。――彼は後悔(こうかい)した。本物(ほんもの)でなくても、誰でもいい。誰か…俺(おれ)を見つけてくれ…。彼は、みだらな妄想(もうそう)をしてしまったようだ。
 椰子の茂(しげ)みから女の笑(わら)い声が聞こえてきた。それも、一人ではない。あっちからも、こっちからも、大勢(おおぜい)の女の笑い声とささやきが近づいてきた。そして、ひとり、またひとりと、彼の前に姿を見せた。どれもこれも、彼好(ごの)みの女性ばかりだ。彼は、女性たちに囲(かこ)まれて、夢(ゆめ)のような日々(ひび)をおくることになった。もう島を出ようとは考えなくなっていた。
<つぶやき>誰ですか? 羨(うらや)ましいって思ったのは。これは妄想ですから。気をつけてね。
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