みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0409「秘めた思い」

2018-12-14 18:31:58 | ブログ短編

 会社でエレベーターを待っていた時、どこからともなく彼女がやって来た。そして、「これ」と言って紙切(かみき)れを渡(わた)された。そこには、時間と近くの喫茶店(きっさてん)の名前が書かれている。僕(ぼく)が彼女に目をうつすと、彼女は「よろしく」と素っ気(そっけ)ない素振(そぶ)りで行ってしまった。
 自分のデスクに戻(もど)って、近くの同僚(どうりょう)にそのことを話すと、
「おい、それって経理(けいり)の吉沢(よしざわ)じゃないのか? お前、何やらかしたんだ」
「別に僕は…」思い当たることなんて何もない。
「これは、絶対(ぜったい)何かあるぞ。あんな計算高(けいさんだか)い女が、お前なんかに声かけるわけないだろ」
「そうだぞ。やめとけ、何されるか分かんないぞ。生きて帰れないかもな」
 同僚達の冷(ひ)やかし半分の忠告(ちゅうこく)もあったが、僕はとりあえず行ってみることにした。店に入ると彼女の姿(すがた)はなかった。時間は十五分前。僕は席(せき)に着くとコーヒーを注文(ちゅうもん)した。
 それから間もなくして、彼女がやって来た。僕を見つけた彼女は、凄(すご)い勢(いきお)いで駆(か)けて来て、僕の前の席に座(すわ)った。彼女は眉間(みけん)にシワを寄(よ)せて、何だか怒(おこ)っているような…。
 それから数分間。彼女はひと言もしゃべらなかった。僕は話し上手(じょうず)ではないので、何を言えばいいのか戸惑(とまど)った。彼女は、ずっとコーヒーカップを見つめているだけ。
 たまりかねて、僕は渡された紙切れを彼女の前に出して言った。「あの、これって…」
 彼女は、素早(すばや)くそれを握(にぎ)りしめると震(ふる)える声で呟(つぶや)いた。「好きです。あなたが、好き…」
<つぶやき>仕事(しごと)のできる女でも、少女のような恋心(こいごころ)を持っている。分かりづらいけど…。
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コメント
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