男を挟(はさ)んで女たちが言い合いをしていた。男を取り合っているのかと思ったら――。
「私、こんなだらしない男だとは思わなかったわ。あなたに返(かえ)してあげる」
「はぁ、なに言ってるの? あんたが、あたしから奪(うば)ったくせに、今さら…」
「だから、返すって言ってるでしょ。あんたも、よくこんな男と付き合ってわね」
「そんなの、いらないわよ。こっちは、あんたが引き取ってくれて感謝(かんしゃ)してるのよ」
女の間(あいだ)で小さくなっていた男が遠慮(えんりょ)がちに言った。
「あの…、僕(ぼく)も発言(はつげん)してよろしいでしょうか? …実(じつ)はですね。僕、他に好(す)きな人ができました! あの、会社(かいしゃ)の近くにある喫茶店(きっさてん)で働(はたら)いている美代(みよ)ちゃんなんですけど。とっても優(やさ)しくて、可愛(かわい)い娘(こ)なんです。もう、一目惚(ひとめぼ)れって感じで――」
女たちは男を睨(にら)みつけて叫(さけ)んだ。「ふざけんじゃねえぞ!!」
男を黙(だま)らせるには充分(じゅうぶん)な迫力(はくりょく)だった。男が縮(ちぢ)こまるのを見て、女たちはどちらからともなくクスクスと笑(わら)い出した。そして、
「ああ、可笑(おか)しい。あんたも浮気(うわき)されてたんだね。これって自業自得(じごうじとく)よねぇ」
「うるさいわね。これは浮気じゃないわ。私、もうこの男とは別(わか)れたんだから…」
「強(つよ)がり言っちゃって。これで分かったでしょ。浮気されたらどんな気持ちになるか」
「私、何でこんな男のこと好きになったのか分かんないわ。――そうだ。美代ちゃんにも教えてあげなきゃ。私たちみたいになったら可哀想(かわいそう)じゃない」
<つぶやき>女の団結(だんけつ)ってヤツでしょうか。それにしても、こんなひどい男がいるとは…。
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