１２８８「時間旅行」

　彼女は付き合っていた男とやっと別れることができた。その男は、どうしようもないダメンズで、彼女の優(やさ)しさにつけこんで好き勝手(かって)を繰(く)り返した。付き合う前にそれが分かっていたら――。彼女は後悔(こうかい)を友だちに打ち明けた。
「あんな男、何で好きになったのかなぁ。あたしってバカよね。大切(たいせつ)な時間(じかん)をムダにしちゃったわ。もし、過去(かこ)に戻(もど)ることができるんなら…。付き合う前のあたしに言ってやるの。あんな男とは付き合うなって。絶対(ぜったい)に説得(せっとく)する」
　友だちは、彼女の話を聞いて言った。「あなた、過去へ戻りたいの？」
「もしもの話しよ。そんなこと、できるわけないって分かってるけど…」
「あら、できるわよ。でもね、過去を変えるのは難(むずか)しいと思うわよ」
「いや、過去は変えちゃダメでしょ。そんなことしたら、歴史(れきし)が狂(くる)ってしまうわ」
「あなた、人を見る目はないのに、そういうことは理解(りかい)できるのね」
「もう、何でそんなこと言うのよ。あたし、そんなにバカじゃないから」
「じゃあ、過去へ戻ってあなたの犯(おか)した過(あやま)ちを検証(けんしょう)してみない？　きっと為(ため)になるわよ」
「はぁ？　なに言ってるの。もう、この話はおしまい。からかうのはやめてよね」
「私は別にからかってなんかいないわよ。あなたが過去へ戻りたいって言うから…」
「あのね、過去へなんか戻れないでしょ。タイムマシンなんてないんだから」
「そんなのなくても大丈夫(だいじょうぶ)よ。だって私、未来(みらい)からここに来てるんだから――」
＜つぶやき＞もし、友だちが未来人だったら…。私だったら訊(き)きたいことがいっぱいです。
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