みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1283「危険信号」

2022-07-29 17:39:37 | ブログ短編

 彼が気がつくと、カヌーで川下(かわくだ)りをしていた。なぜ自分(じぶん)がこんなことをしているのか…。彼にはまったく分からない。川の流(なが)れは緩(ゆる)やかなので、彼は呆然(ぼうぜん)と流れに身(み)を任(まか)せた。
 川下(かわしも)の方から音が聞こえてきた。これは何の音なのか…。彼は前方(ぜんぽう)に目をこらした。音はどんどん大きくなっていく。これは…水の音だ。彼は思わず叫(さけ)んだ。「滝(たき)だ!」
 滝が目の前に迫(せま)っていた。彼はオールを漕(こ)いで川上(かわかみ)へカヌーを向けた。いつの間にか、川の流れが速(はや)くなっている。彼は、必死(ひっし)になってオールを動かした。彼は考えた。どうしたら助(たす)かることができるのか――。カヌーは前へ進むことなく、少しずつ流されている。
 このままでは滝に落ちてしまう。河岸(かわぎし)を見ると、なぜか遠(とお)くになっている。いつの間にか、川幅(かわはば)が広がっていたのだ。こんなことって、あるのか? 彼は必死に考えた。
「こうなったら、思い切って滝壺(たきつぼ)へ…。今まで緩やかな流れだった。とすると、標高(ひょうこう)は高くないってことだ。だとしたら、滝の高さは、せいぜい二、三メートル……」
 滝が、すぐそこまできている。だが、彼はなかなか決心(けっしん)がつかなかった。滝までの距離(きょり)がどんどん縮(ちぢ)まっていく。もう、オールを漕ぐ力もなくなってきた。もう選択(せんたく)の余地(よち)はない。彼は決心して、カヌーを滝へ向けた。そして、カヌーは川を飛び出して空中(くうちゅう)へ――。
 そこで彼は自分の過(あやま)ちを知った。滝壺までは四、五十メートルはあるだろう。カヌーとともに彼は滝壺へ落下(らっか)していく。彼は、死を覚悟(かくご)した。
<つぶやき>これは、彼が見た夢(ゆめ)なのか。だとしたら、これから起きることの暗示(あんじ)かもね。
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