ビルに囲(かこ)まれた小(ちい)さな池(いけ)。そこへ行(い)くには、ビルの間(あいだ)の細(ほそ)い隙間(すきま)を通(とお)り抜(ぬ)けなければならない。男(おとこ)と女(おんな)が大(おお)きな鞄(かばん)を抱(かか)えて、やっとのことで池(いけ)の畔(ほとり)にたどり着(つ)いた。
女「すごーい、こんなところに池(いけ)があるなんて…。信(しん)じられないわ」
男「僕(ぼく)の言(い)ったとおりだろ。この古地図(こちず)に間違(まちが)いはなかった」
女「こんな都会(とかい)の真(ま)ん中(なか)なのに、よく残(のこ)ってたわね。これは、奇跡(きせき)よ」
男(おとこ)、鞄(かばん)から小型(こがた)の金属探知機(きんぞくたんちき)を取(と)り出(だ)し準備(じゅんび)を始(はじ)める。女(おんな)はそれを見(み)て、
女「ねえ、何(なに)してるの?」
男「お宝(たから)を探(さが)すのさ。この池(いけ)に沈(しず)められているはずなんだ」
女「えっ、何(なん)のこと? 私(わたし)たち、ガマガエルの調査(ちょうさ)に来(き)たんでしょ。幻(まぼろし)の大(おお)ガマを…」
男「そうでも言(い)わなきゃ、君(きみ)は手伝(てつだ)ってくれないだろ。だから…」
女「ウソだったの? もう、信(しん)じられない! 私(わたし)はてっきり…」
男「もちろん、君(きみ)の研究(けんきゅう)のためだよ。大学(だいがく)の研究室(けんきゅうしつ)の予算(よさん)は削(けず)られるばっかりだし、事業仕訳(じぎょうしわけ)とかでこの先(さき)どうなるか。君(きみ)が研究(けんきゅう)を続(つづ)けるためにも、これはやり遂(と)げないと」
女「でも…」
男「心配(しんぱい)すんなよ。今度(こんど)は大丈夫(だいじょうぶ)だから。確(たし)かな情報(じょうほう)なんだ。ここは昔(むかし)、大名庭園(だいみょうていえん)だったんだ。幕末(ばくまつ)の頃(ころ)に、軍資金(ぐんしきん)としてお殿様(とのさま)がここにお宝(たから)を沈(しず)めたんだってさ」
女「もう…、いい加減(かげん)にしてよ。そんなこと信(しん)じるなんて…」
男「いいから、手伝(てつだ)ってくれよ。もし見(み)つかったら、僕(ぼく)たちの結婚資金(けっこんしきん)にしても…」
男(おとこ)、探知機(たんちき)のスイッチを入(い)れると、途端(とたん)に反応(はんのう)がでる。
男「マジかよ。いきなりビンゴだぜ。ほら、見(み)てみろよ」
女(おんな)も色(いろ)めき立(た)つ。しかし、反応(はんのう)はすぐに消(き)えてしまう。
女「ほら、みなさい。どうせ、壊(こわ)れかけの中古(ちゅうこ)の探知機(たんちき)を買(か)わされたんでしょ」
男「おかしいな。ちゃんと調整(ちょうせい)したんだけどな」
男(おとこ)、探知機(たんちき)をいじりながら動(うご)かしてみる。草(くさ)むらにかざしたとき、また反応(はんのう)が。
男「ほら、こっちだったんだ。今度(こんど)こそ…」
探知機(たんちき)の反応(はんのう)が弱(よわ)くなる。男(おとこ)、探知機(たんちき)を動(うご)かしながら、
男「あれ、おかしいな。どうなってんだ」
女「何(なに)やってるの。やっぱり壊(こわ)れてるんじゃない」
男「いや、それが…。移動(いどう)してるんだよ。お宝(たから)が動(うご)いてる」
草(くさ)むらから何(なに)かが飛(と)び出(だ)して、池(いけ)に飛(と)び込(こ)む。広(ひろ)がる波紋(はもん)。女(おんな)、それを見(み)て驚(おどろ)き、
女「えっ、そんな…。あれは、黄金(おうごん)のカエル。こんなところにいたなんて…」
男「何(なん)だよ、それ」
女「研究者(けんきゅうしゃ)の間(あいだ)で伝説(でんせつ)になってる、幻(まぼろし)のカエルよ! 昔(むかし)の文献(ぶんけん)には出(で)てくるんだけど、まだ誰(だれ)も発見(はっけん)した人(ひと)はいなくて…。もう絶滅(ぜつめつ)したと思(おも)われているの」
男「それは、高(たか)いのか?」
女「値段(ねだん)なんか付(つ)けられないわよ。とっても、貴重(きちょう)な…。捕(つか)まえるわよ!」
女(おんな)の目(め)がらんらんと輝(かがや)いた。男(おとこ)、その異様(いよう)な雰囲気(ふんいき)に思(おも)わず尻込(しりご)みした。
<つぶやき>女(おんな)の執念(しゅうねん)というか、ちょっと怖(こわ)いところがあるかも。でも、引(ひ)かないでね。
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