薄暗(うすぐら)い部屋(へや)に男がひとり…。パソコンに向かっていた。何かのゲームでもしているのか、キーボードの音(おと)をカチャカチャとさせている。そして、何やらぶつぶつと言っているようだ。耳(みみ)を澄(す)まさなければ聞き取れないほどの声である。
「…くそ…くそ…バカにしやがって…。いまに見てろ。俺(おれ)だって…。絶対(ぜったい)にやってやるんだ。あいつをけちょんけちょんにして、俺の前にひざまずかせてやる」
男は不気味(ぶきみ)な笑(え)みを浮(う)かべた。そして、また何かを打ち込みながら心の声が漏(も)れだした。
「俺の計画(けいかく)は完璧(かんぺき)なんだ。思い知るがいい。俺の復讐(ふくしゅう)は生易(なまやさ)しいもんじゃないぞ。おまえを縛(しば)り上げて、一枚一枚、服(ふく)を切り裂(さ)いて…。おまえが泣(な)いて懇願(こんがん)しても、俺は絶対に許(ゆる)さない。おまえがこれまで俺にしてきたことを思えば、これくらいなんでもないさ」
男は笑(わら)い声を押(お)し殺(ころ)しているようだ。そして、大きく息(いき)をして気持(きも)ちを落(お)ち着かせると、満足(まんぞく)したように小さく頷(うなず)いた。そのとき、襖(ふすま)の向こうから女の声がした。
「あなた、何してるの? ちょっと来てよ。お願(ねが)いがあるの…」
男は一瞬(いっしゅん)、ビクッとしたが、すぐにとても優(やさ)しい声で返事(へんじ)を返(かえ)した。
「はい。ちょっと待(ま)ってて…。すぐに行くから。すぐだよ。もうすぐだから…」
男はロープを手にすると、あの不気味な笑みを浮かべた。そして、ロープを後ろに隠(かく)して襖を開けた。楽(たの)しげな女の声が聞こえてきた。
<つぶやき>これはやばいやつだよ。いったい何があったの? 闇(やみ)に落(お)ちちゃったのかな。
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