みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0070「失家族」

2017-09-10 19:33:56 | ブログ短編

 西暦(せいれき)三千八年。千年近く前の火山噴火(かざんふんか)で埋(う)もれてしまった町が発見(はっけん)された。何年もかけて発掘調査(はっくつちょうさ)が行われ、数々(かずかず)の遺物(いぶつ)が掘(ほ)り出された。そして、今も発掘作業(さぎょう)は続いている。
「教授(きょうじゅ)、これを見て下さい」研究員(けんきゅういん)が小さな箱(はこ)を持って駆(か)け込んできた。
「これは」教授は驚(おどろ)きの声をあげた。「よく無傷(むきず)で残(のこ)っていたな。これは奇跡(きせき)だ」
 発掘された箱は頑丈(がんじょう)な金庫(きんこ)に納(おさ)められていたので、当時(とうじ)の姿(すがた)をそのままとどめていた。
「驚かないで下さい。この中にとんでもないものが入っていたんです」
 研究員がそっと箱を開けると、中から数枚の写真(しゃしん)が出てきた。
「おお、千年前の人の姿が写(うつ)っているなんて…。これは、すばらしい発見だよ!」
「でも、教授。この人たちはどういう関係(かんけい)なんでしょう。男と女、それに子供(こども)が三人」
「うーん。これはおそらく、昔(むかし)の文献(ぶんけん)に書かれていた、家族(かぞく)という単位(たんい)じゃないのかな」
「家族? それは、どういう基準(きじゅん)で構成(こうせい)されているんでしょうか?」
「この頃(ころ)は、男と女は夫婦(ふうふ)という不安定(ふあんてい)な結(むす)びつきで暮(く)らしていたんだ。我々(われわれ)の時代(じだい)では無くなってしまった習慣(しゅうかん)だよ。おそらく、この男女から生まれたのがこの子供たちだろう」
「なるほど、今では考えられない暮らしをしていたんですね。だって、我々には親(おや)と呼(よ)ぶような人はいないし、まして子供を普通(ふつう)の人が育(そだ)てるなんて。あり得(え)ませんよ」
「でもね、私はいつも自問(じもん)するんだ。機械(きかい)で人口(じんこう)がコントロールされている我々よりも、この時代の人間の方が、エキサイティングな暮らしをしていたんじゃないかとね」
<つぶやき>核家族(かくかぞく)なんて言うけど、いつまでも家族というのは無くしたくないですね。
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コメント
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