ベッドの上で若い女性が死を迎(むか)えようとしていた。彼女の手を優しく握(にぎ)りしめている若い男。男は彼女のそばから離れようとせず、励(はげ)まし続けていた。
「あなた…」女は苦しい息(いき)をついて、「私は…、あなたに出会えて、幸せでした」
「僕もだよ。きっと元気になるから…」
男は胸(むね)が詰(つ)まり、それ以上なにも言えなくなった。
「ありがとう」女は最後(さいご)にそう言い残(のこ)すと、目を閉(と)じ動かなくなった。男は彼女にすがりつき、泣(な)き明(あ)かした。
朝になると、どこからか声が聞こえてきた。「リセットしますか?」
男はそれに答えて、「そうだな、今度はもう少し寿命(じゅみょう)を延(の)ばしてくれないか?」
「その要望(ようぼう)にはお答えできません。病気などの発病(はつびょう)は、無作為(むさくい)に決められています」
「分かったよ。なら、容姿(ようし)と年齢(ねんれい)は今のままでリセットしてくれ」
女の腕(うで)につながれていたケーブルが自動的にはずされて、彼女は目を覚ました。
「あなた、おはよう。今日は、早いのね」女は起き上がり、「朝食は何がいい?」
「そうだな。今日は、和食(わしょく)がいいなぁ」男はそう言うと、女にキスをした。
食事ができる間に男は新聞(しんぶん)を読み、いつもと変わらぬ一日が始まった。部屋の丸窓(まるまど)から外を見ると、真っ暗な世界が広がり、眼下(がんか)には茶色く濁(にご)った地球が浮(う)かんでいた。
「僕も手伝うよ」男は席(せき)を立って腕まくりをした。その腕にはプラグが付いていた。
<つぶやき>人の人生は一度きりしかありません。悔(く)いのないように過ごしたいものです。
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