帰りの電車(でんしゃ)の中で、ふと隣(となり)の席(せき)の人が見ていた週刊誌(しゅうかんし)に目が止(と)まった。そこには、自分(じぶん)によく似(に)た男の写真(しゃしん)が…? 僕(ぼく)は目を疑(うたが)った。そこに載(の)っているのは紛(まぎ)れもない自分の顔だ! しかも、<若(わか)い女性と不倫関係(ふりんかんけい)!>とでかでかとタイトルがついている。
僕は思わず声をあげそうになるのをグッとこらえた。どうしてこんな記事(きじ)が…。僕はただのサラリーマンだ。有名人(ゆうめいじん)でも何でもない。そんな人間(にんげん)の記事を出して何になるんだ。しかも、ツーショット写真まで…。こんなの合成(ごうせい)だ。だって、僕は不倫なんかしてないし、こんな女性なんて見たこともない。
家に着くと、幸(さいわ)いなことに妻(つま)はこのことを知らないようだ。いつも通(どお)りに接(せっ)してくれた。僕はホッとするのと同時(どうじ)に、明日、出社(しゅっしゃ)したときどんなことが起(お)きるのか…。想像(そうぞう)しただけで身体(からだ)が震(ふる)えた。
次の日、僕はびくびくしながら出社した。だが、どういうわけかいつも通りだ。誰(だれ)もあの記事は読(よ)んでないのか? 僕はホッと胸(むね)をなで下ろした。きっとあれは見間違(みまちが)いだったんだ。絶対(ぜったい)そうだ。そうじゃなきゃ…。
僕は自分の席につくと仕事(しごと)を始めた。しばらくして、僕の前に女性が現(あらわ)れた。この顔…、どこかで見たような…。僕はハッとした。それは、僕の浮気相手(うわきあいて)の…。いや、浮気相手にされていた女だ。彼女は僕のことを睨(にら)みつけて叫(わめ)いた。
「どうしてくれるのよ。あなた、責任(せきにん)とって! あたしと結婚(けっこん)しなさい」
<つぶやき>これは誰かの陰謀(いんぼう)なの? どうしてこんなことになってしまったのでしょう。
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彼には思いを寄(よ)せている女性(じょせい)がいた。だが、その彼女は彼のことを何とも思っていないようだ。友(とも)だち…いや、知(し)り合いのひとり、としか認識(にんしき)していなかった。それが、どういうわけか、最近(さいきん)になって彼に話しかけてくることが多(おお)くなった。
これはどういうことなのか? 彼はずっと彼女と話がしたいと思い続(つづ)けていたので、その願(ねが)いがかなっているのか…。彼は妄想(もうそう)を膨(ふく)らませた。もしかしたら、自分(じぶん)には人を操(あやつ)る能力(のうりょく)が芽生(めば)えたのかもしれない。もしそうなら、彼女ともっと親密(しんみつ)に――。
こうなると、自分の能力を確(たし)かめてみたい、という欲求(よっきゅう)が抑(おさ)えられなくなってきた。でも、いきなり彼女を相手(あいて)に実験(じっけん)するのは…。そこで、彼の身近(みぢか)にいて一番(いちばん)恋愛対象(れんあいたいしょう)にならない女性を選(えら)んだ。それは幼(おさな)なじみで本性(ほんしょう)を知り尽(つ)くしたヤツだ。
彼は、その幼なじみを呼(よ)び出して、頭の中であることを念(ねん)じ続けた。
幼なじみの女性は彼を前にして言った。「どうしたのよ。こんなとこに呼び出して…」
彼はさりげない感(かん)じで、「たまには一緒(いっしょ)に飲(の)みたいなって…。で、仕事(しごと)はどうなんだ?」
「仕事?」女性は彼を見つめた。彼と目が合うと動揺(どうよう)したようにグラスを飲み干(ほ)して、
「まぁ、実家(じっか)の店(みせ)を手伝(てつだ)ってるだけだけど…。それが…」
また彼と目が合った。頬(ほお)にほんのりと赤味(あかみ)がさした。女性は酔(よ)ってしまったのか、彼にしなだれかかる。彼はしてやったりとほくそ笑(え)んだ。
<つぶやき>こんな能力ありませんよ。女の子をもてあそぶようなことはダメですからね。
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それは突然(とつぜん)だった。誰(だれ)だか分からない人の感情(かんじょう)が自分(じぶん)の中に飛(と)び込んできた。これには驚(おどろ)いた。急(きゅう)に涙(なみだ)がこぼれそうになって…。僕(ぼく)は慌(あわ)ててトイレに駆(か)け込んだ。
こんなこと初(はじ)めてだ。自分ではどうすることもできない。どうやら、これは女性(じょせい)のようだ。恋人(こいびと)に別(わか)れを突(つ)きつけられたのか…。強(つよ)い悲(かな)しみの感情(かんじょう)が僕の中に充満(じゅうまん)している。しばらくすると、ウソのように悲しみが消(き)えていった。
この日から、同じようなことがたびたび起(お)こった。ある時なんか、殺意(さつい)がわいてきて…。部屋(へや)で一緒(いっしょ)にいた彼女に手をかけるところだった。何とか踏(ふ)みとどまったものの、彼女には本当(ほんとう)のことは言えなかった。僕は必死(ひっし)に誤魔化(ごまか)した。もし、こんなこと知られたら、別れると言い出すに決(き)まっている。
何でこんなことになったのか? 僕はその原因(げんいん)を考(かんが)えた。何かきっかけがあったはずだ。そして思いついた。最初(さいしょ)の異変(いへん)があった二日前のことだ。会社(かいしゃ)の飲(の)み会の帰りに、僕は変(へん)な人に出くわした。そして、そこで…何かがあったんだ。でも、それが何だったのか…。
ダメだ。思い出せない。あの時はけっこう酔(よ)っ払(ぱら)ってて…、記憶(きおく)がはっきりしない。でも、僕はその人のことを知(し)っていた気がする。以前(いぜん)、どこかで会(あ)ったような…。
これ以上(いじょう)考えてもムダのようだ。そうだ。病院(びょういん)に行けば…。でも、なに科(か)に行けばいいんだ? 症状(しょうじょう)を話したところで、きっと誰も信(しん)じてはくれないだろう。こうなったら自分で何とかするしかない。対処法(たいしょほう)をひねり出すんだ。
<つぶやき>いったい何があったのか…。思い出せるといいですね。がんばってください。
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親友(しんゆう)から不倫(ふりん)してるとカミングアウトされた彼女…。困惑(こんわく)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて言った。
「何で…、あたしにそんなこと打(う)ち明けるのよ。あたし…あなたの旦那(だんな)のこと知ってるのよ。同じ職場(しょくば)なんだから、次(つぎ)からどんな顔して会(あ)えばいいのよ。あたし、ウソなんかつけないからね」
親友は微妙(びみょう)な笑(え)みを浮かべて、「だって…、なんか物足(ものた)りないのよね。うちの夫(ひと)…」
「そんなこと知らないわよ。もう、なんであたしを巻(ま)き込むのよ」
「ごめん。でもね、あんたには分かってもらいたくて…」
「そんなこと分かりたくないわよ。もう、そうやって…。どうして問題(もんだい)ばかりおこすのよ。学生(がくせい)のときからそうじゃない。そんで、あたしまで一緒(いっしょ)に謝(あやま)るはめになって…」
「ほんと感謝(かんしゃ)してるのよ。あんたのおかげでどれだけ助(たす)けられたか」
彼女は冷静(れいせい)になろうと一呼吸(ひとこきゅう)おくと、「で、どうするのよ?」
「そこなんだよねぇ」親友はしばらく考(かんが)えて、「その人ね、とっても良い人なの。奥(おく)さんがいるんだけど、あたしにも優(やさ)しく接(せっ)してくれて…」
「ちょっと待(ま)ちなさいよ。じゃあ、ダブル不倫ってこと? もう、信じられない」
「仕方(しかた)ないじゃない。好(す)きになっちゃったんだから…」
「その不倫相手(あいて)、最低(さいてい)の男よね。まぁ、あたしには関係(かんけい)ないけど…」
「いや、関係ないってこともないのよ。だって、その人…あなたの…ふふふ…」
<つぶやき>これは、どこまでの関係になっているのか? 彼女はどう対処(たいしょ)するのかなぁ。
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まさか、この俺(おれ)が婚活(こんかつ)をすることになるなんて思ってもいなかった。付き合っていた彼女と結婚(けっこん)するとずっと思っていたし、そうなるはずだった。俺は何を間違(まちが)えたのか? 今だに何で彼女に振(ふ)られたのか分からないし、納得(なっとく)できるわけがない。
でも、ここは吹(ふ)っ切らなくては…。いつまでも引きずるわけにはいかない。早く次(つぎ)の彼女を見つけて…。そうじゃないと、故郷(こきょう)の両親(りょうしん)や親戚(しんせき)のおばちゃんが縁談(えんだん)を勝手(かって)に進(すす)めて、田舎(いなか)に戻(もど)るはめになってしまう。それだけは何としてでも避(さ)けなければ…。
俺は結婚相談所(そうだんじょ)で何人かの女性と会ってみた。でも、会うたびに結婚のハードルが高くなっていくのを感じた。俺にできるのか? 俺には女性の気持ちなど理解(りかい)できない。俺には、結婚なんかむいてないのかもしれない。不安(ふあん)が募(つの)るばかりだ。
そんな時、次の相手(あいて)を紹介(しょうかい)された。写真(しゃしん)を見て驚(おどろ)いた。とても美(うつく)しい女性だ。俺は思わず呟(つぶや)いた。「何でこんな娘(こ)が婚活してるんだ? こんな可愛(かわい)いんだから必要(ひつよう)ないだろ」
見合(みあ)いの当日(とうじつ)。彼女を前にして思ってしまった。写真通(どお)りの女性だ。修正(しゅうせい)とかしてなかったんだと…。これは掘(ほ)り出し物(もの)かもしれない。ここは正攻法(せいこうほう)でいくべきか?
でも、彼女は挨拶(あいさつ)をかわしただけで、それ以上(いじょう)何もしゃべらなくなった。俺が何を話しても相(あい)づちを打(う)つだけだ。こんな女性は初めてだ。恥(は)ずかしがり屋(や)なのか…。それとも、これは作戦(さくせん)で…こっちのことを値踏(ねぶ)みしてるのか? これは…どうする?
<つぶやき>あのね、そんな気持ちで向き合ってはダメかもね。真摯(しんし)に取り組(く)みましょう。
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