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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0009「運命の赤い糸」

2024-10-21 16:38:45 | 読切物語

「まだそんなこと信じてるのか?」と英太は呆れ顔で言った。
「いいでしょ」さよりは口をとがらせて、「私の子供の頃からの夢なんだから」
「おい!」と後ろから突然声がして、哲也が二人の間に割って入った。「おまえらな、さっきから呼んでるのに、気づけよな。で、なに楽しそうに話してたんだよ」
「別にたいしたことじゃないけどさ」英太はにやにやしながら、「こいつが…」
「ちょっと」すかさずさよりが話を断ち切り、「余計なこと言わないで。もし、しゃべったら、ほんとに怒るからね」そう言って、さよりはぷいっと走り去った。
 さよりを見送った英太は、ちょっとした悪戯を思いついた。それは、さよりの夢をかなえてやること。哲也を巻き込んで、極秘作戦がスタートした。
 日曜の朝。鳥かごを抱えた哲也は、英太の部屋に入るなりつぶやいた。
「なあ、ほんとにまずいよ。もし、姉ちゃんにばれたら、俺、殺されるから…」
「心配すんなって。どうせ姉ちゃん、仕事でいつ帰ってくるかわかんないんだろ。大丈夫だって。ちょっと、塗るだけだよ」そう言うと、英太は青いマジックを取り出した。
「ちょっ、待てよ!」驚いた哲也は英太の腕をつかんで、「マジックじゃ、消えないだろ」
「だって、白い文鳥じゃ意味ないじゃん。この作戦には青い鳥が必要なんだ」
「いや、そう言うことじゃなくて…。もし、ピー子に何かあったら…」
 哲也の心配をよそに、英太はピー子をまだらな青い鳥に塗り替えた。
 その日のうちに、英太はさよりを近くの海岸に呼び出した。砂浜は人もまばらで、さよりを見つけるのは簡単だった。岩陰で待ち伏せしていた二人は、速やかに作戦を実行した。
「ねえ、こんなとこに呼び出して、話ってなによ?」さよりはわざと迷惑そうに言った。でも、急に呼び出されたのに、しっかりおしゃれをして来たことは誰が見てもわかった。
「あの、実は…」英太はそう言いながら、後ろ手で哲也に合図を送った。哲也は赤い糸を鳥の足に結びつけるのに手間取ったが、慌ててピー子を放した。ところが、逆の方向に飛んで行ったピー子を見て、哲也は思わず立ち上がり、「ああっ!」と叫んでしまった。
 ピー子はぐるりと旋回すると、さよりに向かって飛んできた。さよりはそれを見てすべてを理解した。哲也は慌ててピー子を追いかける。赤い糸がひらひらと宙を舞っていた。
 三人はピー子を捕まえようと、砂浜を走り回った。ピー子は英太の手をすり抜けて、さよりの肩に止まった。英太の腕には赤い糸が絡みついていた。
 その時、突然女性の叫び声が聞こえた。その女性の姿を見た哲也は、震え上がり腰を抜かした。さよりの肩に止まっていたピー子は、赤い糸を器用にほどいて飼い主の方へ飛んで行った。そして、それを追いかけるように、鳥かごを抱えた哲也も走り去った。
 砂浜に残された英太とさよりは、しばし見つめ合い…。さよりは赤い糸を巻き取りながら英太に近づいて、にっこり微笑んだ。次の瞬間、さよりの平手が空を切った。
 次の日。哲也の顔には何枚も絆創膏が貼られていた。英太とさよりは、昨日のことが嘘のようにいつも通りだ。でも、さよりの筆箱には、昨日の赤い糸が大切に入れられていた。
<つぶやき>子供の頃のたわいない夢。でも、その夢を忘れなかった人は、幸せかもね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。

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0008「女の切り札」

2024-09-26 17:27:42 | 読切物語

 純子は一人、部屋でパソコンとにらめっこをしていた。彼女はフリーのライターをしているのだが、締切が間近に迫っていてあせっていた。今、彼女の頭の中は完全に煮詰まっていて、昨夜から一睡もしていないのだ。こんな時、彼女は豹変する。
「ただいまぁ…」夫の隆が残業を終えて、静かにドアを開けて帰ってくる。
 この二人、最近結婚したばかりなのだが、彼女の仕事が立て込んでいて、いまだに新婚生活を味わっていなかった。この部屋も彼女が引っ越しが面倒だと言うので、彼の方から越してきたのだ。でも、隆は満足していた。だって、彼が住んでいた部屋より、こっちの方が断然広いのだ。
 彼は純子の仕事について理解しているつもりだった。でも、一緒に住んでみて、その大変さに驚いた。だから、彼女が仕事に没頭しているときは、家事のほとんどを彼が担当することになった。
 今日も仕事中に彼の携帯が鳴り、夜食の買い物を言いつけられた。でも、彼はそれを嫌がることはなかった。隆は純子のことを愛していたし、大切に思っていたのだ。
 彼は純子の仕事部屋をちらっとのぞいてから、キッチンへ向かった。テーブルの上にエコバッグを置き、流しを見て驚いた。昼食の残骸が無残にも投げ込まれていたのだ。
 彼はため息をついた。その時、突然後ろから声がした。「何なのこれ?」
 隆が振り返ると、穴蔵から抜け出したような、うつろな目をした純子がエコバッグからカップ麺を取り出していた。その目には、ただならぬものが感じられた。
「私は醤油味を頼んだのよ。何でとんこつ味を買ってくるの?」
「だって、ちょうど売り切れてたから」隆はヤカンに水を入れながら答えた。
「私は今、醤油味を食べたいの。それ以外あり得ないから」
「いいじゃない。これだって美味しいって、このあいだ…」
「そりゃ、とんこつも美味しいわよ。でも、今は醤油なの。醤油味を食べたいの!」
「そんなのいいじゃん。美味しけりゃ、同じだって」隆は無頓着な人間のようだ。
「買ってきて」純子はエコバッグを隆に突きつけて、「今すぐ買ってきて!」
 隆は純子のわがままには慣れっこになっていた。でも、何故か今日はぷつっと切れた。
「お前な、いい加減にしろよ! 前から言いたかったんだけど…」
「なによ」純子は動じる様子もなく、彼を睨みつけた。隆は一瞬ひるんだが、
「前から言いたかったんだけど…、朝食の目玉焼きに醤油なんかかけるなよ。目玉焼きはケチャップだろ。僕がせっかく美味しく作ってるのに…」
「なに言ってるの」純子は鼻で笑って、「目玉焼きは醤油じゃない。常識でしょ。それより、早く行ってよ。15分だけ待っててあげる。もし、ちょっとでも遅れたら、もうこの部屋には二度と入れないから」
「何だよ…」隆は背筋に冷たいものが走るのを感じた。今の彼女は何をするかわからない。
「分かった。行ってきまーす」隆はそう言うと、部屋から飛び出していった。
<つぶやき>隆、負けるな。いつかきっと、報われる時が来るから。たぶん…。
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0007「最強の彼女」

2024-08-29 16:43:21 | 読切物語

 やよいは両親を早くに亡くして、母方の祖父母のもとで育てられた。祖父母の家は道場をやっていて、柔道や空手、剣道、居合道、なぎなたなど、あらゆる武術を教えていた。やよいは淋しさを紛らわすように、小さい頃から武術の稽古に熱中した。そして、今では師範と呼ばれるほどに成長し、屈強の男でも彼女には太刀打ちできなかった。
 やよいは母親に似て可愛い顔立ちで、おしとやかとはいえないが優しい心を持っていた。でも、やよいと付き合おうとする男たちは、彼女の最強ぶりを知ると、怖じ気づいてしまうのかすぐに逃げ出した。そこで、やよいは決心した。今度付き合う彼には、絶対に強いところは見せないと。そして、おしとやかな女性になるために、お茶やお花を習い始めた。
 出会いは突然おとずれた。習い事の帰り道、やよいは引ったくりに襲われた。いつもなら簡単にねじ伏せてしまうのだが、着物を着ていたし、油断もあったのでひっくり返ってしまったのだ。ちょうどそこに居合わせた人が、犯人に体当たりをしてバッグを取り戻してくれた。その人はやよいを助け起こすと、バッグを手渡した。やよいはその人の顔が間近にきたとき、その優しそうな眼差しにうっとりとした。道場に来ている厳つい男たちとは、あきらかに人種が違うのだ。
 やよいのアタックは素早かった。口実を作って彼の連絡先を聞き出すと、毎日のように電話した。そして、いつの間にか二人の気持ちはつながった。やよいは彼と一緒にいると、居心地がよすぎて時間を忘れてしまうほどだ。でも、腕力だけは見せないように細心の注意をはらった。それでも、思わずお皿をへし折ったりしたが、そこは上手くごまかした。
 付き合い始めて一年目のこと。「結婚しようか」と彼が口にした。やよいは突然のことに、何度も聞き返した。そして彼女は、涙ぐみながらも、「はい」と返事をした。
 その日、やよいは夢見心地で家に帰った。家では、強面の男たちが彼女を出迎えた。彼らは道場で修業している弟子たちで、一緒に暮らしていて家族同然の存在だった。彼らを目にして、やよいは我にかえった。<結婚するってことは、彼をここに連れてきて…>
「わーっ!」やよいは思わず叫んだ。「どうしよう。また、嫌われちゃうわ」
 朝まで、やよいは一睡もできなかった。悩んで、悩んで、悩んだあげくに、彼女は心を決めた。彼に本当のことを言おう。彼なら私のことを受け止めてくれる、そう信じた。
「あの…、あのね」やよいは彼を前にして口ごもった。いざとなると、最悪の状況が頭に浮かび、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
「今度さ、僕も習い事を始めようと思って」と彼は照れくさそうに言った。「ほら、やっぱり健康が一番だろ。得意先の近くに、いい道場を見つけたんだ」
「道場!」やよいは思わず叫んだ。「えっ、何をやるのよ?」
「子供の頃、少しだけ柔道をやってて。そこの道場、初心者にも教えてるみたいなんだ」
「そうなんだ。柔道、やってたんだ。知らなかったわ」やよいは少しだけほっとした。
「鬼塚道場っていって、たぶん君の家の近くだと思うんだけど。知ってる?」
 やよいは道場の名前を聞いて凍りついた。<鬼塚道場って、私の家じゃない!>
<つぶやき>正直が一番なんですけど。誰にでも知られたくないことってありますよね。
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0006「幸せの一割」

2024-07-31 17:08:57 | 読切物語

「ねえ、ここに置いといた今月分の家賃、持っていったでしょう。返して!」
「いいだろ。金がいるんだ。また、銀行からおろしてこいよ」
 安男はそう言うと、ふいと出て行ってしまった。残された佐恵子はため息をついた。
 二人は付き合い始めて五年。安男は、以前はとても優しい男だった。それが、一緒に暮らすようになると、彼はまったく働かなくなり、遊ぶ金欲しさに佐恵子に無心する始末。さっさと別れてしまえばいいのだが、彼女にはその決断をすることが出来なかった。
 銀行への道すがら、佐恵子は不思議な占い師に出くわした。その女占い師は客待ちしているでもなく、分厚い洋書を開いて、読むでもなく目を落としていた。
「ちょっと、あんた」と占い師は、ちょうど前を通りかかった佐恵子を呼び止めた。
「あんた、悩み事があるね。占ってあげよう。ここに、お座りなさい」
 佐恵子は言われるままに、ふらふらと座ってしまった。まるで、何かに引き寄せられるように。占い師は大きな天眼鏡で佐恵子の顔を覗き込んだ。
「なるほど」と占い師はつぶやいて、「男が悩みのタネか…」
「えっ、わかるんですか? 私の…」
「これでも占い師のはしくれだからね。今の男との相性は悪くはない。ただ、位置がよくないね。このままだと、どちらかが傷つくよ。ひとつ、私の言う通りにやってみるかい。そうすれば、運気が変わるかもしれない」
 占い師は彼女に助言を与えた。それは、いつでも笑顔でいること。そして、彼の言うことは何でもかなえてあげること。これを聞いて、佐恵子はまた、ため息をついた。
「お金のことなら心配ないよ」と占い師は言った。「それと、見料だけど。あんたの幸せの一割をいただくよ。それでいいかい」
 佐恵子はわけも分からずうなずいた。何だかキツネにつままれたような、変な感じだ。
 占い師と別れた彼女は銀行でお金をおろし、ふと通帳を見て驚いた。預金の残高が増えていたのだ。通帳をよく見ると、エンジェルの名で大金が振り込まれていた。
「まさか、あの人が…」と佐恵子はつぶやいた。「エンジェル?」
 佐恵子は占い師に言われたように、その日から実行することにした。いつも笑顔で、そして彼の言うことは何でもかなえてあげた。すると不思議なことに、安男は毎日きちんと帰ってくるようになり、喧嘩をすることもなくなった。でも、まだ佐恵子は不安だった。
 佐恵子はふっと、別れぎわに占い師が言った言葉を思い出した。
<最後の仕上げは、何でもいいからお願い事をしてごらん。まず、些細なことからはじめて、少しずつ増やしていくんだ。そこまで行けば、もう男はあんたのものさ。>
 安男は初めのうちは嫌々だったが、そのうち、安男の方から用事はないかと聞くようになった。この頃にはもう、安男は以前の優しい男に戻っていた。仕事もするようになり、生活にゆとりが戻ってきた。そこで、佐恵子は一番のお願いをした。「私と結婚して!」
 この後、二人は幸せに暮らした。でも、佐恵子にはひとつ悩みが残った。それは、あの時の占い師に見料をどうやって払えばいいのか。あれ以来、一度も会えないままなのだ。
<つぶやき>こんな占い師がいたら、私にも良い人が見つかるかも。会ってみたいなぁ。
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0005「夢の中の君」

2024-07-05 17:57:33 | 読切物語

 夜中の二時、慎吾は夢にうなされて目を覚ました。ここ一週間というもの、毎晩おなじ夢をみていた。いま住んでいるアパートにいて…。その部屋は、家具の配置から何もかも現実とまったく変わらなかった。ただ違うのは、小夜という名の女がいて…。夢の世界では、その人と結婚していて、一緒に食事をしたり、たわいのない話をしていたようだった。<ようだった>と言うのは、慎吾自身、断片的にしか夢を思い出せないのだ。でも、とてもリアルな、本当に二人で暮らしている感覚が、目が覚めてからも消えずに残っていた。
 慎吾には結婚を約束している彼女がいた。とても明るくて優しい女性で、もとは同じ職場で働いていたのだが、今は配属が変わって別の課になってしまった。
「ねえ、大丈夫?」目を覚ました慎吾に、ひかるは優しく声をかけた。「今日は病欠だって聞いて、びっくりしちゃった。昨夜も、なんかおかしかったし、心配したんだからね」
「ひかる? どうして…」慎吾はうつろな目でひかるを見つめた。
「ふふ…、合い鍵、使っちゃった。ねえ、何か作ろうか? お腹、すいてるでしょ」
 ひかるはそう言うと、スーパーの袋を持ってキッチンに入って行った。ひかるは何度もここで料理をしているので、どこに何が置いてあるのかすべて分かっていた。でも、今日に限ってその配置が変わっていた。「ねえ、置き場所、変えたの? いつもと違うわ」
 ひかるはあちこち探し回ったりして手間取ったが、手際よく調理をすませると、
「慎吾、出来たわよ。起きて」ひかるはうつらうつらしている慎吾に呼びかけた。
 慎吾はだるそうに身体を起こすと、「ああ…、お帰り。小夜」とつぶやいた。
「なに?」ひかるはちょっと首をかしげたが、「もう、寝ぼけてるでしょう」と聞き流した。
「えっ、僕、何か言ったか?」慎吾はひかるの顔をじっと見つめて、「君は…」
「ねえ、ほんとに大丈夫? 病院、行った方がいいんじゃない?」
「ああ、大丈夫だよ。薬のせいさ。それで、ぼうっとしているだけさ」
 ひかるはますます心配になってきた。ここ一週間、彼の行動が変なのだ。二人で話をしていても、急に眠ってしまったり。二人で行ったことのない場所なのに、一緒に行ったみたいに話をすのだ。もちろん、ひかるには身に覚えはない。だが、話をよく聞いてみると、それは昔の話しではなく、ごく最近の話なのだ。もしかしたら、他に誰かと付き合っているの…。ひかるはそんな考えがうかぶたびに、<そんなことない>と打ち消してきた。
「やっぱり、病院に行こうよ。これ食べたら、私が連れてってあげる」
「でも、僕はここにいないと」慎吾はひかるの作った食事をゆっくりと食べながら、「もうすぐ、帰ってくるんだ。だから、待っててあげないと」
「えっ、誰が来るの?」ひかるは不安になって、「はっきり言ってよ」
 その時、玄関の扉が開いた。慎吾は玄関に目をやり、「お帰り。小夜」と言って微笑んだ。
 ひかるが驚いて振り返ると、そこには見たことのない女が立っていた。
「あなた」女は慎吾をそう呼ぶと、「起きてて大丈夫なの? 寝てないとだめだよ」
 ひかるは意識が遠くなっていくのを感じた。ふっと手を見ると、向こう側が透けて見えた。そして、ひかるの身体も透き通ってきて、ついに夢のように消えてしまった。
<つぶやき>自分は本当にそこにいるのか、それとも…。自分の存在に自信あります?
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